藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

by 藤島知子, Photo:安田 剛

2024年5月12日 開催

KYOJO CUPの2024年シリーズ開幕戦が開催されました

女性ドライバーの活躍はモータースポーツの魅力を広める潜在的なポテンシャルを秘めている

2024年5月12日、富士スピードウェイでKYOJO CUP開幕戦が開催された。KYOJO CUPは年間エントリー制を基本として、スポット参戦でもエントリーできる仕組みがとられているが、開幕戦の参加台数は新規参戦ドライバー9名を含む28台に膨らんだ。

コースインする際は、ピットロードに並ぶマシンの隊列がズラリ。業界では少数派とされてきた女性ドライバーがこれだけ集まってきていることを思うと、初年度から参戦してきたドライバーの1人としては感慨深く思えてくる。今季で8年目を迎える女性ドライバーたちのガチバトル。コロナ禍の厳しい状況をくぐり抜けながらも、レース開催が継続されてきたことによって、女性レーサーたちが輝くKYOJO CUPの存在が広く認知されてきたように思う。その証拠に、この舞台に挑み、腕を試したいという強い意志でシートを得たメンバーたちが実際にここにいるのだ。

今年は新規参戦ドライバーが9名入り、計28台にまで膨らんだ

今回集まったメンバーに目を向けると、年齢層の幅は広い。40代、50代で10年以上のレースキャリアをもつベテラン勢から、レーシングカートのシリーズ戦で好成績をおさめ、国内限定Aライセンスを取得して、4輪レースにデビューした16歳の高校生ドライバーも2人いる。また、F4やスーパー耐久シリーズなどのカテゴリーで活躍するドライバーもいれば、参戦2年目以降でメキメキと頭角を現し始めたドライバーもゴロゴロしているのだ。

KYOJO CUPではステージを使ったトークショーも実施される。私自身は初年度からKYOJO CUPに参戦しているので今年で8シーズン目を迎えた

KYOJO CUP初出場となるドライバーは、4号車 グッドスマイル 初音ミクVITAの岡本悠希選手、76号車 ELEV レーシングドリーム OSスハラ VITAの佐藤こころ選手、77号車 PMR Harem VITAの金井宥希選手、118号車 IDMS Racing DRP VITAの及川紗利亜選手、107号車 FLR セラ HC 猫 VITA107の小林眞緒選手、144号車 ファーストガレージ大和設備工業 VITAの山口心愛選手、703号車 ハイスピードエトワールR VITAの清水愛選手、730号車 ハイスピードエトワールR VITAの前田琴未選手、779号車 栄建設TBR VITAの関あゆみ選手の9名。

初参戦となる岡本悠希選手の4号車 グッドスマイル 初音ミクVITA
703号車 ハイスピードエトワールR VITAの清水愛選手も今年から参戦する1人

元気いっぱいの若手から、KYOJO CUP参戦を夢見て参戦を実現したドライバーなどキャラクターはさまざま。それ以外にも、出産を経て子育て真っ最中のドライバーが1シーズンぶりにカムバックしていたりして、早くも今季のレースが盛り上がる気配がムンムンと漂っている。

ちなみに、今季のKYOJO CUPの賞金は優勝すると120万円、2位が40万円、3位は20万円を獲得できるという。レースはスポンサー各社の協力によって成り立っているが、最近のスプリントレースとしてはかなり高額。ドライビングアスリートとして、トップを勝ち取ることの意義を重く感じさせる内容になっている。

ビートソニックが音響システムを視聴できるデモカーを展示していた。レースだけでなくいろいろと楽しめる要素も増えてきた
今年から参戦する初音ミクのチームグッズの販売ブースが出ていた。少しずつパドックのにぎわいも広がっている

性別を問わず、誰もが同じレースで戦えることがモータースポーツの魅力の1つだが、スーパーフォーミュラ選手権、SUPER GT、スーパー耐久を含むトップカテゴリーのレースで活躍する女性ドライバーの数は、残念ながら圧倒的に少ない。例えば、日本では5月下旬にスーパー耐久シリーズで富士24時間レースが開催される予定だが、2024年の24時間レースのエントリーリストを見てみると、全チームで300名超ものドライバーが参戦する中で、そのうち女性ドライバーの数はわずか10名に満たないという現実がある。

社会全体の仕組みを踏まえると、モータースポーツの世界は女性が挑むチャンスは与えられているものの、第一線で活躍させてもらえるほど甘い世界ではない。裏を返せば、スポーツとしてとらえ、興行やビジネスチャンスの観点からすると、女性ドライバーの活躍はモータースポーツの魅力を世の中に広めていく上で、潜在的なポテンシャルを秘めていることが分かる。

