『366日』第7話 お昼ごはんを食べたから晩ごはんを食べない奇妙な人たち

さて、フジテレビ月9『366日』も第7話です。相変わらずガワはステキだし、画面と芝居は素晴らしいですが、お話がどうにもね。

前々回のレビューでは「このドラマは人物をいい具合のところに配置して、その配置から導き出されるであろう最大公約数のテンプレート的な感情表現を当て込むことで何かを語っているような気になっている」と書きました。

前回は、「高校時代の感情や関係性を全肯定することでしかモノを語れない」「5人衆が全員内向きな生活態度なので、外部との接点が作りにくい」「だから、内部と外部の接点が生じるときに乱暴になる」と書いてますね。

今回もそんな感じ。振り返ります。

■誕生日忘れられ話

今回は、記憶を失った恋人・ハルト(眞栄田郷敦)に自分の誕生日を忘れられたアスカ(広瀬アリス)がショックを受けるというお話でした。

事故による高次脳機能障害を負ったハルトと「何があっても一緒にいる」と誓ったアスカでしたが、ハルトが自分の誕生日に休日出勤を入れてきたことに落胆。真顔で目をそらしたりしています。

このドラマに登場する5人の同級生たちの感情はひたすらにテンプレートですから、恋人に誕生日を忘れられることは絶対に許せません。アスカは、ハルトが過去の記憶をなくし、家族や自分の存在すら忘れてしまっていたことは容易に受け入れたのに、誕生日を忘れられたことは受け入れられない。はっきり申し上げて、そんな覚悟もなかったんかい、という話です。

記憶をなくした恋人と、元の関係を築き直したい。そう思うなら、まずは丁寧な自己紹介をしておきなさいよと思うんですよ。何年何月何日に生まれて、私はあなたと高校で出会って、10年ぶりに東京で再会して……そういう話をまったくしてこなかったということです。誕生日を忘れられていたことに気づいたときのアスカの被害者ヅラですね、広瀬アリスの適切な芝居もあって、すごく暴力的に見えました。

記憶をなくしたハルトに対して「私は彼女です」と宣言し、面倒を見ると決めたのはアスカなのに「そっか、誕生日、覚えてないんだ……」じゃないんだよ。覚えてるわけないだろ。自分の誕生日も、ハルトの誕生日も、ほかの同級生たちの誕生日も、その他いろいろも、あんたが教えていくしかないんだよ。

アスカは、そこまで思いが及ばないのです。なぜなら、テンプレートの感情しか持ち合わせてないからね。

■昼と夜の概念がないAI世界

ハルトが誕生日を覚えていないことにアスカが気づくきっかけは、まさしく「内部と外部の接点が生じるときに乱暴になる」という場面でした。

アスカが勤める音楽教室の男性会員の彼女という、要するにあんまりよく知らない女性がいます。その女性がアスカの目の前に現れ、「自分たちの演奏会に来い」と言う。アスカが、その日が自分の誕生日であることを告げると、「誕生日プレゼントです」とか言って、チケットを2枚押し付けてくる。

すごく無神経な行為です。

相手が誕生日だとわかったら、「あ、その日は予定ありますよね」と気を遣うのが大人の態度でしょう。なんでよく知らない相手の誕生日の予定を決定する権利が自分にあると思えるんだ。

しかも、こう言っちゃなんだけど別に大した演奏会でもないでしょう。例えばブルーノ・マーズが目の前に現れて「そうか、この日は君の誕生日なのか。じゃあ東京ドームの貴賓席を用意するからステディと一緒に来たらいいよ」とか言い出すという、それくらいのレベルでようやく成立するくらいの暴挙ですよ。こういうところが「接点が乱暴」だと言っている。

で、ハルトがその日にキッチンカーの仕事を入れてきたことでアスカは自分の誕生日が忘れられていることを知るわけですが、演奏会もキッチンカーも昼なんですよね。キッチンカーも18時で終わるとチラシに書いてある。

晩飯食えよ、一緒に。20時に予約しろ。

このへん、すごく気持ち悪かったんです。なんで晩飯を食う約束をしないのかと思ってたら、アスカは偶然会った同級生のカズキ(綱啓永)とお昼ごはんにカレー弁当を食べてたんですね。

そのカズキが夜、家に帰って同棲してる彼女に「なんか食べるよね?」と聞かれて、「食べてきた」と答えるんです。

いや、晩飯食えって。なんで、どいつもこいつも晩飯を食わないんだ。昼飯と晩飯の概念がないのか、君たちには。

ちょっと前にテレビで見た、大きな倉庫で動き回るAIロボットたちを思い出したんです。彼らは昼も夜もなく、あらかじめインプットされたプログラムの指示で動き回っています。ロボットが棚の前で待っていて、人間がそこに行って棚から必要な商品をロボットに乗せる。すると、ロボットが搬出口まで自動で運んでくれる。人の作業を軽減する素晴らしいシステムなんですが、ここでは人のほうが不規則な動きをするんですね。商品を間違えたり、途中でトイレに行ったり、急病で倒れたりする。そうした人の不規則な動きに対して、ロボットたちがAIで判断して人に最適な動きを指示するわけです。そうして、決められた目的である「出荷」に至っていく。

そういうロボットのAIによる集団制御の世界では、こうした人の不規則な動きを「外乱」と呼んでいました。通常の稼働状態に対する外部からの干渉のことです。

アスカやカズキたちも同じように、高校時代にインプットされた価値観によってしか動けません。今回のチケットだったり、前回のカズキの彼女の不穏な動きだったり、それこそ物語のきっかけとなったハルトの事故だったり、そういう外乱にさらされたときにAIのように対処することがあっても、更新が行われることがない。決められた目的である「素敵な高校時代の気持ち」に至っていく。

決して更新されないAIプログラムを積んだロボットたち、そんなふうに、この5人は見えてるんです。いよいよホラーですな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

© 株式会社サイゾー