【インタビュー】the superlative degree本格始動、1st EP『導火』でシーンに完全帰還「“いつかまた”みたいなことはしない」

the superlative degreeが6月2日、1st EP『導火』をCDリリースする。これに先駆けて5月21日より各種音楽サービスにて先行配信が順次スタートした。中心人物である橋都章人(Vo / ex. ALL I NEED〜HUSH〜acalli)は、2010年に音楽業界を一度引退したものの2023年4月、HUSH主催イベント<-cocoon841415516->で13年ぶりにステージ復帰を果たした。同公演はHUSHオリジナルメンバーでの20年ぶり復活というトピックも注目を集めた。

「どうせ戻ってきたのなら、自分らしい新しい音楽を書いて未来に残したい」──章人が新バンドのメンバーとして白羽の矢を立てたのがSHINGO (Dr / ex. JURASSIC)だ。ふたりのセンスと経験を重ね合わせたサウンドは、この時点ですでに未来の輝きを予感できる先鋭的なものであったという。そこに加わった元HUSHの誠一朗(G)と宏之(B)、YUJI (G / ex. acalli)がアンプリファイアーの役割を果たすがごとく、the superlative degreeに鋭さとパワーをもたらした。

そして完成した1st EP『導火』には全4曲を収録。攻撃的でノイジーなサウンドだけではなく、メロディアスな美しさを持ちながら、彼らがそこに詰め込んだセンスは、実績に裏付けられた普遍的であり最先端なものだ。“最上級”を意味するthe superlative degree結成前夜から1st EP『導火』制作に至るまで、章人とSHINGOにじっくりと語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。

▲1st EP『導火』
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■自分に残されてる時間には限りがあって■ここからの人生に対して後悔したくない

──新バンドthe superlative degreeが始動を発表したのは2023年末のことでしたが、このバンドについて語っていくうえではまず、“これまでの経緯”を振り返っていく必要があるように思います。というのも、フロントマンである章人さんは、2010年に一旦シーンから引退されていたわけですよね。

章人:実際、2023年までは完全に引退してました。まぁ、そういう決断をした14年前は身体にガタが来てたというのもあったし、音楽活動としてもソロプロジェクトが続いていたことで精神的に追いつめられたり、もっと言えばモチベーションが削がれるような状況もけっこうあったから、あれはいろいろなことが積み重なった結果でもあったんです。

──では、そこから章人さんが再び音楽活動を再開することになった切っ掛けとはどのようなものだったのでしょうか。

章人:やっぱり、一番大きかったのはhiroが亡くなったことでした(注:hiro=te'のギタリストであった故・黒田洋俊氏。2021年11月30日逝去)。俺が引退して社会人としての仕事をしてる時も連絡はずっと取り続けてて、お互いの誕生日にメッセージしたり、hiroからは「また呑みに行きましょうよ」って幾度となく声をかけてくれてたし、こっちからも「そうだな。いつか行こうな」ってなかば社交辞令的な返事を繰り返しているうちに、ある日hiroが死んでしまって。しかも、その事実を俺が知ったのは約2ヵ月後だったんですよ。共通の知人もたくさんいたはずなのに、誰も教えてくれなかった。そこで自分としてはかなり葛藤を感じたところがあって、もう“いつかまた”みたいなことはしないほうがいいって強く思ったんです。

──いつかではなく、今しかないと思われたのですね。

章人:正直なことを言えば、14年前に辞めた時もそうだったし、引退してた間も“音楽はやろうと思えばどんな形でもいつかはきっとできるだろう”と考えてたところはあったんですけどね。でも、きっちり線引きをしたい自分もいたから、意図的に音楽の世界から離れようとしてたんですが、hiroが亡くなったことを知った時は明確に“いつかじゃダメなんだ”っていう気持ちになりました。そこから、俺はもともと交友関係のあったバンドや、ミュージシャンたちのライヴにまた足を運ぶようになったんですよ。自分からずっと絶ってしまっていた関係を再構築していくために。みんなと会えるうちに会わなきゃ、っていう気持ちが凄くありました。引退直後から、いろんな方面から「戻ってきてほしい」という声はたくさんもらってましたしね。

