特急「かんぱち・いちろく」 -ゆふ高原線の風土を五感であじわう新D&S列車 (THE列車)

「いさぶろう・しんぺい」が生まれ変わったD&S列車

熊本・人吉駅〜吉松駅間を走り、2023年に惜しまれつつ運行を終了した特急「いさぶろう・しんぺい」。
その車両が大リニューアルを経て、新たなD&S(デザイン・アンド・ストーリー)列車として生まれ変わりました。それが「かんぱち・いちろく」です。

「久大本線(ゆふ高原線)の風土をあじわう列車」をコンセプトに、博多駅〜別府駅間を久大本線(ゆふ高原線)経由で約5時間かけてのんびりと走ります。

「かんぱち・いちろく」はどんな列車?

新たなデザインパートナーのもとで再誕


「いさぶろう・しんぺい」として活躍したキハ47形2両と、普通列車として走っていたキハ125形1両を全面リニューアル。

JR九州のD&S列車といえばこれまで、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が長らく全般デザインを担当してきましたが、「かんぱち・いちろく」デザインを引き受けたのは鹿児島市のデザイン会社・IFOO。
新たなパートナーが手掛けるシックでスタイリッシュなデザインに注目です。

久大本線の開通に貢献した郷土の偉人の名に由来

さて、この「かんぱち・いちろく」という列車名。これは、現在の久大本線である国鉄久大線の開通に多大な貢献を果たした大分県出身の実業家、麻生観八(あそうかんぱち)氏と衞藤一六(えとういちろく)氏に由来します。
下り列車(博多駅発別府駅行き)は特急「かんぱち」号、上り列車(別府駅発博多駅行き)は特急「いちろく」号と、別々の列車名で運行されますが、総称して「かんぱち・いちろく」と呼ばれます。

新形式「2R形」に込められた意味にも注目


ベースはキハ47形とキハ125形ですが、車両形式は「2R形」という聞き慣れないもの。これには「二人のロマン」という意味が込められているそう。

そして1号車から順に、「2R-16」、「2R-80」、「2R-38」の車番が振られています。1号車の「16」は衞藤一六氏に、3号車の「38」は麻生観八氏が八鹿酒造の三代目であったことに由来。そして2号車の「80」はというと、車内に設けられた一本杉のカウンターが約8.0m(7.88m)であることに由来するそうです。

沿線の雄大な風景を映す艶黒のエクステリア


新たなデザインパートナーの手によって生まれ変わった車両の外観は、艶のある黒が基調。光沢感のある車体に沿線の景色を映して駆け抜けます。
側面に走るゴールドのラインは久大本線の路線図がモチーフ。その上下には同路線の37駅がエッジラインとしてあしらわれています。

車内デザインは沿線地域がテーマになっており、各車両で異なる地域が取り上げられています。

大分・別府の風土をイメージした1号車「2R-16」


6人用の畳個室

大分・別府方面の1号車は、大分の風土がテーマ。火山や温泉などをイメージした赤茶色を基調に、3人掛けソファ席5席と、6人用・4人用ボックス席を各1区画配置。
さらに、熊本県八代産のい草を使った6人用の畳個室が運転席側に設けられています。各席のテーブルに用いられた大分県産の杉材や、久大本線に沿って流れる大分川水系をイメージした絨毯など、インテリアから沿線地域の特色を感じることができます。

ビュッフェとラウンジを兼ね備える2号車「2R-80」


2号車は、沿線の特産品を販売するビュッフェと共用スペースの2つの機能を持つ「ラウンジ杉」。由布院・日田の豊かな自然をモチーフに、窓辺に飾られた季節の観葉植物や、日田盆地の底霧をイメージした天井の飾り板など、スタイリッシュな内装で落ち着きのある雰囲気を演出しています。
中央で大きな存在感を放つ一枚板のカウンターは、樹齢約250年という希少な杉の大木から作られたもの。端に鏡を置くことで、車両の奥までカウンターが続いているかのような視覚効果を生んでいます。鏡はデジタルサイネージの役割もあり、動画の放映などを行っています。

福岡・久留米の風土がテーマの3号車「2R-38」


博多方の3号車の内装は福岡・久留米の風土をモチーフとして、沿線の自然風景をイメージした緑色と、福岡県の県章にも使われている青色の2色をベースにまとめられています。
座席は4人用3区画と、2人用4区画、3人用ボックス席1区画のボックス席計8区画に加え、1号車と同様に畳個室が運転席側に1室設けられています。

テーブルに使われている杉材は福岡県産で、群青色の絨毯は筑後川水系の清らかな流れをイメージしています。

「かんぱち・いちろく」はこう楽しむ!

曜日ごとに異なる地元食材のランチ


特急かんぱち号で土曜日に味わえる「FUCHIGAMI」

広い車窓から筑後川や大分川、由布岳などの雄大な風景を眺めながら、地元食材をふんだんに使ったランチを楽しめるのがこの列車の大きな魅力の一つ。
和食・フレンチ・イタリアンと曜日ごとに異なる内容で、それぞれ福岡・大分両県の名店が手掛けます。列車名の由来でもある麻生観八氏が再興した八鹿酒造が「かんぱち・いちろく」のためだけに醸したオリジナルの日本酒も販売されています。

地元の方々とのふれあいの時間も


うきは駅でのおもてなしの様子

田主丸駅でのおもてなしの様子

「かんぱち・いちろく」は博多駅〜別府駅間を約5時間かけてのんびりと走ります。快適な列車とはいえ、ちょっと時間を持て余してしまうのでは……と思ったあなた!
上下列車とも、食後のちょうどいいタイミングで「おもてなしイベント」が用意されているので、その心配は不要です。下り列車では田主丸駅と恵良駅、上り列車では天ケ瀬駅とうきは駅でそれぞれ約9分〜20分停車し、地元の方々とのふれあいの機会が設けられています。


列車情報

運転日 【特急「かんぱち」号】毎週月・水・土曜日 【特急「いちろく」号】毎週火・金・日曜日
運転区間 久大本線(ゆふ高原線経由) 博多駅〜別府駅間
運転時刻 【特急「かんぱち」号】博多駅12:19発→別府駅16:59着 【特急「いちろく」号】別府駅11:00発→博多駅15:47着


「かんぱち・いちろく」の詳しい情報はこちら!(JR九州公式HP)


著者紹介

佐藤正晃

1991(平成3)年、スーパートレイン全盛期生まれの旅行・交通ライター。青森県青森市出身。

撮影旅・乗車旅が好き。最近は吞み鉄にもハマっている。

親の転勤が多く、幼少期は盛岡市や東京都で過ごしたため、東日本エリアの鉄道には並々ならぬ思いがある。大学卒業後、旅行関連業界を経て、現在は取材のため各地を飛び回る日々。


  • ※文/佐藤正晃
  • ※写真/JR九州
  • ※掲載されているデータは2024年5月1日現在のものです。

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