「働き方改革」で収益は? カゴメの人的資本経営― 離職率は平均の10分の1! 「開かれた企業」の人材戦略

カゴメはトマト加工食品の大手です。経営理念に「開かれた企業」を掲げ、特に人材を大事にする社風があるといわれています。人的資本経営コンソーシアム(※)も2023年、人的資本経営に取り組む好事例としてカゴメを紹介しています(出所:経済産業省 人的資本経営)。

※人的資本経営コンソーシアム:人的資本経営の促進を目指す団体。人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上につなげる経営のあり方。

カゴメが人材を大切にするとの評判は本当でしょうか。雇用データや人事制度から探ってみましょう。

離職率1%、男性の育休8割 カゴメの働きやすさをデータで確認

まずは離職率から確認します。人材を大切にする企業なら、従業員の多くが職場にとどまり離職率は低くなると予想されます。

カゴメの離職率は2022年で1.3%でした。一方、雇用動向調査(2022年)における一般労働者の離職率は11.9%です。単純に考えれば、カゴメの離職率は平均の約10分の1しかありません。離職率からは、確かにカゴメが従業員を大切にしている姿勢がうかがえます。

【離職率の比較(2022年)】

・カゴメ:1.3%
・平均:11.9%

※カゴメは自己都合退職者の割合(単体)
※平均は雇用動向調査の値(2022年、一般労働者)

出所:カゴメ ESGデータブック、厚生労働省 雇用動向調査

カゴメの離職率はなぜ低いのでしょうか。その他の雇用データも確認してみましょう。

カゴメの年収は平均より約300万円高くなっています。ただし労働時間が長いわけではありません。総労働時間は平均をやや下回っています。また有給休暇や育児休業の取得率も高水準です。特に育休の取得率は高く、女性は100%、男性も約8割が取得しています。

【カゴメの主な雇用データ(2022年)】

※カゴメは単体
※平均の出典:年収は民間給与実態統計(2022年分)、年間総労働時間は毎月勤労統計調査(2022年分確報、一般労働者)、有給取得率は就労条件総合調査(2022年)、育休取得率は雇用均等基本調査(2022年)

ほかに、子を持つ従業員が1日2時間まで労働時間を短縮できる「育児短時間勤務制度」や、誕生日や結婚記念日といった従業員個人の記念日に休暇を取得できる「メモリアル休暇」、有給とは別に数日間連続で休める「リフレッシュ休暇」もあります。

カゴメは年収が高いだけでなく休暇を取りやすい環境が整っているようです。これらの手厚い待遇は離職率の低さに貢献していると考えられます。

場所と時間から解放 自由な働き方を実現する人事改革とは

カゴメの働きやすさは人事制度からもうかがえます。2019年に働き方改革関連法が施行されるよりも前、2016年度には長期ビジョンの一環として「働き方の改革」を掲げました。近年では以下のような人事制度の改革を行っています。

【カゴメの近年の人事制度改革】
・ 地域カード(2018年)
・ スーパーフレックス勤務制度(2019年)
・ テレワーク勤務制度(2019年)
・ 副業制度(2019年)
・ 専門職コース(2020年)
※()は導入年

出所:日本経済調査協議会 人材委員会 第4回資料

「地域カード」は従業員が勤務地を選べる制度です。希望地域への転勤オプションと、勤務地を一定期間固定するオプションを3年に2回利用できます。育児や配偶者との同居など、従業員が家族の状況に合わせ勤務地を柔軟に選ぶことが可能です。

「スーパーフレックス勤務制度」は好きな時間に働ける制度です。従業員は5時~22時の時間帯で勤務が可能で、労働時間は1カ月単位で清算されます。いわゆるコアタイム(※)も2020年に撤廃されました。

※コアタイム:フレックス勤務制度において就業を義務付ける時間帯のこと。

社員のモチベーションを支える制度も充実しています。

例えば全従業員が対象となる「自己申告制度」では、従業員が中長期の目標を申告し、カゴメが当人のキャリアを支援します。また「社内公募制度」では、カゴメが募集する特定のポジションへ従業員が自主的に応募できます。さらに入社2年目以降(新卒は4年目以降)なら副業も認められており、自立的なキャリア形成が可能です。

カゴメが女性を重視する戦略的な理由

カゴメの人材戦略で特に目を引くのが女性の活躍です。女性の雇用における数値目標を設定し、毎年取り組んでいます。

【女性の雇用に関する数値目標】

出所:カゴメ 統合報告書2024

2040年頃までの長期ビジョンとして「社員から役員まで各職位の女性比率50%」という目標も掲げています。

カゴメの従業員の女性比率は2023年に32%に達しました。新卒採用の女性比率目標(60%以上)から、若年層ほど女性が多い構造となっています。40代~50代が中心の管理職は女性比率が低い状況ですが、若年層のキャリアが進めば管理職の女性比率も上昇するとみられます。

出所:カゴメ 統合報告書2024より著者作成

なお役員の女性比率は高水準です。2023年7月で37.5%と、食料品の上場企業ではサントリー食品インターナショナルに次いで2番目に大きな割合となっています。

【食料品上場企業の女性役員比率の上位3社(2023年7月末)】
・ サントリー食品インターナショナル:44.4%
・ カゴメ:37.5%
・ コカ・コーラ ボトラーズジャパンHD:33.3%
・(参考)食料品上場企業の平均女性役員比率:11.9%

出所:内閣府 男女共同参画局 女性役員情報サイト

カゴメの女性重視は経営上の戦略的な理由からです。

カゴメは企業戦略としてダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)を進めており、女性活躍の推進はその一環です。

人口減少が進む中、人材の確保には誰もが働ける職場づくりが欠かせません。カゴメは女性を含む多様な人材が安心して働ける環境を整備し、持続的な成長を目指しています。

働き方改革で収益は? イノベーションで「ありたい姿」実現へ

従業員の柔軟な働き方を支援するカゴメですが、生産性や収益性はどうなのでしょうか。

カゴメの従業員1人あたりの売上収益は2023年度で7700万円と、2018年度(同7300万円)の水準を維持しています。本業の利益に相当する営業利益も、売上に占める割合は同業他社に引けをとりません。

【営業利益率の比較(連結、2022年度)】 ・ カゴメ:6.2% ・ プライム上場企業(食料品):5.18%
※カゴメは2022年12月期
※プライム上場企業(食料品)は2023年3月期決算企業44社の集計

出所:カゴメ 主な経営指標(IFRS)、日本取引所グループ 決算短信集計結果

カゴメは2025年までに「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」という目標を掲げています。現在はその最終段階である第3次中期経営計画の推進中です。

基本戦略には「挑戦する風土の醸成」も組み込まれました。カゴメは育んできた多様な人材をイノベーションの創出につなげ、計画の仕上げに入ります。

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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