「3年間1日1秒たりとも忘れていない」――。体操・萱和磨が五輪の舞台で“やり残したこと”【NHK杯】

1日1秒たりとも、”あの日”の悔しさを忘れていない。

体操のパリ五輪代表選考会を兼ねたNHK杯が5月19日、群馬・高崎アリーナで行なわれ、男子個人総合は20歳の岡慎之助が合計342.727点で初優勝を果たし、五輪初出場を決めた。2位には東京五輪代表の萱和磨が入り、2大会連続の五輪切符を手中に収めた。

「美しく失敗しない」――。安定感抜群の演技が持ち味の27歳が、2度目の大舞台を自力で掴み取った。「自分の強みがしっかり出せた」という言葉通り、萱は2つ目のあん馬で14.600点(全体3位)の高い得点をマークするなど、ミスの少ない演技で2日間をまとめた。最後の鉄棒でも着地をバチッと決めて代表権を手繰り寄せると、「しゃあー!」と会場に響き渡るほどの雄叫びを上げ、渾身のガッツポーズが飛び出した。
試合後は自身の代表入りの喜び以上に、団体戦を意識する発言が目立った。その役割について問われると、「6種目ミスなく、何を任されても大丈夫なように準備をしていくことだと思います。オリンピックの舞台でも変わらずというか、変わらない自分を出せるように練習や合宿から見せていければ」と経験者として持論を語る。

東京五輪の団体戦は、わずか0.103点差でROC(ロシア・オリンピック委員会)に敗れ、日本は銀メダルに泣いた。「僕は普段メダルとか、まったく興味がなくて飾ってないですけど、銀メダルだけはリビング(テレビの横)に飾って毎日見ている」と明かし、自身のインスタやX(旧ツイッター)のトップ画面は団体表彰式で銀メダルを掲げている写真にするほど、「やり残したことがあるというのを3年間、1日1秒たりとも忘れないようにするため」と説明する。

萱は今回の体操ニッポンについて、「過酷な選考会を勝ち抜いた5人なので、僕は平等というか5人全員が自分の良さがあると思う。引っ張るとかではなく、5人が集まった時に最強のチームになれると思う」と自信を示し、五輪初出場の岡とチーム貢献度で選出された25歳の杉野正尭のポテンシャルを含め、前回の団体戦で共闘したエース・橋本大輝と、27歳の谷川航の経験値がミックスされたチームに全幅の信頼を寄せる。

「団体決勝は一発でもミスが許されないので、90%ないし100%ぐらいの実力を出さなきゃいけない。種目は各々の得意な種目をやるとは思うんですけど、そこで(実力を)出すために、この選考会で得た試合の感じをしっかり経験として、また課題として(6月の)強化合宿を通して調整していけば問題ないと思う」

3年前の忘れ物を花の都で奪還するため、”美しく失敗しない男”は最強の5人の仲間とともに2度目の大舞台に臨む。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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