【小野賢章&富田美憂インタビュー】映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』は監督の経験が投影されているので主人公たちの悩みがリアル!

初の長編映画『ペンギン・ハイウェイ』(2018)で、第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した「スタジオコロリド」。長編第4弾となる映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』は“少年”と“鬼の少女”が紡ぐ青春ファンタジー。監督を務めるのは、スタジオコロリド長編第2弾となった『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)で長編監督デビューを飾った柴山智隆。主演は小野賢章と富田美憂で、小野は山形県に住む高校1年生の八ツ瀬柊(やつせ・ひいらぎ)、富田は鬼の少女・ツムギを演じる。公開を前に主演の2人にインタビューを敢行。作品への向き合い方について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

台本は自分の役に注目しながら読んでいく

──本作は「スタジオコロリド」の長編第4弾です。出演が決まったときの気持ちからお聞かせください。

小野賢章さん(以下、小野):僕は、以前スタジオコロリドさんの『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)に参加させていただきました。コロリドさんは“日常から非日常へ”というテーマを掲げていますが、その作品でも日常から非日常への行き方がとても自然で、本当にそういう世界があったらワクワクしますし、作品全体に流れる雰囲気が優しくて、素晴らしい作品に出会えてよかったと思っていました。今回、また、このようにオファーしていただいて、とてもうれしかったです。

富田美憂さん(以下、富田):私はスタジオコロリドさんとは初めてですが、『ペンギン・ハイウェイ』(2018)を劇場で拝見しています。ついこの間、見た気がするので、2018年だったということに驚きを隠せないです(笑)。

スタジオコロリドさんの作品に出させていただけるんだといううれしさを感じつつ、オーディションではなかったので、私で大丈夫なんだろうかという気持ちがありました。もちろんオーディションで選んでいただいても不安なときもありますが、今回は余計にそう感じました。

──どこのスタジオが作るかということは声をあてるにあたって、意識されますか。

小野:コロリドさんは画の雰囲気が柔らかいタッチなので、無意識のうちにお芝居に反映されているような気がします。

富田:スタジオさんによって作風や作画に「らしさ」があるのです。そこを感じられるのは役者としてはうれしいです。

──脚本を読んでいかがでしたか。

小野:台本は自分の役に注目しながら読んでいくのですが、ツムギと柊が出会って、一緒に旅をしていくうちに2人の距離が近づいていき、いろんな人に出会うことで視野が広がっていく。成長や変化を感じる物語だという印象を受けました。

富田:私も台本を読むときは自分が担当するキャラクターの主観で読んでいきます。2人がいろんな人と出会い、影響を受けて、どんどん成長していく姿が丁寧に描かれているので、幅広い世代の方の心に響くのではないかと思いました。

──役へのアプローチはどのようにされましたか。

小野:僕はどの作品でもそうですが、“このキャラクターはこういう声を出していそう”という第一印象を大事にします。声やお芝居はキャラクターが違えばセリフも違うので、自然に変わってきますし、むしろ意識的に何かを変えるということはしないようにしています。

ただ、今回は高校生。実年齢の半分ですから、若い声だけは作り込んでいます(笑)。

──第一印象は“台本を読んで”というよりも“キャラクターのビジュアルを見て”のものでしょうか。

小野:“キャラクターを見て”ですね。今回はオファーでしたが、オーディションのときは送られてきたセリフとキャラクターの設定資料を見て、その第一印象でパッと声を出してオーディション用の録音テープを作ります。それが合っていればそのまま進むし、現場で違うと指摘されれば、そこで修正する感じです。あまり悩むことはありません。

今回は収録にたっぷり時間を掛けていただいたので、その中でしっかり役に向き合い、丁寧に作っていきました。“パッパパッパと収録して終わり”ではなかったのでありがたかったです。

富田:私もほぼ一緒です。ビジュアルを見て、「この子からはこういう声が出るだろうな」という第一印象で演じることが多い気がします。

どの作品でもそうですが、なぜ自分をキャスティングしていただいたんだろうということを考えます。ツムギの場合はこの声質で選んでいただいたのかなという気持ちもあったので、私も作り過ぎないようにしました。普段、喋っている声とツムギの声は近い音だと思ったので、そこは作品の世界観を踏襲しつつ、自由にやらせていただきました。

一皮むけたような成長をする柊とツムギ

──柴山智隆監督から事前に何か演出はありましたか。

小野:今回はオファーしていただいたということもあって、イメージ通りだったのかもしれません。どういう風に演じるというよりも、作品の世界観とキャラクターの説明に時間を掛けていただきました。

──役について、お二人で話し合ったりすることはあったのでしょうか。

富田:収録の前に監督から作品の概要について、たっぷりお話をうかがっていたこともあって、“そこまで相談し過ぎず”みたいな感じでした。

──実際に声をあててみて、キャラクターに対する印象は変化しましたか。

富田:ツムギは人との距離の詰め方が上手だなと思いました。若干馴れ馴れしいところはありますが、それでも可愛く思えてしまう愛嬌がある。そこがツムギの魅力だと思います。