▲章人(Vo)
──その後の具体的な動きとしては、2023年4月に横浜7th Avenueで開催されたHUSH主催イベント<-cocoon841415516->が実現し、3Daysが完売。章人さんは待望の現場復帰をされました。そして、2023年はそれ以降もHUSHとしてのライヴが何本かありましたね(注:HUSH=2002年1月から2004年9月にかけ、元ALL I NEEDの橋都章人と元Plastic Treeの大正谷隆が中心となり活動したバンド)。

章人:HUSHに関しては20年ぶりにオリジナルメンバーでの復活っていうことで、やれると想像すらしてなかったのでノスタルジーにひたれたところはありましたね。こんなに良い曲がたくさんあったんだなとあらためて思ったし、バンドとしてはもう二度と解散はしないっていうこともみんなにステージから伝えることが出来ました。ただ、俺としてはHUSHで新曲を書いて続けて行くというよりは、また別に新しいバンドでやりたかったんです。

──新しいバンドとは、すなわちthe superlative degreeのことですよね。ちなみに、メンバー構成としては章人さんを筆頭に、ギターの誠一朗さんとベースの宏之さんはHUSHのメンバーでもあります。傍目にはHUSHが母体となっているように見えますが、その解釈は合っていますか?

章人:いえ、そこは紆余曲折でこうなった、っていうことなんですよ。俺としてはHUSH色を強くしようとは思ってなかったし、一番最初に誘ったのはSHINGO (Dr)だったし、ベースもギターも多数候補がいた中から、どうしようか?と悩んでいる時に高瀬(宏之)が自分から「やる」って言ってくれたんで、そこはありがたかったですね。

──誠一朗さんについては?

章人:誠一朗とは30年くらいの付き合いで、あいつは凄く社交性の高い人だから、そういう能力も魅力で誘った感じかな(笑)。そして、もうひとりのギタリストのYUJIは俺がやってたソロプロジェクトのBEAUTY MANIACSとacalliにも参加してくれてたのと、誠一朗とはタイプが違うんで、けっこう引き出しを持ってるから、そこでのバランスも取れそうだと思って誘いました。

──その点、ドラマーのSHINGOさんは元JURASSICのメンバーで、過去に章人さんと活動されていたことはありません。つまり、the superlative degreeが始動するのにあたってはSHINGOさんが重要なキーパーソンであったことになりそうですよね。

章人:HUSHで久しぶりにライヴをやるって発表したあたりで、SHINGOから連絡が来るようになって、そこから月イチくらいで一緒に呑むようになったんですよ。で、気持ちワルイことにちょうど同じタイミングでふたりとも“新しいバンドをやりたい”と思ってて、話してるうちにそれがわかったんです(笑)。

SHINGO:ほんとにそんな感じでした。しばらく連絡もとってなかったし、携帯が壊れたせいで連絡先もわかんなくなってたんですけど、章人さんがまたライヴやるっていう話を知った時期に、章人さんのX (旧twitter)アカウントを見つけたんでDMを送って、そこから連絡をとったり、会って呑むようになって、しかもお互い新しいバンドをやろうと思ってることがわかったんです。

▲SHINGO (Dr)
──2023年10月19日に目黒ライブステーションにて行われた<JURASSIC 結成25周年記念 3Days Live>には、HUSHも初日にゲストとして出演していましたけれど。あの時点で、既にthe superlative degreeは水面下での動きを始めていましたものね。

SHINGO:JURASSICとしてもあの3Daysは久々のライヴだったし、おまけにあれは限定的な復活で、それが終ったのと同時にまた解散してますから(笑)。その次の動きとして、the superlative degreeを2023年末に始動させることは前から決まってました。

──そもそも、SHINGOさんと章人さんの親交は、いつから始まったことになるのですか?

章人:まだ俺がALL I NEEDをやってた頃ですね。あれって、JURASSICが上京したばっかの頃だったんじゃない?

