「Senua's Saga: Hellblade II」レビュー プレーヤーの心を揺さぶる意欲作。登場人物の葛藤や心の動きが見える“大人向け”の作品

by 咲文でんこ

【Senua's Saga: Hellblade II】

5月21日 発売

価格:7,040円(税込)

Xbox Games Studiosは、Xbox Series X|S/Xbox Game Pass/PC用シネマティックアドベンチャー「Senua’s Saga: Hellblade II」を5月21日に発売した。

本作は、Ninja Theoryが開発したアクションアドベンチャーゲーム「Hellblade: Senua's Sacrifice」の続編だ。前作に引き続きセヌアが主人公となっており、バイキングの脅威に立ち向かうために再び旅に出る。プレイヤーはセヌアとなり、物語をともに体験していく。

本作の特徴はなんといってもその高いグラフィックスのクオリティにある。Unreal Engine 5で開発された、驚くほど美しいビジュアルは特徴的だ。背景などを含めて、すべて描写が美しいが、特に人物の描写に強いこだわりを感じた。特に表情や目力の力強さは随一だ。

そのグラフィックスのクオリティ故に、本作の重々しい世界観、そして今見ている世界や姿が現実なのか幻なのか。そういったことがよりくっきりと描かれ、プレーヤーの心を動かしていく。

本稿では、そんな「Senua’s Saga: Hellblade II」のレビューをお届けする。

幻聴と幻覚と共に進む。どこまでが現実なのかもわからない不思議な世界観にプレーヤーを引き込む

本作のストーリーは前作の続きで、舞台は10世紀のアイスランドだ。主人公・セヌアは、ヴァイキングのアイスランドの神話と苦難の中で生存をかけた過酷な旅に戻る。圧政の恐怖に陥った人々を救おうとするセヌアは、内外の闇を乗り越える戦いに向かっていくのだ。

だが、本作の世界観のポイントはその舞台だけではない。というのも、セヌアが精神病を患っており、幻視と幻聴に囚われているのだ。彼女の旅は幻聴と共にある。幻聴というと自分を惑わせる存在のように感じるが、むしろ彼女の旅のパートナーのような存在でもある。セヌアにアドバイスをすることもあれば、彼女の行動を止めるようなこともある。そういった幻聴に助けられながら、時には幻聴のアドバイスを無視して行動することもある。作品によってはナビゲーターのような存在とも言えるかもしれないが、それを幻聴という表現としているのは本作のユニークな部分だ。

画面下部に表示されている字幕が彼女の幻聴である。幻聴は左右から聞こえてきており、ヘッドホンやイヤホンで聴くと、よりクッキリと浮かび上がる

また、より世界観を深めているのが幻覚である。途中途中でセヌアは現実なのか現実じゃないのかはわからない不思議な場所に迷い込むことがある。ゲーム的な意味ではパズル要素がそこに盛り込まれており、ゲームにアクセントを与えるという役割もあるが、彼女、そして我々プレーヤーが見せられているのは現実なのか、彼女だけが見えている幻想なのか。それが本作の体験をよりプレーヤーに印象づけるのだ。

幻聴や幻覚を交えた世界観や演出はユニークかつ重々しいもので、これは本作ならではの強烈な体験だった。だが、一方でその演出が故にストーリーはかなり難解だと感じた。正直、筆者も1周で理解できた部分は少ない。これに関しては、まずは通してプレイした後、大枠を掴んでもう1周するのが良さそうだ。

ただ、ストーリーが難解なりに要素要素はグッとくるモノがある。例えばあるシーンでは命や子供という存在について考えさせられたし、燃えさかる溶岩があるエリアでは、グラフィックスの美しさ、そして映像作品を思わせるカメラワークなどで、プレーヤーを惹きつけるシーンを作り上げていた。不思議と物語に引き込まれた。全体像がもう少し掴みやすいとよりプレーヤーを引き込むことができるだろう。

基本は一本道。ストーリーとこの世界に没入できる

ゲームシステムとしては基本的に一本道のルートを進んでいく。道中に探索要素や、ちょっとしたパズル要素などもあるため、映像作品に近い完全な一本道ではなく、自分の意志でキャラクターを動かすというゲーム体験を提供していた。

探索要素は極端に難しくはないが、少し悩まされる部分もあった。例えば、次のエリアに移動するために“印”を探すシーンがある。道が封鎖されているときに印が浮かび、周囲からその形をしたオブジェクトを探すと道が開くというものだ。印は自然に紛れて埋まっているのでノーヒントで探すのは正直かなり難しいが、近づくとヒントが出るので、ヒントを参考にすれば比較的スムーズに先に進めるだろう。

