頼氏が新総統に就任 台湾への脅しをやめるよう中国に呼びかけ

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者(台湾)

台湾で20日、民主進歩党(民進党)の頼清徳氏(64)が総統に就任した。頼氏は演説の中で中国に対し、台湾を脅すのをやめ、その民主主義の存在を受け入れるよう呼びかけた。

また、中国政府に対立から対話に移るよう求める一方で、台湾が中国からの威圧に降参することはないと語った。

台湾は独立国家を自認しているが、中国は台湾を、自国から分離した省で、いずれは再び中央政府の支配下に置かれるべきだと考えている。

中国は頼氏を「分離独立論者」として嫌っている。

中国は近年、台湾への圧力を強めている。台湾周辺の空域や水域では、中国による軍事的介入が頻繁に起こっており、紛争の火種になると恐れられている。

頼氏は演説の中で、中国のこうした態度を、「世界の平和と安定に対する最大の戦略的挑戦」と呼んだ。

一方で頼氏は、前任者の蔡英文氏が残した、慎重かつ安定した中国への対応を続けるとしている。

医師から政治家に転身した頼氏は、今年1月に行われた三つどもえの総統選に勝利。民進党政権は前例のない3期目に入る。

頼氏は2020年からは副総統として、それ以前は行政院長(首相)として、蔡政権を支えてきた。だが、キャリアの初期に、より急進的な政治家として台湾独立を公言していたため、中国に嫌われ、中国政府は総統選の前、頼氏を「トラブルメーカー」と呼んだ。中国国営メディアは、分離独立の罪で起訴すべきだとさえ報じていた。

中国政府はまだ、頼氏の総統就任については声明を発表していない。だが、在英中国大使館は先週末に記者会見を開き、イギリス政府に新総統を支持しないよう求めた。先週初めには中国の国務院台湾事務弁公室が、台湾の新しい指導者は、平和的な発展と対立、どちらを望むのかという問題を「真剣に」考えなければならないと警告した。

そして中国の商務省は頼氏の就任に合わせ、「台湾への武器売却」に関わったとして、アメリカの複数企業に対する制裁を発表した。

しかし頼氏のこの日の発言は、はるかに融和的なものだった。現状を変えるようなことをしない、つまり、憲法と主権政府があるにもかかわらず、国家として認められないというあいまいな外交状態を変えるようなことはしないと繰り返した。中国はこの状態の維持を主張しており、アメリカなどの主要同盟国が、台湾を支持することでこの微妙な合意を変えていると非難している。

頼氏は平和と安定を約束するとともに、中国人観光客の来台を含む、台湾海峡の航行再開を望んでいると話した。その半面、台湾の人々は中国の脅威についていかなる幻想も抱いてはならず、台湾は防衛をさらに強化しなければならないと述べた。

これもまた、蔡氏の政策の継続だ。蔡前総統は、国防を強化し、アメリカや日本といった主要同盟国の支持を取り付けることが、中国の侵攻計画を抑止する鍵だと信じていた。蔡氏に反対する人々は、軍事投資こそ中国を刺激する危険をはらんでおり、台湾をより脆弱(ぜいじゃく)にすると指摘していた。

それにもかかわらず、台湾の年間防衛費は蔡政権下で約200億ドル(約3兆1000億円)まで引き上げられた。頼氏は、これをさらに増額すると約束している。台湾は新たな戦車を購入し、F-16戦闘機を更新し、その新型も購入し、全長160キロの台湾海峡をパトロールするため、新しいミサイル艇団を建造し、進水させた。昨年9月には、蔡氏が自らの軍事プログラムの偉業と見なした、初の自主建造潜水艦を披露した。

台湾に協力する諸国も、頼氏の論調が緊張悪化につながりはしないか、注視している。頼氏の注意喚起は、アメリカにも向けられていた。新たに副総統となった蕭美琴氏(52)も、蔡氏一派の一人とされており、アメリカ政府にとってはその存在もまた安心材料のひとつだ。蕭氏は日本で生まれ、アメリカで育ち、過去3年間は台湾の駐米代表を務めていた。

頼氏は内政にも大きな課題を抱えている。民進党は1月の総統選で、失業と生活費の問題から若年層の票を逃した。台湾経済は、大成功を収めている半導体産業に大きく依存していると言われており、世界の半導体の半分以上を供給している。

民進党は立法院(議会)で過半数議席を確保していないため、議会と頼政権との蜜月期間は望めないだろう。先週末には、改革案をめぐって議会内で乱闘騒ぎが起こり、その対立がクローズアップされた。この苛烈な論争とそれに続く抗議行動が、頼氏の演説を台無しにした。

だが、中国政府とどのように付き合うかが、頼氏の任期を左右する最大の問題となるだろう。中国と台湾は2016年以来、正式な対話をしていない。

就任式に参加した弁護士のシュウ・チミン氏はBBC中国語に対し、台湾は蔡氏の下で首尾よくやっていたが、中国と「良いコミュニケーション」を維持する必要があると話した。

「頼氏は自らを『台湾独立の実践者』だと言っていたが、彼がそれを強調しすぎて中国との関係を悪化させないことを願う」と、シユウ氏は述べた。

「そうでないと、戦争が始まったら私たちはみな逃げられないので」

(追加取材:ジョイ・チャン、BBC中国語)

(英語記事 'Stop threatening Taiwan', its new president William Lai tells China

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