SHINGO:いや、その頃に知り合っていたのは僕じゃなくてJURASSICのヴォーカルのYU+KIです。僕が章人さんと話すようになったのは、ALL I NEEDが解散してからでしたよ。HUSHが始まるかどうか、っていうくらいの時期だったと思います。

章人:そっか。まぁ、いずれにせよ20数年前の話ですよ(笑)。

──かれこれ四半世紀の時を経て、両者が共にバンドを組むようになったというのはなかなか感慨深い展開です。

章人:あらためて話してみると、SHINGOとはお互いの感じてることや考えてることがけっこう近かったんですよ。自分に残されてる時間には限りがあって、ここからの人生に対して後悔したくないっていう話なんかもしているうちに、どんどん“これはSHINGOとやったほうがいいな。やってみたいな”って思うようになりました。特に、ドラムとヴォーカルってバンドの要ですしね。そこが真っ先にちゃんと固まったら、そのあともきっとうまく進んでいくだろうって感じてたんですよ。

──ドラムとヴォーカルの関係性は、俗に“縦のライン”として重要視されることが多くあります。章人さんにとってのSHINGOさんは、まさに頼もしい相方なのですね。

章人:SHINGOって、音楽に対して異常なほど真面目なんですよ。キャリア的に言えば後輩ですけど、引退してた分、今は先輩でもあり。いろいろ見習わなきゃいけないところが凄くあるし、俺のほうが引っ張られる場面とか要素がたくさんあるんです。

──ALL I NEEDでも、HUSHでも、これまでのバンドでは圧倒的に章人さんが牽引する立場であったことを思うと、そうした新しいパワーバランスからはこれまでにないものが生まれてくる可能性を感じます。

章人:そこはほんとに凄く良い関係性だと思いますね。SHINGOはサポートドラマーとしてもたくさんの経験を積んできてて、各現場での自分の立ち位置っていうのもよく踏まえてるから、こうしてthe superlative degreeで一緒にやるってなってからも、“心得てるなぁ”って感じるところが多々あるんです。

──なんでも、SHINGOさんは中島卓偉さんのツアーサポートもされているそうですね。

SHINGO:はい、やらせてもらってます。でも、近年は何かとそういうサポートばっかりだったんで、やっぱり“バンドをやりたい!”っていう気持ちが大きくなってたのも事実なんですよ。とはいえ、一緒にやれそうなメンバーもなかなかいなくて、どうしようかな?と思ってた時にちょうど章人さんと再会できたんです。

──それは運命的な再会だったのかしもれませんね。

SHINGO:いやでも、最初はなかなか自分から「一緒にバンドやりたいです」とは言い出せませんでした(苦笑)。実は、バンドをやるってなる前に自分のバースデーイベントにゲストとして出てもらったことがあって、それのリハのためにスタジオに一緒入った時にはブランクを全く感じなかったことに凄く驚いたんですよね。過去に対バンしたことは何回もあったけど、一緒に音を出すのは初めてで、そのうえ章人さんはずっと引退されてたわけじゃないですか。でも、そんな風には全く思えなくて。“凄いなぁ。章人さんとバンドやれたらなぁ”とは思いつつも、自分が後輩っていうのもあるし、自分じゃまだまだ未熟だし無理だろうなとモゴモゴしてたら、あるとき章人さんから「一緒にやらないか」って言ってくれたんですよ。あれは凄く嬉しい一言でした。自分から告白するつもりだったのが、告白されたみたいな(笑)。

──まるで少女マンガのようです(笑)。

SHINGO:あはは。まぁ、僕も気付けばいい歳ですし。いつまでドラムを叩けるかわからないからこそ、ここからもっと悔いのないように音楽をやっていきたいと思ってたところだったんで、ちょっと運命的なものは感じましたね。

章人:さっき話に出た、SHINGOのバースデーのリハをやった時に「歌いやすかったですか?」って、いきなり終わった瞬間に訊かれたんですよ。全然お世辞とか抜きにほんとに歌いやすかったから、素直に「歌いやすかったよ」って答えたんですけど、この人はサポートをいろいろやってるからとか以上に、音楽に対する向き合い方だったり、その根底の部分にある人間性からして凄いものを持ってるんですよね。もちろんプレイヤーとして上手いっていうのも当然それはあるけど、そことは違う意味でもSHINGOはバンドをやる相手として理想だなって感じたんです。

■だってロックバンドをやってるんだもん■痛々しいほうが絶対カッコいいし楽しいじゃん

──SHINGOさんからすると、さまざまなサポート経験から得たことが今のバンド活動に活きているところも多いですか?