小野:画を見て、実際に声を出してみて、「こういう感じかぁ」と台本を読んだだけでは感じ取れない何かに気づくことはたくさんあります。

この作品では柊は思っていた以上に頑固なところがあると感じました。最後の方は素直になった気がして、演じ終わったときには「ちょっと大人になったな」と感じました。

富田:2人とも一皮むけたような成長をしていましたよね。

──ツムギは愛嬌があって、柊は頑固という話が出ましたが、ご自身とキャラクターに共通点はありましたか。

小野:ツムギは思ったことを口に出しますが、柊は思ったことを自分の中で消化できれば、口には出さない。僕自身も年齢を重ねていくうちに「これは言わなくてもいいか」ということも増えてきています。そういう意味では柊に共感する部分が大きかった気がします。

富田:私もどちらかというと柊タイプですが、ツムギの真っすぐさというか、素直さが欲しい。ツムギのマインドは自分の中のどこかに保持していたいと思いながら演じていました。

メッセージのわかりやすさが柴山智隆監督の魅力

──柊とツムギ以外のキャラクターでお気に入りの人はいましたか。

小野:柊とツムギがお世話になる旅館「宝寿の湯」の主人(笑)

富田:こういうおじいちゃんいるいるみたいな感じでしたよね(笑)。

小野:旅館でお世話になって、別れるシーンに、「俺たちは送りだすことには慣れているから、また会いに来なよ」というセリフがあるのですが、すごくいいなと思いました。あのような人がいると前に踏み出しやすい気がします。

富田:旅館の女将さんもいいですね。柊が断られても引き下がらずに「働かせてください」と言うシーンで理解してくれる優しさ、折れてくれる懐の深さという大人の対応がとても素敵でした。

──小野さんが柴山監督の作品に出演されるのは2作目ですが、柴山監督が描く作品の魅力ってどんなところでしょうか

小野:非日常でありつつ、言っていることやテーマは日常に潜んでいることが多くて、メッセージがわかりやすいところでしょうか。

今回も本当の気持ちを隠すと小鬼というものが出てきて、それが出過ぎると鬼になってしまうという設定は子どもでもわかりやすい。しかも子どもは純真だから、本当にそうなっちゃうかもと思ってくれそう。

自分の気持ちを言えないで苦しんでいる子たちが「思っていることを溜めてしまってはダメだから、ちゃんと出そう」と感じてくれたらいいなというメッセージがこの作品にはあり、それがちゃんと伝わってくるのは魅力の1つかなと思います。

富田:監督は柊に共感できるとおっしゃっていました。

小野:監督らしいですよね。監督ご自身の学生時代が結構、投影されているそうで、中学生や高校生の子どもたちに伝えたいこととして映画に落とし込まれている気がします。

富田:だから悩みがすごくリアルですよね。自分もこういうことで悩んだことがあるし、見てくださる大半の方が共感できるような作品だと思います。しかも、見る人によってどのキャラクターに感情移入するかが違ってくる。面白い作品だと思います。

声優は収録前の宿題が多い

──ところで、セリフは覚えるものなのでしょうか。

富田:覚えないです! スタジオにマイクとモニターがあって、台本を見ながら、映像の尺に合わせてセリフを読んで収録するので、自宅で練習をするときも、セリフを尺にはめるというところに気を張っています。

──台本にセリフの尺が書いてあるのでしょうか。

富田:事前に映像をいただくのですが、その映像にセリフのタイミングに合わせて“ボールド”と呼ばれる表示が出ます。例えばツムギが喋る場面では「ツムギ」という表示が出て、それが出ている間は喋っているんです。声優は宿題が多いんですよ。

小野:覚えなくてもいい分、尺に合わせてセリフを喋る練習はしなくてはいけません。

作り込まないために、僕は「しっかり練習しました」という感じではやらないようにしています。

富田:私もそうです。以前はとても練習していったのですが、家でやり過ぎるとそれしかできなくなってしまって、「ここをこういう風に直してください」と言われてもできなくなってしまって。音響監督さんに「練習のやり過ぎが原因」と教えていただいたことがあったので、私はあまりやり過ぎないようにしています。当日、共演する人と掛け合って生まれるものもまた素敵だと思っています。

──やはり相手がいて収録するのは違うのですね。

小野:基本的には会話ですからね。練習では相手がどういう風に喋るのかを想像してやっています。何回も共演している方なら、何となくこういう感じで来るのかなということは予測できますけれど…。今回は初めてだったので、一緒に収録できてよかったです。

──収録のとき、セリフに合わせて体合が動いたりするものですか。

小野:それはキャラクターによりますね。柊は性格的には静かなタイプですが、振り回されることが多かったので、バタバタやっていたかもしれません。

富田:私もキャラクターによります。口の動きが小さくてぼそぼそ喋るキャラクターだと直立不動になってしまいますが、ツムギは右腕が動く感じがあり、マイクに衣擦れが入らない程度には動いていました。

