『あぶない刑事』はなぜ愛され続ける作品となったのか “永遠にカッコいい”タカ&ユージ

タカ&ユージが帰ってきた。1986年のテレビシリーズ放送開始から、なんと38年。シリーズ8年ぶりとなる新作映画『帰ってきた あぶない刑事』が公開される。

さらに、東映チャンネルでは、映画の公開を記念して、『あぶない刑事』『もっとあぶない刑事』が一挙放送されるほか、『あぶない刑事』シリーズのスタッフ・キャストが引き継がれて製作されたドラマ『勝手にしやがれ ヘイ!ブラザー』が6月に放送。“あぶ刑事”の世界にどっぷりと浸かることができる5月、6月となる。

●空前絶後の刑事ドラマとなった『あぶない刑事』

『あぶない刑事』の主人公は、舘ひろし演じる“タカ”こと鷹山敏樹刑事と、柴田恭兵演じる“ユージ”こと大下勇次刑事。ダンディーでセクシーな2人が大活躍する刑事ドラマ『あぶない刑事』は、映画とドラマの枠を超え、さらに昭和、平成、令和と3つの時代を超えて、多くのファンを魅了している。

最初のテレビシリーズは当初2クールの予定だったものの、放送開始直後から爆発的な人気となって1年に延長。続編『もっとあぶない刑事』(1988年)は最高視聴率26.4%を記録した。劇場映画の第1作『あぶない刑事』(1987年)は興行収入26億円の大ヒットとなり、最新作を含めると8本の映画が制作された。サントラは17枚も発売され、ファミコンゲームまでリリースされている。こんな刑事ドラマは空前絶後だ。

『あぶない刑事』のいったい何が人々の心を惹きつけてきたのか、あらためて考えてみたい。

『あぶない刑事』はまったく新しいタイプの刑事ドラマだった。ファッショナブルで、スタイリッシュで、スマートで、コミカルで、ハードボイルド。つまり、こういうカタカナが似合う刑事ドラマである。

それまでにも刑事ドラマは数多く作られてきたが、主人公の刑事たちは、いつも泥臭く、粘り強く、時には暴力、時には人情で事件を解決してきた。犯人の動機や背景に焦点を当てたストーリーも多く、ドラマ全体から悲壮感が漂っていた。

一方、『あぶない刑事』の主人公の2人は、デザイナーズブランドのソフトスーツに身を包み、サングラス姿で現場にやってくる。いつも軽口を叩き(目の前に死体があっても!)、犯人を見たら、ためらいなく拳銃を抜いて発砲する。必要以上に犯人に感情移入したりしないから、マシンガンだってショットガンだってぶっ放す。

タカとユージは、正義感はきっちりあるし、ちゃんと人情もあるのだが、いつもカラッとしていて、ピンチに陥っても悲壮になりすぎず、どこか余裕を残している。そんな“ノリの良さ”が80年代後半という高揚した時代の雰囲気と実にマッチしていた。舘ひろしは「日本の刑事ドラマで初めて悲壮感を否定した新しいドラマ」と語っている(日刊スポーツ 2016年1月28日)。

音楽も、従来のオーケストラやビッグバンドによる劇伴ではなく、ボーカル入りの挿入歌が効果的に使用され、オムニバス形式のサウンドトラックが発売された。これは当時の洋画が採っていた手法で、同じく小比類巻かほるらEPICソニーのアーティストが起用されたアニメ『シティーハンター』(1987年)にも受け継がれた。

●“最強のバディ”と呼ぶのにふさわしいタカとユージ

『あぶない刑事』の魅力は、タカとユージの名コンビぶりに尽きる。そう断言しても誰も異論は唱えないだろう。

クールで正義感が強く、銃と女性の扱いに慣れているタカと、身のこなしも会話も軽いが、理知的な一面も持つユージ。お互いをよく理解し合っていて、息もぴったりの2人は、まさしく“最強のバディ”と呼ぶのにふさわしい。近年のバディものを愛好している視聴者が初めて『あぶない刑事』を体験したら、とろけてしまうのではないだろうか。

息が合っているから行動もスピーディーだ。『あぶない刑事』第2話「救出」では、生意気な容疑者に向かって揃ってサングラスをかけて不敵な笑みを浮かべたかと思えば、次のシーンでは射撃場で銃を撃ちまくって容疑者を震え上がらせる。無茶苦茶だが、2人はお互いにいちいち行動を説明したり、相手を咎めたりしないのである。

どちらかが窮地に陥れば、全力で救出に向かう。本物のバディを目の当たりにすると、“信頼”とか“絆”とかという言葉すら物足りない。2人は命を分け合っている間柄だと言ってもいい。『あぶない刑事』第14話「死闘」では銃撃戦で瀕死の重傷を負ったユージをタカが必死になって救出する。第33話「生還」ではシャブ漬けにされたタカを助けるため、ユージは刑事の職分を放棄して犯人と取引しようとしていた。

とはいえ、やっぱり軽口は欠かさない。第20話「奪還」では2人で絶体絶命のピンチに陥るが、そんなときでも映画『明日に向って撃て!』を思い出しながら、お互いを「ポール鷹山」「ロバート大下」と呼び合っていた。さっきまで緊迫していたのに、急に冗談を言い合うような緩急が、『あぶない刑事』の独特のテンポを生み出している。