SHINGO:いっぱいあります。サポート現場では要求されたことに全て応える必要があるので、場合によっては自分の個性を抑える必要がありますし、何よりどの現場でも大切なのはヴォーカルの呼吸とドラムの呼吸を合わせることなんだということは、いろんなかたちで勉強させてもらってきてますね。章人さんとは今ちょうど縦のラインとしての関係性を構築していってる最中なんですが、いつも「自由にいっぱい叩いていいよ」って言ってくれてるので僕はとても楽しくやれてます。

章人:SHINGOが持ってるものは、出来るだけ全部出してもらったほうがいいと俺は思ってるんですよ。だって、ロックバンドをやってるんだもん。うるさかったり、痛々しいほうが絶対カッコいいし楽しいじゃん(笑)。

──大変素晴らしいお言葉ですね。私もうるさくて痛々しい音は大好物です(笑)。

章人:変に割り切った感じとか、逆にユルい感じとか、そういうのは別に要らないんですよ。今さらだけど、というか。今さらやるからこそ、自分が子供だった頃に感じてたような初期衝動をさらに深く追求していかないと。SHINGOとだったら、このバンドでだったら、今それをやっていけるんじゃないかっていう気がしてるんです。

──すなわち、そのような想いがthe superlative degreeというバンド名には託されているということになりますか。

章人:そう。意味のあるバンド名にしたかったんですよ。これに決めるまではめちゃくちゃ悩みました。

SHINGO:なんだかんだで、半年くらいの間コロコロ変わってましたよね(笑)?

章人:三転か四転して、その間に出て来たバンド名は今回出すEPの曲名「アイデンティティコード」と「玉響」に転生したし、レーベル名の“hurt chord”もバンド名候補だったので全て無駄にはしてないです(笑)。でも、実は引退した時点で、次にバンドをやる時はthe superlative degreeにしたいって俺は思ってたりしてたんですよ。みんなで話し合った時には、ちょっと発音しにくいから「他にしたほうが良いんじゃないか?」っていう話も途中で出てたけど、最終的には意味合いの部分もそうだし、物販とかジャケット写真に使った時の字面とかも含めて、やっぱりこれに落ち着きました。

▲誠一朗 (G)
──では、ここからはその“今回出すEP”についてのお話をうかがって参りましょう。初音源となるEP『導火』は5月21日から配信開始となり、6月2日に開催される初ライヴ<THE MUSIC -GreeN Music 15th ANNIVERSARY->では、会場となる新宿ReNYにてCDも販売開始となるそうですね。

章人:昔だったら、まずはシングルを出してからアルバムとかミニアルバムを出すような流れが多かったけど、俺が10数年休んでる間に時代が変わって、今はサブスクが主流になっちゃってたんでね(笑)。今回はまず4曲作って配信して、フィジカルでほしいっていう人もきっといると思うから、CDとしてはライヴ会場で販売することにしました。初ライヴを成立させるためにもいち早く聴いてほしいからサブスク先行になって、CDは後になりますけど、そこはお客さんを信じて。 CDを売らないと回収出来ないし、次に繋がらないですからね。

──つくづく、この10年でも音楽業界の在り方は激変してきているなと感じます。

章人:マスタリングする時も、各サブスクサービスごとの解像度に合わせて出力してもらったりとかね。“今ってそういうことも必要なんだ”って思いましたよ。

──このEP『導火』には表題曲も収録されておりますが、このタイミングでの“導火”という言葉はとても象徴的ですね。

章人:自分が出戻ったとかそういうことは別にしても、今the superlative degreeっていうバンドが動き出すことで火が点けば良いなっていう気持ちはやっぱりありますからね。そこは曲としても、作品タイトルとしても、それぞれにちょっと意味は違ってたりしますけど、いずれにせよこの言葉を使いたかったんです。

──なおかつ、今作の幕開けを飾っているのは「玉響」なる楽曲です。ここから新しく始まっていくバンドが、聴衆に対して真っ先に聴かせる音として、この曲を選んだ理由をぜひとも教えてください。

