ヒトの脳組織を冷凍保存できる薬品見つかる?1年半後に解凍して問題なし

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中国・上海市にある復旦大学の研究チームが、凍結状態にしたヒトの脳組織を、解凍後再び機能させることができる化学薬品の調合に成功したとする研究を報告した。

一般に、有機物にとって凍結は腐敗の防止には役立つが、内部の水分が凍る際にできる結晶が組織にダメージを与えてしまう。冷凍した肉や魚が、解凍後にくたびれた感じになってしまうのも、そのせいだ。

この問題は、移植や研究のために冷えた状態におかれた臓器その他の生体組織でも同様に発生する。

生命科学分野のオープンアクセス論文誌Cell Reports Methodsに報告された論文によると、中国・上海の復旦大学の研究チームは、生きた脳組織の保存を可能とするため、凍結時に組織にダメージを与えないようにするための化学物質について調査した。

この研究では、研究用に培養されたヒトの脳組織いわゆる脳オルガノイドを、サンプルごとに砂糖や不凍液などをはじめ様々な薬品を調合した液体に浸したのち、液体窒素で凍結させた。そして24時間後に温水で速やかに解凍し、その組織が持つ機能や成長、時間経過にともなう細胞損傷の状態などを調べた。

そしてチームは、実験の結果から効果の高かった薬品をピックアップし、配合を変えて同様の実験を繰り返すことで、最終的に最も効果的で有望な化学調合薬を導き出した。

その薬品は、メチルセルロース、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、Y27632(細胞死抑制効果のある試薬)の4つの主成分から成り立ち、頭文字を取って「MEDY」と名付けられた。

Image:Weiwei Xue et al.

チームは、脳オルガノイドを4週間~3か月間培養したいくつかのサンプルをMEDYに浸してから凍結させ、解凍後数週間にわたって観察したところ、凍結していない脳オルガノイドと同様の機能パターンを示し、普通に成長する様子が確認できたという。また、あるサンプルは、18か月ものあいだ凍結された後に解凍されたが、やはり上記と同様の組織損傷防止効果がみられた。

さらに、チームはてんかんを持つ9歳の患者から採取した脳組織サンプルにも、同様の実験を施してみた。その結果、解凍後のサンプルはてんかんに特有の状態も再現したとのことだ。

これはつまり、凍結解凍プロセスがその組織にダメージを与えないため、研究や分析のための組織サンプルを良好な状態で長期保存できることを意味する。研究例が大幅に増え、より大きな組織の保存が可能になっていけば、いつか脳全体の凍結保存が可能になるときも来るかもしれない。

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