ジャガーやランドローバーの最新モデルの展示も行なわれていた
タイヤメーカーもブースを出展。タイヤの残溝を計れる簡易ゲージを用意していた
この日はオリジナル缶バッヂが当たるガチャガチャも設けられていた

女性同士で競い合うくくりを設けることは、女性特有の心・身・体・技の全てをもって戦うアスリートとして、自分がいる現在地を明確に知ることにもつながる。自分の現況を目の当たりにしながら、7年の年月をかけて切磋琢磨してきたKYOJO ドライバーたち。レースで戦うスキルやノウハウは、年々着実にレベルアップしてきていると感じている。

つい最近の話だが、KYOJO CUPでシリーズチャンピオンに輝いた小山美姫選手と翁長実希選手が北米で開催される「TOYOTA GAZOO Racing GR CUP NORTH AMERICA」にGR86でスポット参戦をするというニュースが飛び込んできた。

女性のモータースポーツでの活動も少しずつ認知されているようだ
初年度に比べたらかなり足を運んでくれるファンも増えているのがありがたい

KYOJOで結果を出した女性ドライバーの活躍は、日本国内のみにとどまらず世界に通用する人材となることに期待したいところであるし、こうした取り組みは、今後トップを目指す女性ドライバーたちにとって1つの目標となっていくだろう。彼女たちの可能性を試す場の広がりは、今後のモータースポーツ界を盛り上げていく上でも有益なことだと思う。

ついに2024年シーズンの開幕戦が始まった!

まだ富士山の山頂には雪が残っていた

レース当日の天候は曇り。コースコンディションはドライで、朝の気温は 16℃。訪れた観客にとっては、少し風が吹いているぶん、肌寒さを感じるところもあるが、観戦しやすい陽気といえる。

サーキットに到着すると、朝イチで車検がスタート。ドライバーは今季のレースで身につける装備品一式を車検場でチェックしてもらわなければならない。その後、レーシングスーツに着替えてドライバーズブリーフィングに参加。競技にまつわる注意事項を共有してピットに戻ると、20分後には予選が開始される。フリー走行の時間は設定されていないため、起き抜けの状況から、気持ちも体も一気に予選モードに合わせていかなければならない。

KYOJO CUPはVITA CLUB製「VITA-01」のワンメイクレース。ボディサイズは3712×1600×1070mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2200mm、トヨタの1NZ-FCエンジンを搭載し、Vitz RSに搭載されていた5速MTが組み合わせられる。タイヤは2020年からダンロップのVITA専用タイヤのワンメイクとなっている

予選開始2分前になると、各マシンはピットからファストレーンに並ぶことが許される。コースインのシグナルが青に変わると、いよいよタイム計測がスタート。路面温度はそれほど冷たくなさそうだが、まっさらのニュータイヤなので、グリップの具合を確かめながらペースを上げていく。周回を重ねて「みんなそろそろタイムアップしていきそうだな」と意気込んでいった矢先、遅いペースで走っているマシンをうまくかわせずに、それまで削ってきたタイムは水の泡に。リズムの波に乗り切れないまま、ベストタイムは2分01秒台から縮まず、決勝は20番グリッドからのスタートになった。

遅いペースのマシンをうまくかわせなかったのが予選の反省点

今回のレースは予選から決勝までのインターバルが短めで、2時間経たずして決勝に向けたコースインが行なわれるタイムスケジュール。決勝前の時間になると、パドックにはKYOJO CUPに参戦するチームやドライバーたちを応援しに駆けつける人たちが続々と訪れていた。

今の時代はSNSを活用して、おのおののチームやドライバーが情報を配信しているが、KYOJO CUPでは数年前からFiNANCiE(フィナンシェ)のトークン発行を通じて、ドライバーの支援、ファンと参加者をつなげるさまざまな機会を創出する取り組みも行なわれていて、コミュニケーションが深まっている。毎戦応援に来てくれるファンの顔ぶれを見ると、気持ちが温まる感じがする。

予選1位は17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R VITAを駆る斎藤愛未選手

10時をまわると、決勝レースに向けたコースインを開始。グリッド上には29台のマシンが並び、少し長い時間をかけてスタート前にグリッドウォークが行なわれた。記念撮影をしたり、「実力を出し切れるといいね」など、ドライバーに声をかけたりしている人たちもいる。