章人:ロックバンドなところが良く出てる曲だから、ですね。

SHINGO:それに、このバンドで一番最初に作った曲なんですよ。

──the superlative degreeとしての初期衝動、なおかつ原点が詰まっているのですね。

SHINGO:作ってた時から「これは1曲目に入れるしかないだろう」と思ってたら、みんなも同じように感じてみたいで。ただ、俺はこのバンドでここまで激しいロックをやることになるとは予想してなかったです。もっとメロディー重視の曲をやるのかなと勝手に思ってたから、“えっ!? 章人さん、めちゃめちゃハードなの作ってくるやん!”って最初はちょっとびっくりしました(笑)。

章人:SHINGOはツーバス踏めるんで、せっかくだからやってみたかったんですよ。あとは、一般社会の中で感じてきた10何年かの不満もここでは炸裂してます(笑)。

▲YUJI (G)
──反骨精神を音や詞に投映する、というのはロックとしての基本ですね。しかも、この曲は新バンドthe superlative degreeの楽曲でありながら、橋都章人というアーティストの持つ“三つ子の魂”がそれこそALL I NEEDの頃にまで遡ったとしても、良い意味で変わっていないなとも感じた次第です。

章人:あぁ、そうかもね(笑)。というか、確かにそれは俺自身も感じました。引退してた時、最初の2年くらい音楽は聴かないようにしてたんだけど、毎日ほんとつまんなくて。それに耐えられなくなった時、どうしても音楽を聴きたいっていう欲求を抑え切れなくなって、肉体労働系の仕事中だったけど遂にiPhoneで激しい系の曲をかけちゃったんだよね。そうしたら、凄い勢いで仕事が捗ったんですよ。そして、そこで再認識したし痛感したんです。音楽とかロックの持ってる力って、やっぱり特別なんだなって。その日からはまたいろんな音楽を聴くようになって、新譜もチェックして、自分なりに“今の世界はこんな感じで、日本はこういう感じなのか”っていうことを把握しながら、自分だったらこういうことが出来るよなって考えた時期があったんですよ。その頃の経験が、この「玉響」には反映されてるところがあるんだと思います。あと、この曲にはSHINGOからのリクエストも活かしてますよ。

──といいますと?

章人:「どんな曲が欲しい?」って訊いたら「MÖTLEY CRÜEみたいなのがいいです!」って言うから、オマージュ的に悪そうで強そうな曲にしたんです(笑)。

──サウンド的には、間奏で聴ける楽器同士の絡みも熱くエキサイティングですね。

章人:あれこそSHINGOありき、なところじゃないですか?

SHINGO:いやー、あのかたちに固めるまでが大変やったですけどねぇ。

章人:ドラムが引っ張ってくことで、ほかのウワモノの音が決まっていくっていうのは、これぞthe superlative degreeならではの流れだなって俺は感じましたよ。

──それだけのエモさが詰まった音もさることながら、「玉響」では“♪確かに生きている”というフレーズが幾度も歌われます。玉響とは、かつて『万葉集』でも使われていた一瞬や刹那を表わす古語なのだそうで、章人さんの内にある死生観のようなものがここでは描かれているように感じました。

章人:老衰とかの寿命とかならまだしも、3年前にhiroが亡くなって。トリビュート(7/6リリースの『ISSAY gave life to FLOWERS -a tribute to Der Zibet-』)に参加させてもらったDER ZIBETのISSAYさんも去年亡くなって、heathさんもそうだし、櫻井(敦司)さんもね…。いろんなミュージシャンが、想像もしてなかったかたちで突然いなくなっていくっていう現実に直面した時、命ってこんなにも儚いものなんだなと。

──残念ながら、人間の最終的な死亡率は100%ですしね。

章人:限られた時間の中で、いろんな人がそれぞれの日々を生きてて、中には上手くいってない人や、ギリギリのところで踏ん張っている人もいると思うんですよ。だから、俺としてはこの詞の中で一番言いたかったのは、“♪普通のフリして誤魔化してるんじゃない”だったりもするんです。

──その一節は、自戒の念から出て来たものでもありますか?

