消えゆくビン牛乳、そのたたずまいを愛したい

行く先々で牛乳を飲んでいる。特に温泉に行った時には、必ずといっていいほど牛乳を飲んでいる。特に気にも留めていなかったが、旅の写真を整理していると、自分が飲んだ牛乳の写真ばかりが残されているのだった。

旅先で飲む牛乳の多くは、ビンに入っているものである。昭和の小学生だった私は、毎日のように給食でビン牛乳を飲み続けてきたので、なじみの深い存在なのだ。心なしか、紙パックに入っているものよりもおいしいような気がする。

惹かれるビン牛乳のデザイン

そんなある日、長野に行った友人からおみやげとして松田乳業の牛乳ビンをもらった。

友人からもらったのは空き瓶だが、後日渋谷の「Hanako Stand」で購入したもの。コーヒー牛乳は白い字で書かれる。
「富より健康」、いいフレーズである。

「デザインがかわいいから」とのことだったが、確かに帽子に半ズボン姿の坊やのイラストと、「富より健康」のキャッチコピーが印象的なデザインだ。

以降、にわかに牛乳ビンのデザインが気になり始めた。温泉施設の自動販売機で売られているような大手メーカーの牛乳ビンは、大体が無地である。一方で、各地の乳業会社のビンは、それぞれに特徴的なデザインが施されており、レトロでかわいらしい。

東京近郊にも、こうしたかわいらしいビン牛乳は存在する。鴻巣市の大沢牛乳では、事務所で直接ビン牛乳を購入することができる。

JR吹上駅から徒歩10分ほどのところにある大沢牛乳の事務所。牛のイラストがかわいい。

事務所前には紙パック牛乳を販売する自動販売機もあり、これはこれでかわいらしいのだが、

事務所前の自販機で買えるパック牛乳。埼玉県のキャラクターであるコバトンがあしらわれている。

ビン牛乳のシンプルなデザインに惹かれてしまう。

シンプルなデザイン。裏面には「OSAWA」とローマ字表記がある。

相次ぐビン牛乳の販売終了

ところが、ここ数年でビン牛乳まわりの雲行きが怪しくなってきている。需要の減少や運搬時のコストなどの問題で、大手乳業メーカーが次々とビン牛乳の販売を終了しているのだ。小岩井乳業は2020年にフルーツ牛乳を、次いで2021年に全ビン製品の製造終了を発表した。そして2024年、森永乳業も3月いっぱいでビン牛乳の販売を終了したのである。

今後はもうビン牛乳を飲めなくなってしまうのだろうか……と心配になるところだが、まだまだ存続の動きはある。JR秋葉原駅の総武線上下ホームにあるミルクスタンドでは、近年「ご当地牛乳」のビン製品が数多く販売されている。

秋葉原駅・ミルクスタンドにて。こちらは飛騨牛乳の「濃いんやさぁ~」という銘柄。
同じくミルクスタンドにて、牛のイラストがかわいい信州安曇野牛乳。こちらのミルクスタンドではビンは持ち帰れない。

移動途中のサラリーマンや親子連れ、外国人客などがひっきりなしに訪れ、そのほとんどはビン牛乳を選んでいるのだ。

また今年2024年1月、渋谷駅構内に、雑誌『Hanako』がプロデュースするショップ「Hanako Stand」のミルクスタンドがオープンした。こちらでは、日本全国からセレクトされた牛乳が「濃厚/スッキリ」「旨味/甘味」の表で示され、その日の気分によって選ぶことができる。味のみならず、長野県のオブセ牛乳や三重県の山村乳業、富山の八尾乳業協同組合などのビン牛乳が並び、ビンのデザインにもこだわりが感じられる。

かわいい天使が描かれたオブセ牛乳。赤や緑のバージョンもある。
牛乳・フルーツ牛乳・コーヒー牛乳で、微妙にデザインが異なる山村牛乳。
八尾の伝統的な祭りである「おわら風の盆」のシルエットが描かれる、八尾乳業協同組合のビン。

今後もビン牛乳が存続することを願って

牛乳そのものの消費量が減少していると言われる現在、ビン牛乳の存続は一層厳しくなるのかも知れない。それでもビン牛乳文化が消えてしまうのは何とももったいない。今後も残っていって欲しいという願いを込めて、私は今日も行く先々で牛乳を飲む。

山梨・ほったらかし温泉にて。ビン下部の緑の模様から、小岩井乳業のものと思われる(2008年)。
画質が悪いが、大地の芸術祭で訪れた新潟にて。津南町の島田牛乳(2009年)。
稲城の温浴施設「季乃彩」にて。自動販売機で購入した明治乳業のもの(2015年)。
湯河原にて。同行の友人が湯上りに酒を飲む中、1人で牛乳を飲んでいる(2011年)。
基本は牛乳だが、たまにフルーツ牛乳を飲む場合もある(2018年、三峯神社にて)。前述のとおり、この小岩井乳業のフルーツ牛乳は今は販売されていない。
岐阜駅で、ご当地の関牛乳のポップアップショップがあった(2024年)。ピーチ牛乳なので、うっすらピンク色である。

イラスト・文・写真=オギリマサホ

オギリマサホ 著書(Amazon)

オギリマサホ
イラストレータ―
1976年東京生まれ。シュールな人物画を中心に雑誌や書籍で活動する。趣味は特に目的を定めない街歩き。著書に『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)、『斜め下からカープ論』(文春文庫)。

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