くも膜下出血で急逝した夫の〈生命保険金2,500万円〉、“非課税”のはずが…2年後に追徴課税1,000万円で50代専業主婦の妻、呆然「なにかの間違いでは?」【税理士が解説】

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節税対策として有効な「生命保険金」。しかし、契約内容によってはむしろ多額の税金がかかってしまうケースは少なくありません。本記事では、A子さんの事例とともに生命保険契約時の注意について、税理士法人OGUの小串嘉次信税理士が解説します。

義父「生命保険の受取人になってくれるね?」

A子さんは東京在住、会社員の夫と子供4人とで暮らす50代の主婦である。隣町に住む夫の父親はかなり高齢だが昔大きな事業をしていたようで相当な財産を所有していた。

ある日、夫の父親(C氏)がA子さんの自宅に訪れ、夫とA子さんにこう告げた。

「私も相当年を取ってきたものだから、B生命保険会社が相続対策にと、2,500万円の生命保険の契約を勧めてきた。私のような年齢でも加入できる生命保険があり、被保険者を息子にするというのだ。私はこれに加入しようと思う」

夫の父親であるC氏がB生命保険会社から提案された内容は以下のとおりである。

・被保険者は息子(夫)であるため、C氏が亡くなっても生命保険金はおりない

・C氏が亡くなったときには、C氏が払い込んだ保険料の合計額が一種の財産となってC氏の相続財産となる

・保険の被保険者が息子であるため、その時点で契約者の名義変更を息子へ簡単に切り替えることが可能→相続手続きが楽になる

「つまり、私が亡くなったあと、契約者が息子に切り替わって承継していく保険なのだ。いずれは息子もこの世を去るだろうからそのときにこの保険金がおりるわけだ。保険金は息子の妻であるA子さんに受け取ってもらいたい。

もちろん順番としては私があの世に行き、その後ずいぶん経って息子が旅立つだろうから受け取りはかなり先の話になるがね。そんなわけで契約時に受取人をA子さんで記載しようと思っているのだが了解してくれるね」

A子さんは断る理由もないので夫の父親の説明どおり、契約者義父、被保険者夫、受取人A子さんという生命保険契約を承諾した。

突然の出来事

それから2年ほど経過したころ、A子さんの夫が急性くも膜下出血で突然逝去したのである。夫の父親も高齢ながらまだ存命中に関わらずA子さんの夫のほうが先に旅立ってしまったのだ。

A子さんは悲嘆に暮れながらも相続税の申告期限も気になるので相続手続きに着手した。

相続税額の計算

夫の遺産の相続税額

まず、夫の預貯金を調べることから始めた。2,000万円であった。夫は4人の子供たちの学費を支払いながらも、よくこんなにたくさん残してくれたものである。A子さんは改めて夫に心から感謝した。

続いて、80坪の自宅の敷地について。評価は路線価価額で8,000万円。近ごろ、東京の地価は上がっているため、評価が高いのは仕方がない。しかしながら「小規模宅地の特例」の制度利用で80%の減額が可能となり、6,400万円が減額できる。結果、宅地の課税対象は1,600万円である。自宅の建物評価は1,000万円であった。

夫の主だった財産は以上であるため、相続税の課税対象は合計4,600万円となる。相続税の基礎控除は相続人がA子と子供4人で6,000万円取れるため、A子さんの試算では相続税は課税されなさそうである。

義父からの生命保険金の存在

ここでA子さんは2年前に義父が契約していた、夫を被保険者とするB生命保険会社の生命保険契約を思い出した。「確か私が受取人になっていたよな……」A子さんは義父に連絡をとり、生命保険金の請求を依頼した。

B生命保険会社社からほどなく、受取人A子さんの銀行口座に2,500万円の保険金が振り込まれた。受け取った夫の生命保険金2,500万円は、

相続税法上法定相続人5人×500万円

の計算で、別枠の生命保険控除2,500万円が取れることをA子さんは知っていたので、生命保険金は課税されない判断をした。

その結果、相続税の課税対象4,600万円、生命保険金の課税対象額0円、基礎控除6,000万円。ゆえに相続税申告納税額0円とする相続税申告書を所轄税務署に期限内申告を行った。

2年後に届いた税務署からの手紙

相続税申告書を提出してから2年ほどが経った秋、所轄税務署の資産税課から問合せの手紙が届いた。B生命保険会社との生命保険契約で確認したいことがあるから来署してほしいとの趣旨である。

期日が指定されてあったので、当日税務署に訪問することにした。

税務署でA子さんが指摘されたこと

税務署においての、A子さんと税務署の担当者とのやりとりは以下のとおりである。

税務署担当者「本日はご来署いただきありがとうございます。ご主人様のことはお気の毒で申し訳ないのですが、当方も事務を進めなければなりません。早速ではありますが、B生命保険会社との契約の経緯をご説明いただけますか?」

A子さん「ええ、義父がB生命保険会社から勧められて当時加入したものです。私が受取人になるという了解だけしました」

税務署担当者「そうですか。それでしたらお義父様がご自身で契約して保険料をご自身で払い込み、A子さんのご主人のご逝去を原因にA子さんが保険金を受け取ったことになりますね」

A子さん「そのとおりです」

税務署担当者「でしたら、この生命保険金は相続税の範疇ではなく贈与税の課税対象になります。」

A子さん「ええっ! なにかの間違いでは? 死亡保険金をもらってるのに、相続税の対象ではないなんて……そんなこと、考えられないと思いますが……!」

税務署担当者「はい、詳細をご説明しますね。よく聞いていただきたいのですが、保険料をご負担したのがお義父様なのでご主人様のご逝去をきっかけに、契約者のお義父様から受取人のA子さんへ保険金相当額の贈与があったと考えることになります。

もしもご主人様が払い込んだ保険料でA子さんが保険金を収受されていた場合、それは確かに相続税の範疇です。しかし今回のケースでは、お義父様が払い込んだ保険料はご主人様が亡くなられたことを原因に、実質的にA子さんへ財産移転しているので贈与税の課税対象になるのです。よく税務判断で間違えやすいケースではあります」

驚愕の事実を告げられ、しばらくのあいだ呆然とするA子さん。

A子さんが支払うことになった多額の追徴課税

結局、税務署の指導に従うかたちで、義父から保険金額の贈与があったとして保険金を受け取った年の贈与税の申告を行った。

贈与税額は、本税が945万円と無申告加算税および延滞税を合わせて1,000万円程度の追徴課税を支払うことになったのである。

生命保険契約の「契約者・被保険者・保険金受取人」に要注意

生命保険に関する税務判断は、契約者、被保険者、保険金受取人の3者が誰であるかによって課税関係が大きく変わってくることに極めて注意が必要である。

今回のケースは、契約者すなわち保険料負担者と受取人の関係が義父とA子さんの関係性であったため、夫の死亡を原因とする贈与契約との判断となった。

この事案で夫が急逝することなく順番通り義父が先に死亡していた場合を考えてみると、義父の死亡時点では義父の支払った生命保険料相当額は解約返戻金として相続税の課税財産となる。そして保険契約が夫に名義変更されたあとに夫が死亡したときには贈与税の対象ではなく相続税の対象となる。しかし生命保険金控除2,500万円の対象となるため、結果的に相続税が課税されずに済んだのである。

生命保険の契約を結ぶ際には、将来的に受け取るときの状況を想定して最初に課税関係をクリアにしておくことがとても肝要である。

小串 嘉次信

税理士法人OGU

税理士

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