日本代表デビューが迫るリーグワンの最多トライゲッター、マロ・ツイタマが進むと決めた茨の道

キャップをかぶっていた。「YAMAHA」。書かれていた文字は、所属する静岡ブルーレヴズの前身クラブを持つ企業の名前だった。

ゴールデンウイークの只中。磐田市内のクラブハウス内のインタビュー現場で、マロ・ツイタマは笑った。
「たまたまロッカールームにあったのをかぶってきたんです」

身長182センチ、体重91キロの28歳は、来日5シーズン目にあってタイトルホルダーとなった。取材時には進行中だった今季のリーグワン1部で、15度、インゴールを割り、トップリーグ時代の2020年度(2021年)以来となる最多トライゲッターとなったのだ。

チームは、元日本代表チームディレクターの藤井雄一郎新監督がオープンスタイルを提唱。「企業秘密」の独創的な陣形を作り、防御を引き寄せて短く動かすティップオンパス、立ったまま繋ぐオフロードパスを交える。フィールドの右中間、左中間に数的優位を作り、端側のウイングを務めるツイタマがフリーで球を預かる。独自の型をスコアへ変える。

「自分たちのスタイルを信用して、それを毎日、毎日、練習して、チームとして成長できるよう意識してきました」

タッチライン際を力強く走り切ってスコアを奪うだけでなく、攻撃ラインの起点に入ってパスもさばける。仕留め役でありチャンスメーカー。広範囲で働けるのも強みだ。

「自分がどこのレベルまで行きたいのかについては、そこまで考えられていないです。意識するのは毎シーズン、毎試合、成長し続けること、自分のゲーム、スキルをよくすることです」

サモアにルーツを持ち、かつての拠点だったニュージーランドではウェリントン代表として地域別選手権に出た。それでも、国際リーグのスーパーラグビーのクラブで安定的な契約を得るのが難しかった。意を決した。2019年に来日した。

前身のヤマハ発動機ジュビロに入った頃から、大志を抱いていた。日本代表入りだ。

いまルーツを持たない国で代表資格を得るには、当該の場所で5年以上続けて過ごさなくてはならない。その間、一時帰国できるタイミングは極端に限られる。近年は日本代表を目指す海外出身者が増えているが、すでにその権利を得た選手のひとりは「それ(権利を得て、かつ代表でプレーすること)がどれだけ大変か、わかっているのかな」と漏らすほどだ。 その茨の道を、ツイタマは進むと決めた。一緒に来日する静岡へ住むこととなったパートナーへは「もしかしたら、(移住の決断は)難しかったかもしれません」と気遣いながら、「僕はそこまで抵抗なかった」。当初こそスーパーマーケットの商品名称がカタカナ、漢字ばかりで買い物をするのも苦労したが、それにも時間が経つほどに慣れた。
きれいな海、川に囲まれた現在の居住環境には、すっかりなじんだ。

「私自身、静かな性格なので、東京のような大きな街だとリラックスできないところがあります。ですので、磐田は気に入っています。(休みに)ニュージーランドへ帰っても、『また磐田に帰りたい』という気持ちが強くなるほどです。家族が寂しがることもありましたが、そのたびに『なぜ自分は日本へ出たのか』を再認識。そうして、それを乗り越えてきました」

好物は刺身、寿司、それから…。

「身体によくないのは知っていますが、ラーメン。豚骨? そう。あの白いスープです」

土地になじみ、何より心技体を磨いていたら、欲しいものを得るのに必要な条件を満たせる時期に差し掛かってきた。まもなくこの国に来て丸5年を迎える。

今年2月には日本代表候補の集まる福岡キャンプへ呼ばれ、5月20日からは長野での同種の集まりへ出向く。代表デビューに近づきつつある。

エディー・ジョーンズ新ヘッドコーチ率いる日本代表は、「超速ラグビー」を謳う。動きはもちろん、判断の速さも求められそうだ。

「日本代表はブルーレヴズとはシステムは違うかもしれないですが、そんななかでも自分の仕事にフォーカスしたい。その瞬間、瞬間で、自分ができることをしっかりとできるようにしたいです」

朴訥としたフィニッシャーは、「チームのために、自分ができることをやる」と決意を口にする。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)

© 日本スポーツ企画出版社