──ツムギが手を合わせながら「もう一回お願いします」というセリフがあったのですが、そのセリフを聞いていたら、富田さんがセリフを言いながら手を合わせている姿が目に浮かびました。そのセリフのとき、手を合わせていませんでしたか。

富田:多分、同じようにやっていました。そういっていただけるとうれしいです。

小野:動いてみないとわからない音ってありますから。それはみんな意識しながらやっていると思います。

──先程、小野さんが若い声だけは作り込んだとおっしゃっていましたが、それはどのようにされるのでしょうか。

小野:声そのものとしては、やっぱり音としての高さですね。声の高さを維持するためには高い声をずーっと使っていることが必要ですが、役によって使う声が違ってくるので、高い声の役が多いクールは地声もどんどん高くなって、高い声が出しやすいのですが、低い声の役が続くと高い声が出なくなります。役と一緒に移動している感じです。

──低い声の役が続くと個人的に高い声を出す機会を作るのでしょうか。

小野:そうですね。1週間くらい前にはマイケル・ジャクソンみたいな高い声を出して調整をしておきます。

富田:女性にありがちなのは男の子の声をやる期間が続くと、男の子の声を出す声帯に変形してしまうこと。ですから私も定期的にボイストレーニングに行って、フラットな状態にメンテナンスしています。我々のように学生の頃から声の仕事をしていると、女性でも声変わりがあって、昔よりもエッジが効いた声になってきているのを感じています。学生のころにやっていたキャラクターを数年経ってもう一回やってくださいと言われると入念にピッチの確認をします。

──「ハイキュー!!」の山本あかね役のような場合ですか。

富田:そうです。そういうときは事前にボイストレーニングしておきます。

小野:女性はすごく高い、かわいい声を出さないといけないこともありますからね。そういう意味では男性の方が気楽にやれるかもしれません。声帯って筋肉なので、大事にし過ぎて喋らないでいるとむしろ衰えていってしまうので、僕は割と雑に扱っています。

声そのものだけでなく、精神的な部分も大事です。いろんなことに対して敏感に反応したり、わくわくしたりする気持ちはなるべく保っていたい。そのためにも、最近、流行っている言葉にはアンテナを立てるようにしています。それこそ、この作品でも休憩中に富田さんから今の若者のトレンドを教えてもらったり、僕の学生時代と富田さんの学生時代の違いは何だったんだろうと聞いたり、かなり質問攻めにしていました(笑)。

<PROFILE>
小野賢章(八ツ瀬 柊役)
1989年10月5日生まれ。福岡県出身。4歳から子役として活動を始め、12歳から10年間「ハリー・ポッター」シリーズの日本語吹替版で、主人公ハリー・ポッター役を務める。その他主な出演作に『黒子のバスケ』(黒子テツヤ)、『アイドリッシュセブン』シリーズ(七瀬陸)、『ドッグシグナル』(佐村未祐)、『SPY×FAMILY』(ユーリ・ブライア)、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』(ジョルノ・ジョバァーナ)、『機動戦士ガンダム
閃光のハサウェイ』(ハサウェイ・ノア)、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(マイルス)など。また、『ニノさん』(日本テレビ)にてナレーションを担当。声優活動に加え、ミュージカルや舞台にも多数出演し、俳優としても注目を集めている。

富田美憂(ツムギ役)
1999年11月15日生まれ。埼玉県出身。2014年に「声優アーティスト育成プログラム・セレクション」でグランプリを獲得し、翌年に声優デビュー。主な主演作に『アイカツスターズ!』(虹野ゆめ)、『メイドインアビス』(リコ)、『かぐや様は告らせたい』シリーズ(伊井野ミコ)、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(チュアチュリー・パンランチ)、『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』(院田唐音)、『転生したらスライムだった件』(ヴィオレ)、『夜のクラゲは泳げない』(渡瀬キウイ)など。また朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ)のコーナーにておどろんの声を担当。2019年11月には「Present Moment」でソロアーティストとしてデビュー。放送を控えているアニメ作品も多数あり、声優・アーティストとしてさらなる飛躍が期待される。

映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』2024年5月24日よりNetflix にて世界独占配信&日本劇場公開

<STORY>
主人公の柊は、山形県に住む高校1年生。「みんなに嫌われたくない」という気持ちを抱きながら“周りの人のため”に努力をするものの、うまくいかない日々が続き、いつしか「自分の気持ち」に蓋をするようになっていた。ある日、柊はひとりの少女と出会う。出会った少女・ツムギは天真爛漫でちょっと自分勝手。そんな彼女に流される中、柊は突如「何か」に襲われる。危機を回避するためにツムギに手を引かれて部屋を飛び出し…行きついた先で彼女を見ると、頭には“ツノ”が!?——彼女の正体は鬼だった。幼い頃に消えた母を探しに人間世界にやってきたというツムギの旅に柊も同行し、2人は心を通わせていく。

<STAFF&CAST>
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子、柴山智隆
出演:小野賢章、富田美憂
配給:ツインエンジン・ギグリーボックス
Ⓒコロリド・ツインエンジン

映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』公式サイト

© 株式会社近代映画社