料理を始めたら「見えるもの」が変わった…究極の脳トレに【第一人者が教える 認知症のすべて】

料理は究極の“脳トレ”(C)iStock

【第一人者が教える 認知症のすべて】

東京都在住の58歳男性はコロナ以来、生活スタイルがガラリと変わったそうです。子供がおらず、共働きということもあり、以前は夫婦ともに外食が中心。「お酒が好きで、飲み屋をはしごして午前さま、ということも珍しくなかった」と苦笑します。

しかし、コロナで自宅で過ごす時間が増えたことで、料理をする楽しみを覚えたとのこと。

「試行錯誤して、ようやく満足できるポテトサラダが出来上がったときの達成感が半端なかった」(男性)

レシピ本も、書かれていることが微妙に異なり、一見簡単そうな内容だが、その通りにやっても全然おいしく出来上がらず、レシピ本にも信頼できるものとそうじゃないものがあると感じたと話します。

自分で作るようになると、外食していても見るところが変わってくる。たとえば、レンコン。横から切るか、縦から切るか。ある飲食店で縦割りのレンコンを炒めているのを見て、横から切るより食感が断然いいと感じ、自分でも取り入れるようになったと男性。

自分では思いもつかなかった素材同士の組み合わせの料理に出合ったときは「さすがプロ」と感心し、今度やってみようとメモをするそうです。

料理の経験値が上がるにつれ、最初は「作るもの」を決めてから買い物をし、ひとつでも材料が揃わなければどうしていいかわからなかったのが、スーパーでその日の安いものを買い、その都度献立を組み立てられるようになりました。「安いもの」は「旬のもの」。素材の旬を知り、季節性のある料理を作れるように。

「料理って、そこから広がる世界がすごい。頭を使うので、究極の“脳トレ”です。妻がおいしいと喜んでくれるから、食事のたびにうれしい気持ちが湧いてくる。自分で作ると、油や砂糖、塩の量も調整するようになり、ヘルシー。やや太り気味だったのが、夫婦で標準体重になりました」(男性)

自分なりの方法を見つけよう ポイントは2つ

脳トレ本がたくさん出ていますが、基本的に楽しくできるものでないと意味がない。継続できれば、なおいい。ひとつのことが、いろんなことに波及していければ、もっといいですよね。

あるスポーツトレーナーさんが言っていたのですが、運動習慣が身につくと、それに伴い行動変容が起こることが珍しくないそうです。運動で体形が変わり、その体形を維持するために食事内容が変わる。夜はお酒を控え、早く寝るようになる。体を動かす楽しさを知り、同じようなタイプの人とのつながりができ、みんなでジョギングをしたり、公園で集まって一緒に体を動かしたりするようになる。

いずれも現在の健康はもちろん、未来の健康(体だけじゃなく、当然ながら脳にも!)につながります。自分なりの「何か」を見つけ出すことはとても大切です。

でも、この「何か」を見つけることが難しいのですよね。今日の例は料理と運動でしたが、実はなんでもいいんです。眠りにつく前に、「あぁ、明日はこれをするのが楽しみだな」と思えることがあればいいんです。

それを見つけるためにポイントは、2つです。

1つ目は、躊躇せず、いろんなことに試しに参加してみることです。考える前に行動です。この気持ちが一番必要です。

そして、2つ目のポイントは、そこで自分が楽しいと感じるか、難しいと感じるかを見極めることです。

「好きこそ物の上手なれ」と言いますよね。楽しいと感じるということは、自分がそのことを上手にできて自分に合っているからです。この「楽しい」と感じることなら継続します。「楽しくないこと」を続けるのは苦痛になるので、やる必要はありません。

こうやっていくと、自分に合った何かが見つかります。ちなみに、私が最近始めたことは、濃い赤のバラが前から好きだったので、最近そのバラの挿し木を試みています。いつ根が出て芽が出るか、それだけでもワクワクして、心が豊かになりますよ。

(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)

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