「伝統とモダンの合間」 チャップ・バティックでシャツを仕立てる

+62インドラマユ・バティック・ツアーで訪れている、西ジャワ州インドラマユにあるエディ・ハンドコさんのバティック工房「バティック・ビンタン・アルット」。そこで作っているチャップ(型押し)バティック布は、一枚の中に違う柄を大胆に組み合わせた物が多い。

「一つの柄だけを全面に押した布は、柄をまねしてプリントにされる。大ロットのプリントにはない、チャップ・バティックの強みは、一枚ずつ手作りであること。いろいろなチャップの組み合わせで、一枚しかない布を作り出す」とエディさんは説明する。

プリントに対抗するための、敢えての柄ミックス。また、メインの柄だけではなく端模様があったり、複数の柄が組み合わさっているのが、元々のバティック布らしさだ。しかし、服にする場合、どの部分をどうやって使ったら良いのか、バティックに慣れていないと迷ってしまう。

「それを考えるのが楽しい」と語るのは、+62インドラマユ・バティック・ツアーに2回参加した安藤彩子さん。安藤さんがこれまでに、エディさんの工房のバティックを使って仕立てたシャツは3着。そのほかに、デザイン画と共に友人にプレゼントした布が2枚ある。

シャツのほかに、手描きバティック布でワンピースやブラウスも仕立てている。しかし、ワンピースだと布の大きさに限界があるため、どうしてもワンパターンになってしまう。デザインで最も遊べるのはバティックシャツだ。絵が趣味の安藤さんは、シャツのデザインのスケッチ画を自分で描いて、仕立屋に渡している。

安藤さんのデザイン画。柄の使い方を細かく指定するのがポイント

エディさんの工房で買った、マンゴー柄の手描き布(左)、仮面と波形、鉄柵、コーヒー豆のチャップ・バティック布(右)

上写真右のチャップ・バティックを仕立てたシャツ。背面

このバティック布は、メインの柄として「仮面」と「波形」が交互に押され、その下に伝統文様の「鉄柵」、そして大粒の「コーヒー豆」と、非常にユニークな取り合わせ。蝋落としが終わったばかりで工房の路地に干してあった布を見て、「格好いい」と気に入り、まだ濡れたままで購入したと言う。

「仮面柄だけだとクラシックになりすぎるところを、コーヒー豆がポップ感を与えている。『えっ?』という組み合わせが、伝統とモダンの合間というか、新しさを作り出している」と安藤さん。シャツの身頃にはメイン柄の仮面と波形、そして、襟と袖口、ボタンの来る中央をコーヒー豆柄にして仕立てた。

魚とストライプ柄のチャップ・バティック布。ダイビングが趣味の安藤さんにはたまらないモチーフ

仕立てたシャツを着て、2回目のインドラマユ・バティック・ツアーに参加した安藤彩子さん。マスクもお揃いで作成

魚とストライプ柄の組み合わせの布は、濃い色の部分が「すごく好き」と言う。この部分を裾とポケットに使ったほか、袖や襟の裏側にあしらい、ちらっと見えるようにしてある。

下をハイウェストスカートなどにしてシャツをインすると、腰回りの横ストライプから下の部分が隠れる。そうすると、印象がまた変わって見える。同じシャツだが、違った風に着られるのが魅力だ。

「猫とコーヒー」と「パラン」のハーフ&ハーフのバティック布を仕立てたシャツ。左右を違う柄にし、襟と袖口は柄を反転させてある

大振りのアクセサリーを合わせると女性らしく、シックに

「ハーフ&ハーフ」、インドネシアで「パギ・ソレ」と呼ばれる、一枚の布に2つの柄を入れたバティック布は、右と左で模様を変えてみた。賀集由美子さんがデザインしたモダンな「猫とコーヒー」柄と、伝統柄のパラン文様という、まったく違った柄の組み合わせなのだが、色が揃っているので、おかしくない。

バティックの場合、「布が足りない」と、別の布を探して組み合わせようとしても、同じ色を探すのは難しい。バティックは工業製品ではないので、店に何百種類もの布が並んでいても、同じ色はないのだ。一枚の布だと、「ぴったり同じ色の柄違い」で組み合わせられる。

手描きのマンゴー柄の布は、オーバーサイズのブラウスに

安藤さんによると、バティック布の服をデザインするコツは、まず、「この部分をどこに使うか」という視点で、布を選ぶこと。そして、買って来た布は仕立屋任せにせず、自分で布に向き合い、自分でデザインを考えてみる。鏡の前で、布を小さく折り畳み、体にいろんな方向で当ててみたり、ワンピースやスカートにする場合は体に巻いてみたり。「ここに、この柄があるとうるさい」「ここにあると意外に良いのではないか」と、自分で確認しながら、デザインを決めていく。デザインは仕立屋に細かく指示した方が良い。

ほかのバティック店では、エディさんの工房のバティック布ほどに柄が混ざっていることは少なく、安藤さんとしては物足りない。エディさんの工房の布はデザイン性が高いので、使い方が難しいのだが、「エディさんの出してきた『謎解き』に答えてデザインするのは、作りがいがある」と安藤さん。

「これだ!」と考えてデザインした物は、出来上がり品にも愛着がわく。作る時に遊べる楽しさがあって、「二度おいしい」です

安藤彩子さん

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