さしがね合わせ

 大工道具に「さしがね」がある。L字形に折れ曲がった、金属製の物差しをいう。建築に欠かせない道具として、千年以上も使われてきたとされる▲一つ一つ、角度や寸法にごくわずかな差があるという。大勢の職人が一斉に仕事をする時は、それぞれ持ち寄った道具を調べ、やすりで削ったりして寸分もたがわないようにする。これを「さしがね合わせ」と呼ぶらしい▲自民党は10万円超、公明党は5万円超。政治資金規正法の改正を巡り、パーティー券を買った人の氏名を公開する基準額について自公が折り合わず、自民は単独で法案を提出した。さしがね合わせがないまま国会で審議される▲今の基準額の20万円超を、10万円超にまでは引き下げられるが、5万円超には下げられない-。どういう寸法で自民はそう判断したのだろう▲政策活動費の使い道の公開にも前向きとはいえない。事業所でも役所でも1円の使途不明さえ許されないご時世と、徹底した「公開」に二の足を踏む自民とは、どうやら物差しの角度や寸法が違っている▲「公明に寄りすぎるのは反対ですよ」。自民幹部は、岸田文雄首相にそう耳打ちしたらしい。辞書を開けば「さしがね」には〈陰で人を操ること〉の語義もある。「指図に従う」意味の「さしがね合わせ」ならば無用だろう。(徹)

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