悪質ホスト問題、バラエティ番組が「現実を覆い隠す」 被害者支援団体がABEMAに「公開質問状」

歌舞伎町(2023年1月下旬/富岡悠希撮影)

悪質ホストをきっかけとして海外出稼ぎ売春に斡旋される問題が国会でも取り上げられる中、メディアのホストクラブの取り上げ方にも関心が集まっている。

特にホストクラブをきらびやかな舞台としてあつかうテレビ番組などのコンテンツは、ホスト自身のSNS発信とともに、女性が来店するきっかけの中心だからだ。

この問題で被害者支援にあたる団体は今年5月上旬、「ホストクラブの現実を覆い隠す内容になっている」として、ある番組の制作サイドに公開質問状を出して、番組制作における見解をただした。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●若い女性がホストに関心を持つ入口の1つなっている

質問状を送付したのは、一般社団法人「青母連」(玄秀盛代表)。昨年7月に設立されて、今年4月末までの9カ月で、当人や親などの被害者から450件以上の相談電話を受け、70組以上の面談を実施してきた。

その中で、若い女性がホストに関心を持つ入口の一つが、メディアが取り上げるコンテンツだと気付いたという。「カリスマホスト」や「イケメンホスト」などと、一部のホストを持ち上げ、売掛などの実態を踏まえず、「No1ホストの営業手口」を紹介するようなものだ。

ホストクラブの代表者自身が認めているように、業界はトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)と関係を持ってきた。慎重な取り上げ方をすべきだが、青母連はこうしたコンテンツが若い女性のホストクラブに対する敷居を下げたと分析している。

若年層のネット重視も踏まえ、今回、インターネットテレビ局「ABEMA(アベマ)」が昨年より放送している番組に注目した。具体的には、ドキュメントバラエティ番組『愛のハイエナ』のコーナーの1つ「山本裕典、ホストになる。」だ。

この番組のシーズン1では、俳優の山本裕典さんが新宿・歌舞伎町でホスト修行に乗り出す。今年4月から放送のシーズン2では「今度は大阪屈指の繁華街ミナミでホストの高みを目指す!」(ABEMA内での番組紹介)。大阪編の第1弾は、この記事を執筆している5月中旬時点で「99万視聴」されている。

●支援者団体は「愛のハイエナに関する公開質問状」を送付した

青母連は5月7日付で、〈ABEMA番組「愛のハイエナ」に関する公開質問状」を送付した。

質問状では「ホストの売掛などによって身体的、心理的に追い込まれている女性が多数います」「ホスト通いが長期化すればするほど、風俗産業へと斡旋され、国内にとどまらず海外の性産業へも従事させられます」と記載。「女性を搾取している構造は、一目瞭然です」としたうえで、番組が「ホストクラブの現実を覆い隠す内容になっていると青母連では考えます」と指摘した。

さらに「当番組の視聴者は多く、当番組がホストクラブやホストに関心を持つきっかけの一つになったという話を相談女性からも聞き及んでいる」とし、以下の質問を投げかけた。

文意を損なわない程度で要約した質問は、以下の通り。

1)昨秋、衆院本会議の代表質問で岸田文雄首相が、悪質ホスト問題への対応を「しっかり行ってまいります」と答弁した。この発言について認識していたか、否か。認識していた場合は、番組制作において意識したり、反映したりしていることがあったか。

2)昨今、ホストに通っている女性が経済的に、性的に搾取されている報道が出ている。この点について、どの程度把握し、番組制作に反映しているのか。

3)昨冬、新宿区長との会見で、ホストクラブオーナー側代表がトクリュウとの「関係を断絶する」と発言した。(筆者注ABEMAを運営する)サイバーエージェントはホームページで「法令順守」を明記し、(同出資している)テレビ朝日もホームページにある「番組向上への取り組み」にある「出演契約における反社会的勢力排除についての指針」で、「テレビ朝日においても、日本民間放送連名加盟社として、(中略)指針を基本指針とします」としている。反社会的勢力と関係があるホストクラブをドキュメンタリーバラエティとして制作することをどう考えているか?

4)青母連では最近、大阪のホストクラブからの被害相談が増えている。当番組のシーズン2が、大阪を舞台にしている意図は何か?

5)青母連に寄せられる、多くの相談者の当事者が20歳前後。ホスト産業が、女性の未来と、家族関係を破壊していることについてどのように考えるか? 番組制作を進めるうえで、こうした点を踏まえて議論しているか?

6)ホストが女性をマインドコントロール下に置くため、マニュアルを用意していたことは認識しているか? 当番組が舞台とするホストクラブが、YouTubeでマニュアルを喧伝していたホストのホストクラブだという認識はあるか?

7)企業の社会的責任(CSR)が問われる現在、報道番組も持つメディアとして当番組を制作、配信することの意義はどのようなものか?

●Abema広報「今後の番組制作に向き合い、活かしてまいります」

宛先は、AbemaTV会長の早河洋氏(テレビ朝日会長・CEO兼社長・COO)、同社長の藤田晋氏(サイバーエージェント代表)、AbameTV広報、『愛のハイエナ』企画・演出・ディクレータの橋本和明氏の4カ所とした。

このうち締め切りとした5月17日、ABEMA広報から、次のような回答があったという。

「お問い合わせにつきましては、番組内容に関する詳細な回答は差し控えさせていただきますが、ABEMAでは、番組制作における基準や法令・ルールを独自に設定し、番組を制作しております。いただいた内容を踏まえ、今後の番組制作に向き合い、活かしてまいります」

●「被害につながるような番組制作は即刻やめるべき」

回答を受け取った青母連・事務局長の田中芳秀さんは、取材に対して「悪質ホスト問題の状況をまったくわかっていないと考えざるを得ず、極めて残念」とし、次のように続けた。

「この番組のように『おもしろ、おかしく』ホストクラブを取り上げることは、悪質ホストの被害者を生む間口を広げてしまうことになる。番組からホストに興味を持ち、たった一度でも行ってしまうと、手口を研ぎ澄ませているホストから嵌められる。

被害女性は誰もトラブルに巻き込まれるつもりはなかったが、いつしかカルト宗教と同じく抜け出せなくなり、性的に搾取されている。

これまでもメディアは、いろいろなバラエティ番組やドラマで『ホストもの』を作ってきた罪がある。せめてホストの悪質さが明らかになってきた今は、被害につながるような番組制作は即刻やめるべきだ。青母連としても、引き続き、世の中にうったえていきたい」

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