広島戦力外→MLB球団と契約 21歳右腕が再起した“場所”…潜在能力を発揮できたワケ

マーリンズとマイナー契約を結んだ中村来生(左)とアレックス・ラミレス氏【写真:宮脇広久】

中村来生は2021年育成ドラフト3位で広島入団…昨年オフに戦力外通告

昨季限りで広島を自由契約となった中村来生(らいせい)投手が、マイアミ・マーリンズとマイナー契約を結んだ。NPBで実績を残せなかった21歳右腕がMLB球団から評価された背景には、米アリゾナ州を拠点に活動しているトラベリングチーム「アジアンブリーズ」での活躍があった。

20日に都内で行われたマーリンズとの契約締結会見。中村は「メジャーという舞台には、まだまだ先が長いと思いますが、1つ1つ自分の課題をクリアしていった先に見えてくると思います。素晴らしい環境の下で、コツコツ地道にやっていきたいです」と希望に満ちた笑顔を浮かべた。

富山・高岡第一高から、2021年育成ドラフト3位で広島に入団。190センチの長身から投げ下ろすストレートが魅力だが、1年目の2022年はウエスタン・リーグで3試合0勝0敗、防御率13.50。2年目の昨季も同5試合1勝0敗、10.80に終わり、支配下登録を勝ち取れないまま戦力外通告を受けた。

「環境を1度ガラリと変えてみたかった」と言う中村が、再起の場に選んだのがアジアンブリーズだった。

アジアンブリーズは2019年2月、色川冬馬代表取締役CEOが立ち上げた。毎年2月後半から3月中旬まで、日本人を中心に25人前後の選手で編成し、数多くのMLB球団がキャンプを張る米アリゾナ州を拠点に、MLB球団傘下のマイナーチーム、メキシコ、韓国のプロ野球チームなどと十数試合を行っている。こうした“トラベリングチーム”は、米国には例があるが、日本人主体では唯一と見られる。2021年からは前DeNA監督のアレックス・ラミレス氏がGMを務めている。

色川CEO「プレッシャーの薄い環境でプレーを続けてほしかった」

監督、コーチは米独立リーグの指導者が務め、これまでに米独立リーグなどに28人のプロ契約選手を輩出しているという。MLB球団と契約を結んだのは、中村が初めて。中村は今年、アジアンブリーズで6試合に登板して計6回無失点の快投を演じ、マーリンズの目に留まった。

「アメリカでやる野球は新鮮で楽しかった。楽しくやることが上手くなる一番の近道だと、改めて思いました」と中村。米国スタイルのチームでの経験を、「プレー以外のところでは、試合中にハンバーガーを食べている選手や、ベンチの床にひまわりの種を吐きまくる選手がいて、日本とは違い緩い雰囲気がありました。監督の話を選手がポケットに手を入れたまま聞くのも、日本ではありえないと思いました」と笑顔で振り返る。

NPBで発揮できなかった才能を、中村はMLBで開花させることができるだろうか。色川CEOは「日本では2軍を含めて勝つことが成功の基準ですが、MLBのマイナーには勝負とは別に、選手個々がメジャーリーガーになるための育成システムがあり、そのプロセスに乗せます。中村選手には勝つことのプレッシャーの薄い環境でプレーを続けてほしいと考えていました」と語り、米国のスタイルがマッチすると見ている。

現時点で中村の最速は「90マイル(約145キロ)」。ラミレスGMが「まずはもう10キロ速くしてほしいね」と注文をつけると、笑顔でうなずいた。“セカンドチャンス”をモノにして、後進の選手の希望になってほしい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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