友だちと出かけて、食事をしたい…知的障害のある若者の学びの場「チャレンジキャンパスさっぽろ」 自分が“できること”を1つずつ増やせる大切な居場所

私も大学生になりたい。1人の知的障害がある女性の声がきっかけで、誕生した施設が札幌市にあります。
失敗を重ねて、できないをできるに変える。若者たちが集まる、学びの場に密着しました。

午前9時。学生たちが、次々と集まってきました。

「朝の会を始めます」

ここは、「チャレンジキャンパスさっぽろ」。特別支援学校の高等部などを卒業した、知的障害がある若者たちが通う“学びの作業所”です。

いわば、大学のような場所。自分で考え、選び、生活できるようになることを目指します。

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「行く場所をまず地図から探して〇をつけてください。探し終わったらどの順番でそこに行くのか相談して」

この日は、地図の読み方を学びます。配られたのは、施設の周辺の地図。目的地まで歩き、たどり着くのが目標です。

指定された目的地は3箇所。まっすぐ進んでいるのに、そんなに地図をまわして大丈夫…?

1箇所目は、なんなくクリア!でも次は…目的地は右なのに、反対に曲がってしまいました。

学生
「戻ろう…」

支援員
「もしかしたら何人か『違うかも』って気が付いているかもしれない。『違うよ』って言えたらいいなって思う」

制限時間が近づき、支援員がアドバイスをします。

支援員
「チャレンジが後ろにあってこの向きだよ」

学生
「わかったかも!みんな逆方向に行った」

近所へのおでかけでも、ハードルが高いと施設長は話します。

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「実際の風景と地図を一致させる作業をふだん彼らの生活では、お母さんやお父さんやヘルパーがやっている」

支援員
「『挑戦の授業』というのが、チャレンジキャンパスにはあります。行きたい場所、自分たちが食べたいもの、お店を決めなきゃいけない」

この日は、「外出」をテーマにした授業の1回目。行先は新札幌。グループに分かれて計画を立てます。

支援員
「きょうは、チーム名、チームのメンバー、ここまでできたらチームで報告に来て」

学生
「桜ガールとか」「うちなら青春かな」「青春!」

決めたことをグループ全員が把握できているか、支援員がチェックします。

支援員
「ハルサクラ、字は?」

学生
「春が漢字で、桜がカタカナ」

「ここに来て楽しいと思えること」、「自分で通学できるようになること」が、チャレンジキャンパスへの入学の条件だといいます。

卒業は、「この仕事がしたい」と自分で決めることができた時です。

チャレンジキャンパスさっぽろの小澤施設長の長女、育(いく)さん31歳です。

家族
「(料理)慣れてる割りにはこわいよ顔」

小澤施設長の長女、育さん
「いやそんなことないよ」

施設をつくるきっかけは、ダウン症がある育さんのひとことだったといいます。

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「いとこも(高校)卒業したら大学に行っている。『自分も大学生になるんだ』と」

当時、北海道内には、知的障害がある若者が特別支援学校の高等部などを卒業したあと、就職するまでの「学び」を目的とした場所はありませんでした。

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「社会福祉法人に話を持って行った。いい返事をもらえなくて、3家族で法人作ろうとなって、300万円弱ずつ出した」

障がい福祉サービス事業を利用した形で、北海道内に初めて誕生したのが「チャレンジキャンパスさっぽろ」でした。

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「ひとつのことを獲得するのにすごく時間がかかる。コミュニケーションだってそうだし、人間関係だってゆっくり時間をかけないと、彼らはそこを獲得していけない」

