“野球博士”ダルビッシュ有の止まらぬ進化【白球つれづれ】

◆ 白球つれづれ2024・第17回

メジャーリーグ、パドレスのダルビッシュ有投手が日米通算200勝の金字塔を打ち立てた。

日本時間20日、アトランタで行われたブレーブス戦に先発すると7回を被安打2、9奪三振の快投で今季4勝目。MLBでの勝利数を107勝とし、日本ハム時代の93勝と併せて200勝をマークした。日本人投手の日米通算200勝は野茂英雄(ドジャースなど)、黒田博樹(ヤンキースなど)に次いで3人目。ダルビッシュ自身は4月30日のレッズ戦から4連勝で、さらに25回連続無失点を継続中の快挙達成だった。

37歳、超ベテランの域に達しているのに、衰えるどころかその進化が止まらない。

MLB屈指の強打線、アクーニャJr.や、オズーナ、オルソンらの並みいるスラッガーをきりきり舞いさせていった。最速153キロのフォーシームから110キロほどのスローカーブまで8種類以上のボールを自在に操る投球術は誰も真似が出来ない。

加えて自らのピッチングだけでなく、相手打者の研究も怠らない。近年の「フライボール革命」では打者のバット軌道がアッパー気味に振って来るのが主流になると、誰よりも早く高めへのストレートを投げだした。ここにスライダーで横の変化をつけて、タテ割れのカーブを打者の手元で落とす。さらにカットボールやスプリットまで泣けられては、データ全盛のメジャーでもダルビッシュ攻略は難しい。

「まだ200勝の実感はないが、NHKさんが大谷君の中継をやめて放送してくれたので(達成できて)良かった」

日頃はドジャース・大谷翔平選手を中心に放送をしているNHKが、雨天中止に終わった前日から特別態勢でダルビッシュの登板を中継。期待に応える結果を茶目っ気たっぷりに語るところがダルビッシュらしかった。

2004年に日本ハムのドラフト1位で入団。い翌年の合同自主トレ中に未成年にもかかわらず喫煙騒動が持ち上がり無期限謹慎処分を受けている。いきなり「問題児」のレッテルを貼られたが、汚名はマウンドで晴らした。

入団1年目の5勝に次いで、2007年には15勝5敗で沢村賞を獲得。日ハム時代の7年で93勝38敗。11年オフにメジャー挑戦とレンジャーズ入りを表明する時には「もう国内では、強打者と対決して、ヒリヒリするような緊張感を味わえなくなった」と語ったとも伝えられる。

「プロに入った時に色々あって、それも含めて自分を支えてくれた方々に感謝を忘れずにやっていきたい」

現在、ダルビッシュの同僚としてロッカーも隣同士と言う松井裕樹投手は、その存在を問われると「父のよう」と答えている。かつての問題児は、今や兄貴的な存在を飛び越して、威厳のある父親に昇華している。

◆ MLBで最多勝も最多奪三振のタイトルも獲得しているダルビッシュの次の目標は?

昨年、パドレスはダルビッシュと異例の6年契約を結んでいる。総額1億800万ドル(当時のレートで約141億4800万円)は42歳までの現役生活を保障するもの。いかに同球団がダルビッシュを高く評価しているかがわかるだろう。

37歳の今も圧倒的な投球を続けるベテランエースに対してパ軍のマイク・シルト監督は「まるで外科医のように相手をなぎ倒していた」と評している。寸分の狂いもなく、手術を成し遂げる敏腕医師をイメージしたのだろう。

先発、中継ぎ、抑えと分業化が進み、球数制限もある近代野球では200勝投手は誕生しにくいと言われる。また、達成する頃には現役生活の晩年を迎え、ようやくたどり着くケースも少なくない。

だが、ダルビッシュの場合はまだまだ余力を感じる。本人も長持ちの秘訣に「栄養管理や健康維持」を挙げているが、投球術を含めた全ての面で手抜きのないプロフェッショナルだから、まだ「伸びしろ」があるのだろう。

「どうやったら、もっとうまくなれるのか?」ダルビッシュが常に追い求める野球の原点だ。

MLBで最多勝も最多奪三振のタイトルも獲得しているダルビッシュの次の目標はあと25個と迫っているメジャー2000奪三振か?それとも現在継続中の25イニング連続無失点の記録更新か?

WBCで日本投手陣をまとめ上げた包容力と指導力で“ダルビッシュ信者”は急増したと言う。そこにメジャーでも圧倒的な存在感を発揮する。

この老雄、まだまだ進化を続けそうだ。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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