久保建英ら不在の中、出場権獲得に貢献した神セーブGK、アジア杯MVPと「Jリーグ組」【日本サッカーにオリンピックは必要か】(1)

U-23日本代表は小久保玲央ブライアンの神セーブもあって五輪出場権を獲得し、アジアカップも制覇したが…。撮影/渡辺航滋(Sony α1使用)

今年の夏、世界的なスポーツの祭典がある。フランスの首都、パリで開催されるオリンピックだ。サッカー日本代表は男子、女子ともに出場するが、はたして現在の日本サッカーにとって、五輪は本当に必要な大会なのか。サッカージャーナリスト大住良之が、その意義を問う。

■W杯出場26人中16人がオリンピック出場

「オリンピックは、日本のサッカーにとってワールドカップに直結する重要な大会」――。私はずっとそう考えてきた。

地理的に、極東に位置する日本。真剣勝負で「世界」を体感できるのは、ワールドカップを除けば、ユース年代(20歳以下と17歳以下)のFIFA大会、そして、23歳以下のオリンピックだけだ。「ワールドカップ優勝」を最終目標にかかげるなら、こうした大会にコンスタントにチームを送り込み、選手に経験を積ませなければならない。

とくにワールドカップに直結する年代の世界大会であるオリンピックは、2022年のワールドカップ・カタール大会の出場26人中、直前の東京オリンピック出場が12人(オーバーエージも含む)、それ以前の大会を含めると「オリンピック出場経験者」は16人にもなる。オリンピックでの戦いがワールドカップに直結してきたのは間違いない。

だが、4月から5月にかけてカタールで開催された「AFC U-23アジアカップ(兼パリ・オリンピック・アジア最終予選)を見ながら、オリンピック出場権獲得を願いながらも、私の心に浮かんだのは、「もうオリンピックがなくてもいいのではないか」という思いだった。

言うまでもないが、これは「サッカー男子」に限った話である。原則として23歳以下の選手で争われるオリンピックの男子サッカーに対し、「サッカー女子」は12チームと出場チームは少ないが、フル代表の大会であり、なでしこジャパンにとっては、女子ワールドカップに劣らない重要な大会となっている。今回のコラムは、「オリンピックのサッカー男子」に限った話であることをお断りしておく。

■放映権料440億円「踊らされる」国民

もちろん、オリンピックは日本の社会における注目度が異常なほど高く、メディア、なかでもNHKを中心としたテレビ業界は、大会前から「全力報道」の態勢をとる(注目度が高いからメディアが全力報道をするのか、テレビで毎日延べ数十時間放送するから国民がそれに引っぱられるのか、私にはよくわからない)。2022年の冬季大会(北京)と今夏のパリ大会を含めて日本のテレビ界(NHKと民放でつくる「ジャパンコンソーシアム」)が負担する放映権料は、実に440億円にのぼると報道されている(2022年3月9日、「読売オンライン」)。大会前から日本のテレビは「オリンピック一色」になり、国民はそれに踊らされることになる。

そうした国民的な「お祭り騒ぎ」のなかで、日本のサッカー男子代表がふがいない戦いぶりを見せたり、物足りない成績に終わったら、もっと言えば出場権を獲得できなかったら、日本の社会のなかにおけるサッカーという競技のイメージに、小さからぬダメージを与えるのは理解している。だが、論点を明確にするために、今回はその側面は無視することにする。

■出場権、そして優勝を引き寄せた「Jリーグ組」

さて、今回の「最終予選」で、大岩剛監督率いるU-23日本代表は、明らかに「ベストメンバー」を組むことができなかった。もし、この年代のベストチームを選べば当然のように中心選手になる、MF久保建英(レアル・ソシエダ)、GK鈴木彩艶(シントトロイデン)、FW鈴木唯人(ブレンビー)といった選手たちを選出できなかった。この大会がFIFAの定める「国際マッチカレンダー」内のものではないため、彼らが所属するクラブには「放出義務」がなかったからである。

そうした状況だったから、「U-23アジアカップ」の3位にまで与えられるオリンピックの出場権を獲得できないのではないかという懸念が、大会前には渦巻いていた。この大会に招集できた23人の内訳は、「欧州組」が5人、「Jリーグ組」が17人、「大学生」が1人だった。

欧州組は、ポルトガルのベンフィカに所属するGK小久保玲央ブライアン、ドイツ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフに所属するDF内野貴史、ドイツのベルダー・ブレーメンに所属するMF佐藤恵允、そしてベルギーのシントトロイデンに所属するMFの藤田譲瑠チマ、MF山本理仁。このうち国内リーグでコンスタントに先発出場しているのは、シントトロイデンの2人だけだった。「大学生」は筑波大のFW内野航太郎である。

GK小久保は数々の好セーブでチームを救い、MF藤田は大会の最優秀選手になったが、U-23アジアカップの激戦を戦い抜き、オリンピック出場だけでなく優勝を手にすることができたのは、何といってもチームの7割弱を占めた「Jリーグ組」の奮闘と活躍があったからだった。

© 株式会社双葉社