やがて、応援者やメカニックが退去する時間が訪れると、フォーメーションラップを開始。レッドシグナルが消えて12周の決勝レースがスタートした。

12周の決勝レースがスタート

VITA-01は1.5リッターのエンジンに5速MTを搭載したレース専用車両。右手側にHパターンのシフトレバーが配されており、パーキングブレーキは存在しない。スタートはギヤを1速に入れ、クラッチを切った状態でエンジン回転を高め、レッドシグナルが消灯した瞬間にクラッチをつないで駆けだしていく。その際、エンジン回転が低すぎると得られるトラクションは弱々しく、逆に回転が高すぎるとホイールスピンして前に進んでいかない。いい勢いで発進できるスイートスポットは思う以上に狭い。私は今回のスタートを成功させ、2台を抜きんでた。

スタートで2台を抜けたものの、まだレースは長い……

「幸先はいいのか?」と思われたものの、マシンが一斉に飛び込んでいくスタート直後の1コーナーでアウト側からアプローチしたら、内側でスピンした車両を避ける形で数台のマシンが外側に膨らんできて、私はそれを避ける形でいったんコースの外に逃げた。その後、周囲の混乱を避けてコースに復帰すると、とにかく遅れるわけにはいかないと前のマシンに続いて進んでいく。

まわりも必死だから、そう簡単には抜かせてはくれない

次のコカ・コーラコーナーは、5速から4速にギヤを落として飛び込むハイスピードコーナーとなるが、1コーナーを立ち上がった後、私のマシンのアウト側に1台のマシンが迫っていたため、勝負をかけるのはひとまずガマン。100Rにヘアピンコーナー、300Rと併走しつつ、ダンロップのブレーキングで外側ギリギリに寄せられて逃げ場を失いかけたが、急勾配のセクター3を切り抜けた後、ホームストレートの立ち上がりで、隣を走っていたマシンのスリップストリームにつけた。

86号車 Dr.Dry VITA 下野璃央選手の走り

前を走る車両の後ろにつくと、引き込まれていくようにスピードが増すスリップストリーム。ただ後ろにつけば優位というのではなく、ホームストレートの中盤あたりまでに前に出られるだけの勢いがつかないと、1コーナーの手前で抜かすのは難しい。その後、状況をうかがいながら、1コーナーのブレーキングでパスすることに成功。とはいえ、レースはまだまだ序盤で先が長い。予選の失敗で自分自身のベストタイムさえ出せていなかった私は、現時点の実力を出し切りたい気持ちでいっぱい。とはいえ、まわりのドライバーたちも必死に走り続けているため、そう簡単に前に出ることを許してはくれない。

114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手は、北米で開催される「TOYOTA GAZOO Racing GR CUP NORTH AMERICA」にGR86でスポット参戦をすることが発表されている

それでも、淡々と走り続けていくと、セクター3で1台を抜き、ストレートでまた1台をパス。数周が経過すると、順位は16番手に。前方集団は見える距離にいるものの、単独走行でそこに追いついていけるほどタイムを縮めていけないのがもどかしい。ヘアピンでスピンした1台の車両が私の後方に順位を落としたが、予選ではだいぶ前にいた車両だったこともあり、持ち前の勢いをもって、あっさりと抜き去られてしまった。その後、私は単独走行のままチェッカーフラッグをくぐり抜けて、16位で開幕戦を終えた。

114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手、17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITAの齋藤愛未選手、86号車 Dr. Dry VITAの下野璃央選手らによる激しいトップ争い

優勝したのは2022年のチャンピオンである114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手。ポールポジションからスタートした17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITAの齋藤愛未選手は2位。3位は86号車 Dr. Dry VITAの下野璃央選手が獲得した。

優勝は114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手。2位は17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITAの齋藤愛未選手。3位は86号車 Dr. Dry VITAの下野璃央選手
初戦を優勝で飾った114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手

トップ集団はファイナルラップで入れ替わり、それ以外のポジションでもせめぎ合いを見せていた開幕戦。9名のドライバーは初めてのチャレンジとなったが、チームを移籍して違うマシンに乗り換え、違うセッティングで臨んだドライバーもいたりと、それぞれに与えられた環境を今季の残り5戦にどう生かしていくのかが今後の見どころになりそうだ。

初参戦の中で、もっとも上位の14位となった779号車 栄建設 TBR VITA 関あゆみ選手の走り

2024年のKYOJO CUPは全戦が富士スピードウェイで開催されるが、次戦は7月19日に予選、7月20日に第2戦、翌日の7月21日に第3戦が行なわれる予定。国内のフォーミュラレースのトップカテゴリーにあたるスーパーフォーミュラと併催される。そのぶん、多くのレースファンやメディアの来場が期待されるが、そうした舞台でKYOJO CUPがどんなレース展開を迎え、見る人の目にどう映っていくのか楽しみだ。

次戦は7月19日~21日にかけて富士スピードウェイで開催される

© 株式会社インプレス