軽口といえば、2人のアドリブの多さも『あぶない刑事』の魅力のひとつだ。脚本はだいたいの方向性だけで、2人がアドリブを言う余白が残してあったのだという。楽屋落ちも多く、ユージがいきなり舘ひろしのヒット曲「泣かないで」を歌う場面もあった(『あぶない刑事』第31話「不覚」)。

タカとユージがずっと軽佻浮薄だったわけじゃない。タカは銀星会に憎しみを燃やしているし、ユージだって困った人は見捨ててはおけない男だ。バブル真っ盛りの時代に大人気を博したので、“トレンディドラマ感覚の刑事ドラマ”と言われることもあるが、それだけではないハードボイルドさ、熱さがあるのも『あぶない刑事』の魅力である。

●新しい刑事ドラマだったが、突然変異で生まれたわけではない

『あぶない刑事』第1話「暴走」や『もっとあぶない刑事』第12話「突破」などでは、タカとユージはゲーム感覚で犯罪を繰り返す若い世代の犯人と対峙している(後者でゲームプログラマーを演じていたのは若かりし頃の遠藤憲一)。舘ひろしと柴田恭兵が70年代から活躍している俳優であることも関係しているだろう。

また、タカ&ユージのような似た者同士で対等な関係のバディは、日本の映画・ドラマでは珍しかった。『傷だらけの天使』の萩原健一と水谷豊、『俺たちの勲章』の松田優作と中村雅俊など、バディものの名作も少なくないが、いずれも上下関係があったり、対照的なキャラクターだったりする。そんな意味でも『あぶない刑事』はエポックメイキングな作品だった。

これは洋画、あるいは海外ドラマの影響がある。脚本家の柏原寛司は、刑事バディもののエリオット・グールド主演の『破壊!』(1974年)や、はみだし刑事コンビが活躍する『フリービーとビーン/大乱戦』(1974年)などの影響を受けたと語っている。

『あぶない刑事』はまったく新しい刑事ドラマだったが、突然変異で生まれたわけではない。先行して日本テレビで放送されていた刑事ドラマ、アクションドラマの系譜の中で生まれた作品である。

●『あぶない刑事』は映画として作られたテレビドラマ

柴田恭兵が初めてドラマのレギュラーとして抜擢された『大追跡』(1978年)は、『あぶない刑事』と同じく横浜を舞台にした刑事アクション。コミカルな要素やアドリブの多さなどもよく似ている。やはり柴田が出演し、横浜を舞台にしたアクションドラマが『プロハンター』(1981年)である。こちらは主演の藤竜也と草刈正雄がバディという点も共通していた。

『大追跡』『プロハンター』『あぶない刑事』は、監督の長谷部安春、村川透、脚本の柏原寛司らのスタッフも共通している。監督らは、いずれも映画で活躍していたスタッフであり、これらのドラマはすべて16mmフィルムで撮影されていた。撮影スタッフの一人、柳島克己はその後、北野武監督作品のメインカメラマンとなって「キタノブルー」を生み出した。

なお、『プロハンター』と『あぶない刑事』は、黒澤満プロデューサーが率いるセントラル・アーツによる製作である。舘ひろしと柴田恭兵のコンビを発案したのも黒澤プロデューサーだ。同社は松田優作主演映画『最も危険な遊戯』(1978年)や、仲村トオル主演映画『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)も製作している。

つまり、『あぶない刑事』は映画として作られたテレビドラマだったと言えるだろう。派手なガンアクションやカーアクションはもちろんのこと、画面の奥行き、脚本など、すべて映画を志向して作られていた。だから、劇場映画になってもスクリーンサイズに違和感がない。もともとテレビドラマの枠を超えた作品なのである。

熱いファンに支えられ、『あぶない刑事』は、時を追うごとに進化していった。映画を2作挟んで製作された続編『もっとあぶない刑事』は、メンバーに変更がない分、チームワークが濃密になったキャスト陣がどんどん弾け出していくテレビシリーズだった。

特に顕著なのが、仕事熱心な少年事件担当の女刑事から破天荒なコミックリリーフへと変貌した真山薫(浅野温子)である。ユージとコンビを組むことが増えた「トロい動物」こと町田透(仲村トオル)の活躍も見逃せない。タカ、ユージ、カオル、トオル、そして近藤課長(中条静夫)という5人のコンビネーションがさらに冴え渡っていくのが『もっとあぶない刑事』である。“ナカさん”こと田中刑事(ベンガル)、“パパ”こと吉井刑事(山西道広)ら、港署の面々のパワーアップぶりにも注目したい。

『あぶない刑事』シリーズのスタッフ・キャストが引き継がれて製作されたドラマが『勝手にしやがれ ヘイ!ブラザー』(189年)だ。柴田恭兵がフリージャーナリストの兄、仲村トオルが司法浪人(実態はフリーター)の弟という設定で、さまざまな事件や騒動に遭遇するコメディアクションである。

中条静夫が2人の父親を演じるほか、『あぶない刑事』のセルフパロディも多い。なにより、港署の近藤課長、大下刑事、ナカさん、パパなどの名前も登場するので、今でいうところのシェアードユニバース作品と言えるかもしれない。『あぶない刑事』ファンなら必見の作品だろう。

テレビシリーズの『あぶない刑事』を振り返った後、あらためて『帰ってきた あぶない刑事』の70歳を超えたタカ&ユージをスクリーンでこの目に焼き付けておきたい。2人が最強かつ永遠のバディであることがよくわかるはずだ。

(文=大山くまお)

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