『アンメット』“ミヤビ”杉咲花の記憶障害の原因が判明 タイトルに込められた願い

『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)第6話では、ミヤビ(杉咲花)の記憶障害の原因に迫った。

てんかんによる痙攣重積発作を起こした山本(鈴之助)が搬送される。山本は過去に脳出血を発症しており、その後遺症と思われた。てんかんの症状は再発する確率が高く、心配する山本に、ミヤビは抗てんかん薬の服用を勧める。

第6話では側頭葉てんかんが取り上げられた。てんかんは脳の神経細胞が突然激しく興奮する神経疾患で全身の痙攣をともなう。てんかんの症状を抑えるための抗てんかん薬をミヤビが服用していると明かしたことで、物語は大きく動き出した。

第4話で三瓶(若葉竜也)はミヤビの脳を検査した。記憶障害の原因は不明で、納得できない三瓶はミヤビの主治医である関東医大教授の大迫(井浦新)に、ミヤビの診療記録を見せてほしいと頼むが断られる。第5話で諦めきれない三瓶は、同じく関東医大病院の脳外科医で、かつてミヤビに思いを寄せていた綾野(岡山天音)に記録を入手するように頼んだ。

どうやら事故直後のミヤビの記憶に秘密があるらしい。それが大迫や綾野、綾野の婚約者である麻衣(生田絵梨花)の将来を左右する重要なものであることは、前話で示唆されたが、そのことを裏付けるように、第6話の冒頭で西島医療グループのトップである西島(酒向芳)自ら三瓶のもとを訪ねてきた。さすがに三瓶を関東医大に行かせるわけにいかず、綾野の同期である救急部長の星前(千葉雄大)に白羽の矢が立った。

その頃、三瓶はミヤビにてんかんの検査をするが、過去に発作があった反応は出なかった。血液検査の結果、抗てんかん薬の血中濃度は低く、そのことは薬の服用量が少ないことを示していた。そんなある晩、ミヤビは病院で倒れる。突然、脈絡のない言葉をつぶやいて立ち上がると意識を失い、体を痙攣させた。側頭葉てんかんの発作だった。

なぜミヤビは発作を起こしたのか? 直接的な原因は抗てんかん薬の服用を中止したことである。ミヤビにてんかんの履歴はなかったが、過去にてんかんの発作を起こしており、綾野が入手した脳波室の動画データでその事実は裏付けられた。大迫はミヤビのてんかん発作を隠していたことになる。そこには驚くべき意図があった。

三瓶と大迫の対立はミヤビの心の葛藤そのものだ。ミヤビは主治医の大迫が嘘をつくわけがないと信じているが、一方で三瓶の言葉を信じようとする。大迫は記憶を失う以前から旧知の仲であり、一方の三瓶は、事故前に婚約していたにもかかわらずその記憶がない。三瓶への信頼は、脳外科でやり取りと日記に記された印象を読み返すことで日々まっさらな状態から築かれる。普通に考えたら三瓶を信用するのは難しいが、三瓶に味方するものがあるとすれば、脳外科医としての冷静な判断に加えて、ミヤビとの間で培った感情の記憶であり、無意識の絆であることが第6話では描かれた。

高濃度の抗てんかん薬は認知機能を低下させる。ミヤビの記憶障害はてんかん性健忘によるものと考えられた。記憶と引き換えに日常を維持するという大迫の言い分はそれなりに筋が通っている。大迫はミヤビの記憶は元に戻らないと言うが、ミヤビの記憶を取り戻したい三瓶は薬の服用量を増やすことを提案し、ミヤビも了承した。

三瓶がミヤビにリスクのある提案をしたのはミヤビを信じたからだ。発作を起こしたときにミヤビが口にした言葉で、三瓶はミヤビが記憶を失っていないと確信しただろう。大迫と対峙した三瓶は一瞬相手につかみかかるかとも思ったが、怒りを抑えたのはミヤビの回復の可能性が現実味を増したからではないか。その予測は的中した。

タイトルの『アンメット』。「満たされない」を意味する言葉を最初に口にしたのは、三瓶だった。ろうそくの灯が生み出す光と影。どうすれば、くまなく照らして全ての患者を救えるだろうか。医療者として真摯に向き合う三瓶の言葉は「全体の最善」を掲げる大迫へのアンサーであると同時に、ミヤビへの思いと重なる。失われた記憶は満たされずにすれ違ったままと思われたが、ちゃんとそこにあった。

第6話は院長の藤堂(安井順平)のフィーチャー回だった。ことなかれ主義を体現する藤堂がミヤビに付き添って患者の勤務先企業で豹変する一幕は、痛快さと小気味よさを兼ね備えており、演技巧者の安井順平が起用された理由を深く納得した。

(文=石河コウヘイ)

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