【解説】トキの放鳥めざし能登の里山復興 餌場としても農地再生に力を

北國新聞論説委員・野口強さん:

「あす5月22日は「いしかわトキの日」です。」

「国連が定めた国際生物多様性の日に当たり、能登からトキの放鳥を実現させるため、機運を盛り上げようと、去年、石川県が制定しました。」

「放鳥の候補地である能登の里山が大きな痛手を受けましたが、それでも地元関係者は、トキを能登復興の象徴にしようと、生息環境の整備に向けて意欲は衰えていません。」

「きょうのテーマは、こちら。」

「トキの放鳥めざし能登の里山復興」

「環境省はトキの野生復帰に向けて2022年に、石川県と能登の9つの市と町、それに島根県出雲市を放鳥候補地として選び、2026年度以降の放鳥を目指しています。」

市川 栞 キャスター:

「トキは人里近くで、人と共存しながら生息してきた歴史がありますよね。」

野口:

「餌となるドジョウやタニシを確保するため、水田などに水がたっぷりある環境で、農薬や化学肥料を抑えながら農業を営むことが不可欠です。」

「県がモデル地区に求めるのも、農薬や化学肥料を5割以上減らすことや、あぜの除草には農薬を使わないこと、生物が生息しやすいビオトープの設置などです。」

市川:

「その整備に本腰を入れようとした時に、能登半島地震が起きてしまったんですね。」

野口:

「1つ目の、目からウロコです」

「トキの餌場に激震 農地再生にも力を」

「今月10日までに石川県が推計した地震による農林水産業の被害は、1万カ所以上で確認された。」

「農業用施設や農道のほか、能登を中心に、農地1511カ所、林地340カ所に及びます。」

市川:

「水田にひびが入り水が張れず、稲作などの再開のめどが立っていない場所が少なくないですよね。」

野口:

「水田が荒廃してしまうと、トキ放鳥で一番重要な餌の確保が、危ぶまれることになります。」

「石川県のトキスーパーバイザーとして、トキ保護の先頭に立つ羽咋市の村本義雄さんにお話を聞きました。」

市川:

「村本さんご自身も被災されたそうですね。」

野口:

「そんな中、能登では近年、無農薬を徹底する農場が出てきて、農地周辺にはトキのえさも豊富にあり、とれた米もおいしくて健康にいい。」

「この際、農地を再生する中で、能登が本気になって無農薬に転換し、トキにも、人にも、優しい農業を実践してほしいと訴えています。」

「そうしたエリアにトキを引き寄せる一つのアイデアとして、こうしたトキの模型を餌場に立ててはどうかと提案しています。」

「この手法でアホウドリを保護した事例があるそうです。」

「『何もしなければ放鳥の候補から外れる。地震でこの火を消すわけにはいかない。子供たちにバトンを渡すまでがんばる』と、99歳とは思えないほど情熱的に語ってくださいました。」

市川:

「その思いをしっかり受け取って私たちも行動に移さなければいけないですね。」

野口:

「被災地では、農地の復旧に当たるボランティアも先月から活動し、放鳥の候補地でも用水路の泥をかきだす作業などに当たっています。」

市川:

「トキの餌場の整備という点でも、大変重要なサポートでしょうね。」

野口:

「もう1つ、目からウロコです。トキとの触れ合い石川でもできます」

「県内には、能美市に「いしかわ動物園」という、トキと身近に接することができる場所があります。」

「ナマのトキを見られるのは、佐渡トキ保護センターなどがありますが、一般に親しみやすい動物園としては全国でここだけです。」

市川:

「いしかわ動物園は、トキの飼育環境の面でも、高く評価されていますよね。」

野口:

「去年、ここで生まれ、巣立ったトキは、全国最多の7羽でした。」

「トキの放鳥へ向け心強い実績です。」

市川:

「トキと触れ合って環境保護の意識を高めることも、広い意味で放鳥の支援につながりそうですね。」

野口:

「先だって輪島の白米千枚田も地震で大半の田んぼがひび割れる被害に遭ったものの、県内外の棚田のオーナーが参加して、田植えが行われました。」

「トキが飛び交う空は、千枚田と並ぶ、能登の里山里海の復興の象徴です。」

「農地の整備を進め、トキの放鳥を実現させたいですね。」

市川:

「ありがとうございました。野口さんの目からウロコでした。」

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