イップスの原因はなに…?経験者・佐藤信人がその原因と対策を語る

〝イップス〞は 「自分はならない」と思っていませんか?

決して他人事ではなく、ゴルファーなら誰でもかかる。しかもゴルフを一生懸命やるほどかかりやすいんです!

なぜイップスにかかるのか、どんな症状が現れ、どうやって克服するのか。それを事前に知ることが、イップス予防の最善策になります。

プレッシャーがなければイップスは起きなかった!

イップスを見られたくないと意識過剰になった

私のイップスは、選手としてのキャリアのピークだった時期に、雑誌の取材で自分のパッテ ィングストロークを客観的に見たことがきっかけでした。「こんなストロークをしているから、 パットが決まらないんだ」と思ってしまったことで、今までと違う打ち方に取り組んだ結果、フォローでヘッドが出せないという、〝打てない〞イップスを患ってしまいました(詳しくは第一回を参照)。

私は、もともと自信満々でプレーするタイプではなかったうえに、華やかな舞台が苦手。変なプレーをギャラリーや一緒にラウンドするプロやプロアマ戦でのアマチュアに見られたくないという気持ちが強く出て、それが意識過剰になってしまい心理的な負担になりました。

プレッシャーを感じなければいいプレーができた

2004年に欧州ツアーの予選会を受けました。じつはこれも芸能人が集う大きなゴルフ大会があって、それに出るのが嫌で仕方なかったのがきっかけです。ちょうどその日程に予選会があったので、海外挑戦するからという理由でキャンセルしたのです。

そういう理由だったので、結果にもこだわらなかったし、プレッシャーのない状態で気楽にプレーしました。すると、イップスも出ないし、非常に好調。難なく予選会を通過して、翌年から欧州ツアーに参戦しました。気楽にプレーできる環境であれば、イップスは起きにくい。メンタル面とイップスが強く関連していると感じた出来事です。

安心感を得たらパッティングが決まり続けた

そんな経験をしていくうちに、イップスにも自分なりのスイッチがあることがわかってきました。それはいいプレーをしたいプレッシャーやイップスを見せたくない緊張です。アマチュアも心理的なプレッシャーが、イップスの引き金になることは十分あり得ると思います。ミスに対して、深刻に考えるタイプは、そのリスクが高いのではないでしょうか。

その結果、自分のストロークをギャラリーに見られたくない、練習ラウンドをしていても他のプロたちに見られたくないという意識が生まれてきました。イップスの症状が出るようになってからはなおさらです。真面目に取り組んだことが、さらに精神的なプレッシャーになって、イップスを深刻なものにしたと思います。

欧州ツアーでは転戦続きで気分転換になる娯楽もなく、真面目に練習しすぎて、かえって精神的なプレッシャーが増してしまったのかもしれません。帰国後もいろいろな方法を試しましたが、なかなかよい方向には向かいませんでした。シード落ちする2009年の前あたりが一番つらかったですね。

そこで、技術面からの取り組みだけでなく、メンタルトレーナーにアドバイスを受けながら、イップスを受け入れる努力をしました。これはとてもよい成果が出たと思います。

2011年に、九州のゴルフ場で支配人をやらないかという話をいただきました。ちょうど妻が妊娠した時期でもあり、来年も仕事があると思うと、ほっとしました。すると、引退試合のつもりで予選会から出た日本オープンで、3日目まであれほど苦しんだパットが入りまくって3位になりました。

単独トップでスタートした最終日は、さすがに優勝を意識してイップスが少し出てしまいました。私にとって「メンタル面の影響が本当に大きい」と感じた試合です。

メンタルが弱いと自覚のある人はイップス予備軍かもしれない

就職の話がきて、生活の不安がなくなったことが、2011年日本オープンでの好成績につながったという

Lesson

[症状]アプローチでヘッドが刺さる

パッティングと並んで、イップス症状が出やすいのがアプローチ。多くの場合、ボールを右寄りに置き、ハンドファーストの度合いが強すぎてチャックリが連発するイップスが起きている

[対策]ボールを左寄りにしてソールを滑らせた

フェースを少し開き、ボールを左寄りに置くことで、積極的にソールを滑らせるアプローチにした。刺さりにくくなるので、チャックリしない安心感が生まれ、スピンもしっかりかかる

いかがでしたか? ぜひ佐藤選手の経験を参考に、イップスの予防と起きてしまった際の克服に活かしてみてください。

解説 = 佐藤信人

●さとう・のぶひと / 1970年生まれ、千葉県出身。パッティングの名手として90年代後半から活躍。ツアー通算9勝をあげた。2004年ころからイップスに悩まされ、現在も完治せず苦闘中だという。近年は解説者としても活躍。JGTOの理事も務める。ミズノ所属。

構成=コヤマカズヒロ
写真=田中宏幸

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