進行方向を塞いでいる印と同じものを探すパズル要素がある。ノーヒントだと難しいが、そこは救済措置があった

また、パズル要素で言うと、スイッチのようなものでフラグを立てると目の前に通路が現れたり、逆に消えたりする仕組みがある。自分の行きたい通路が塞がっている場合はそのフラグを立てることで通行可能になるという仕組みだ。だが、その先では逆に通路が消えてしまっている場合もあり、別のフラグを立てる場所を探すことになる。

これらに共通するのは、周囲を探索するということだ。ただ一本道を進むだけではなく、探索があることで、プレイヤーこそが主人公セヌアなんだということを強調してくれるため、より本作の世界に浸れるという仕組みになっている。それでいて、広大な範囲を探すことは求められないので、ストーリーにも集中できるちょうど良いアクセントになっている。

フラグを立てると消えたり出現したりする岩がある。また、たいまつの火を使ったパズル要素もあり、その使い方がまた世界に没入する要素を増している

また、本作には戦闘要素もある。戦闘は基本的に敵の攻撃を避け、ないしはパリィではじき返して、その隙にこちらの攻撃をたたき込むという流れだ。相手の攻撃タイミングを見極め、反撃する重厚な戦闘を楽しめる。また、難易度をダイナミック>イージー>ミディアム>ハードの順で選択可能となっており、アクションもしっかり楽しみたい人からアクションが苦手だけどストーリーを楽しみたいという人までカバーしてくれているのも嬉しい。

しかしながら、戦闘はすべて1vs1で、複数の敵と同時に戦うような変化は最後までなく、少し単調に感じた。シーン上複数の敵と戦うこともあったのだが、1体を倒したら次の1体が出てくるという形だ。複数体の敵と戦わせられ、同じような戦闘が続くので、ゲームを冗長に感じさせるところもあった。しかしながら、ムービーを見るだけではなく、プレーヤーに戦闘を体験させることで、より没入感を出す工夫にはなっている。もう少し戦闘にスリルやアクション要素の高さがあればもっと楽しめただろう。

パリィや回避で隙を作って、攻撃をたたき込むのがバトルの基本だ。最初は新鮮だったが、同じような戦闘が続くと、冗長な部分を感じた

ゲーム部分ではいわゆるHUDが一切表示されない。マップも見れないし、明示的に目的地に案内するガイドもない。また、戦闘時も自分の体力や敵の体力なども表示されず、それがゲームへの没入感をより増している。物語としての体験を重視している本作の方向性がここからもわかる。

またショッキングな描写や流血表現などもある。それ単体に意味があるわけではなく、その前後の展開やセヌアの考えが苦悩が絡みあうことによって、プレーヤーの感情を動かすために配置されてると感じた。

過激な描写も少なくない。そうやってプレーヤーの心を動かすのが本作の魅力でもある

また、音響面もポイントである。幻聴などを再現するためにバイノーラル録音が用いられており、ヘッドホンで聴くことで没入感が増す。ここは開発元もこだわった点のよう注意点にもメッセージが表示されるので、できるだけ良い環境で聴いてほしい。

改めてまとめると、前作の良さを受け継ぎつつ、さらに映像表現を進化し、重厚な世界観、そしてセヌアの行動や感情の揺れ動きを通じて、プレーヤーの心を揺さぶる意欲作だと感じた。プレーヤーがこの世界の中に没入し、セヌアとして、幻聴や幻覚とともに闇と戦っていく。そこが本作の何よりの魅力だ。それは多くのプレーヤーに体験してもらいたい。

一方で、気になった点は探索やパズル要素の冗長さや、戦闘のテンポだ。特に、戦闘は相手の攻撃をパリィしたり、回避してしてから攻撃ボタンを押して敵を攻撃するというシステムで単調な部分があった。1体、2体程度なら良いが後半は複数体との連戦もいくつかあり、少し作業感が出てしまいそこは残念に感じた。

ストーリーの難解さも気になった点ではあるが、それは必ずしもネガティブな要素ではないし、むしろ、それは本作の特徴とも言える。簡単で誰にでも理解できるようなストーリーでは、主人公の苦悩や、感情の揺れ動きが感じず、本作の魅力が減ってしまうだろう。

重厚な世界観を楽しめるのが何よりの魅力である。重々しい、だからこそ登場人物達の葛藤や心の動きが見える。そういった部分を楽しめる“大人向け”の作品であると言えるだろう。

なお、本作は発売初日からXbox Game Passにも対応している。他にもXbox Series X|S/Windows PC/Steam/Xbox Cloud Gaming(Beta)にてプレイ可能だ。

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