章人:俺は誤魔化さないですよ。現場で働いてる時も、バンドマン代表として社会に出たつもりでいたんで。“舐めんじゃねぇ、ぜってー負けねぇ!”って思ってました。というか、肉体的にキツいことはあっても、精神的な面では音楽を続けてくことのほうが大変だなって感じることも多かったんで、気持ちがヘタったり日和ったりすることはなかったです。要するに、ここで歌ってる“♪普通のフリして誤魔化してるんじゃない”っていうのは、世の中で“このくらいでいいだろ”的な感覚で物事に向き合ってるやつらに対する言葉ですね。

■ロックバンドとしては■夢もちゃんと描いて提示したいんですよ

──なるほど。そんな章人さんの人生観は「アイデンティティコード」の詞にも色濃く反映されているようですし、何より歌い出し部分の“♪いつか死ぬ前に”というフレーズが真っ先に刺さってきます。

章人:誰かが亡くなっちゃうたびに、凄く悲しむんだけれども。だけど、人間ってみんな死ぬために生きてるわけではないですからね。自分が自分でいられるためには、その人自身が“そう生きて行く”ことが必要で、それはその人にしか出来ないことなわけでしょ。みんなもっと自分を大事にすればいいし、楽しみなんて小さなことでもきっと見つけられると思うんですよ。これはバンドマンだからそう思うとかじゃなくて、人としてね。自分が自分でいる意味を忘れないほうがいいよ、っていうことを言いたかった曲です。そして、これに関しては作ってバンドに持ってった時、みんないつもどの曲に対してもそうだとはいえ、特に嬉しそうにやってくれたのが俺も嬉しかった(笑)。

SHINGO:作業的には何枚も譜面を書いたり、章人さんの歌を聴きながら細かいアクセントを考えたり、大概時間はかかっちゃいましたけど、これも凄くいい曲に仕上がったなという手応えはありますね。

──リズムの醸し出す躍動感、さらにはエンディング部分で歌われる“♪君に歌う 僕は歌う”という歌詞からはthe superlative degreeがここから紡ぎ出していくのであろう、未来への予兆も感じられます。死と向き合っていながらも、希望がここにはありますね。

章人:表現としては、わざと幼稚なくらいにシンプルにしてるところがあります。敢えて普通のことを歌ってるんです。

▲宏之(B)
──3曲目の「UNIVERSE」は、もともと2008年にacalli名義でリリースした楽曲「universe」をthe superlative degreeとしてリメイクしたものになるそうですが、ここにこの曲を持ってきた意図はどのようなところにあったのでしょう。

章人:以前の「universe」はレコーディング時の状態が意図してたものとは違ったんで、やり直したかったっていうのはあるんですけど。それ以上に、SHINGOのドラムでこの曲をやりたかったっていうのもかなり大きかったです。今このかたちで出したい、っていうことで入れたんです。音としてはロックバンドっぽさが強く出せたと思うし、自分で聴いて感動出来る曲になりましたね。15年前に作った曲だけど、時代とか関係なく聴かせることが出来る曲を作ってきてるんだっていう自信もあらためて持てました。そのうち俺が死んじゃった後でも、古さとか感じずに聴ける音楽を作れたと思います。

SHINGO:この曲は、自分のバースデーライヴでやらせてもらってたんですけど、今回のレコーディングでは歌をもっと聴かせたくてドラムは要らないって最初は思ってたんですよ。でも、章人さんと相談した結果このかたちにたどり着きました。新しく出すからには、元を超えなきゃという気持ちもあったんです。

──超えていますよ。今回の「UNIVERSE」はより輝きを増したと思います。

章人:だよね、俺もそう感じる。

SHINGO:だったら良かったです(笑)。

──さて、このEPの最後を締めくくるのは「導火」です。プレス向けの資料によると、この曲は「オレなりの平和を願う曲。幸せを願う曲」であるのだとか。

章人:今まで書いたことがないタイプの歌詞を書いてますね。

──それでいて“♪すべての命に終わりや限りが有るからね”とも歌われています。

章人:書いたのが今年の正月だったのもあって、ちょうど震災とか事故もありましたしね。ここ数年は“世界中の傷跡”とか“偽物の正義と自由”を見せつけられる機会もたくさんあったし、いろんな場面を通して“犠牲から得た知恵は未来に活かせる”って思ったこともあったんで、これはリアルな歌になりましたね。曲としての強さも持ってるから、バンドやってる友だちとか関係者とかに聴いてもらった時にも、この「導火」は良いねって言ってくれる人が多かったです。