この日はスマートフォン使って、大事な連絡をする練習をしていました。

学生
「(スマホはみんな1人1台持ってるの?)自分のスマホです」

学生
「いま、図書館の前で迷っています」

支援員
「そうですか…わかりました」

学生
「失礼します」

支援員
「まず困っていることを相手に伝えた方がいい。そのあとどうしたらいいですか、とか」

大切にしているのは、仕事を含めた生活全体をどのように充実させ生きていけるようになるかということ。

学生
「(きょうは玄関の掃除ですか?)はい!そうです!」

学生
「(持っているのは藪くんのうちわ?)藪です。よくわかりますね、めっちゃ好きなんです」

学生
「将来ひとりぐらしできるように掃除も練習、(家でもやってるんですか?)たまにかな」

学生
「(どこに行くんですか?)サーティワンにこれから行きます。『女子会』です」

チャレンジキャンパスさっぽろに通い3年目となる、滝頭(たきがしら)ひかりさん20歳。

チャレンジキャンパスさっぽろ3年目 滝頭ひかりさん
「ひーくん!」

甥っ子の響(ひびき)くん(11か月)を、とても可愛がっています。

ひかりさんが、洗濯機へ柔軟剤を入れるとこぼれてしまいました。母親の正枝さんを呼びます。

滝頭ひかりさんの母 正枝さん
「洗濯物少ないでしょ、38リットルくらいでいいよ」

生まれてすぐ低血糖の状態となり、脳に障害を負ったひかりさん。

当時は、「寝たきりで話すこともできないかも」と診断されたといいます。

着物姿のひかりさんの写真です。

チャレンジキャンパスさっぽろ3年目 滝頭ひかりさん
「自分で選んだ赤が好きで」

滝頭ひかりさんの母 正枝さん
「まずは20歳までが目標だった。ここまで来たなっていう」

「就職する前に、もう少し青春を楽しんでほしい」という思いから、父親が見つけたのがチャレンジキャンパスさっぽろでした。

チャレンジキャンパスさっぽろ3年目 滝頭ひかりさん
「(できるようになったことがたくさんあるなって思う?)ある。いっぱりあります。チャレンジキャンパスさっぽろは、すぐ支援員に分からなかったら、すぐ聞くことになっている。分からないことすぐに教えてくれる」

滝頭ひかりさんの母 正枝さん
「助けてくださいとか手伝ってくださいが言えるようになった」

苦手だった1人での通学も、買い物もできるようになったひかりさん。

しかし、母 正枝(まさえ)さんは、娘の「自立」への心配が尽きません。

滝頭ひかりさんの母 正枝さん
「私たちも年を取るので、ちゃんと決まった時間に働きに行って帰ってくる。月に1回お給料をもらう。給料をどうするのかっていうことをしてほしい」

新札幌への外出企画の計画も、終盤を迎えていました。

予算は足りているか、昼ごはんに注文するメニューまで、細かく報告します。

学生
「ボンゴレの塩コショウ味で1000円です」

滝頭ひかりさん
「カルボナーラで値段が1300円」

無事に、施設長の「合格ハンコ」をもらうことができました。外出企画の本番は、2日後です。

新札幌への外出企画、本番の朝です。この日は、教えてくれる支援員はいません。自分たちの力だけで、精一杯楽しみます。

札幌市青少年科学館のスタッフ
「展示室のみでいいですか?」

滝頭ひかりさん
「うーんと、たぶんそうだよね」

スタッフ
「入館料500円です」

学生
「500円ある?」

ひかりさん、500円を出し、入館料の支払いを無事済ませます。

そして施設内の展示室で、いろいろな体験にチャンレンジ。

学生
「やってみる?」

滝頭ひかりさん
「せーので押そう」

学生
「わー!つららできた!」

できないのではなく、失敗や経験を重ねれば、きっとできるようになる。

施設を出て、食事をする場所に向かって歩きます。

「サンピアザだ~」

滝頭ひかりさん
「カルボナーラ1つで」

チャレンジキャンパスさっぽろ 小澤昌人施設長
「友達どうしで遊びに行くという経験が(入学前は)全くなくて、彼らは青春してほしい」

若者たちの生活をより豊かに広げていくために、大切な目線です。

チャレンジキャンパスさっぽろには、現在18人が通っています。
今回紹介した、外出企画のほか、電話やLINEの使い方、責任感や協調性について学ぶ演劇発表、身だしなみなどを学ぶカリキュラムがあるということです。

© 北海道放送株式会社