──シビアな現実を踏まえたうえでの“♪あの街もこの町も笑顔で溢れると良い”という歌声は、綺麗事とは違う切なる願いとして聴こえてきます。

章人:こんな曲調だけどドラムなんてクソ激しいし、演奏もこれはぶっちゃけ相当難しいんだけどね(笑)。なんか、ロックバンドとしては夢もちゃんと描いて提示したいんですよ。サッカー選手とか野球選手に子供たちが憧れるように、音楽も夢見てしっかりやっていったら残したいものを残していくことが出来るよ、っていう文化としての可能性を無くしたくないんですよね。まぁ、うちのお客さんたちはそんなに若い人たちがたくさんいるわけではないけど、出来れば若い子たちにも聴いて欲しいし、もし良いなって思ってくれるんだったら、“君と生きる”未来につなげていきたいしね。

──きっと、the superlative degreeの未来はEP『導火』と、6月2日に開催される初ライヴ<THE MUSIC -GreeN Music 15th ANNIVERSARY->から始まっていくことになるはずです。先輩格のZIGGYと、章人さんとは公私ともに親睦の深いANCHANGさんが率いるSEX MACHINEGUNSとの対バンという点も要注目ですね。

章人:森重さんは日本でロックンロールをやり続けてきた大先輩で、安藤弘司(ANCHANG)とは引退してた間も付き合いが続いてたし、バンドとしてもずっと頑張ってきてて25周年を迎えてますからね。おまけに、実はこのイベントを組んでくれたイベンターなんて、14年間毎月のように電話とかメールで「章人さん、帰ってきてください」ってずっと連絡くれてた人間なんですよ。the superlative degreeの初ライヴとしては、最高のお膳立てになっているんじゃないかと思うんで、今さらの初ライヴでもありますし頑張りますよ。あと、この日はヴォーカリスト3人もつながってますけど、CHARGEEEEEE...、THOMAS、SHINGOの3人がドラマー対決を繰り広げる日だとも言えるでしょうね(笑)。

SHINGO:この対バンの話を聞いた時は“マジか!?”って思いました(笑)。森重さんはこの間、卓偉くんのライヴに来てくれて、そこでZIGGYの曲を一緒にやらせていただいたりもしたんですが、対バンとなるともうほんとに大先輩で日本のロックを背負って立ってきた方だけに、どうしてもピリついてしまうところがありますよね。もちろん、SEX MACHINEGUNSだって凄い先輩ですし。どうやったって緊張感はありますよ。気合いは入ってますけど、空回りしたら困るんで、力を入れ過ぎないように気をつけたいです。

章人:俺なんかは、この歳で、新バンドで、初ライヴって、客観的に考えると自分でもちょっと寒くなるけど(笑)。でも逆に言うと、今、やれる時が来たからには楽しんでやりたいですよ。今までのお客さんたちも大事だけど、若い人たちに対してもライヴハウスからthe superlative degreeの存在を発信していきたいと思ってるし、ここからメジャーデビューして武道館目指します!みたいなことでもないんで、自分たちがカッコいいと信じることを、クラス全員じゃなくても何人かのロック好きなヤツらと共有していけるようなところまで持っていきたいかな。やりたいこと、やれることは、やれるうちにやんないとね。

取材・文◎杉江由紀

■1st EP『導火』

【CD】
2024年6月2日(日)CDリリース
HCCD-0001 ¥2,000+税
※LIVE会場にて販売
【配信】
2024年5月21日(火)配信開始
配信リンク:https://linkco.re/2qZMXv5Y
※Apple Music、Spotifyなどの各種音楽サービスで順次配信開始
発売元:hurt chord
▼収録曲
01. 玉響
02. アイデンティティコード
03. UNIVERSE
04. 導火

■<THE MUSIC -GreeN Music 15th ANNIVERSARY->

2024年6月2日(日) 東京・新宿 ReNY
出演:ZIGGY / SEX MACHINEGUNS / the superlative degree

関連リンク

◆ the superlative degree オフィシャルサイト
◆ the superlative degree オフィシャルX (旧Twitter)

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