検察はどう説明し求刑を行うのか「袴田事件」再審結審へ(2) 疑惑の目が向けられた証拠【袴田事件再審】

袴田巖さんの再審=やり直しの裁判が5月21日、すべての審理を終え求刑が行われる見通しです。審理の中で焦点が当てられたのが、証拠としての能力やねつ造が疑われてきた様々な物証です。

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1966年、袴田さんは静岡県の旧清水市(現・静岡市清水区)で一家4人を殺害したとして逮捕され、死刑判決を受けました。凶器とされたのは刃渡り12cmのくり小刀です。袴田さんは過酷な取り調べの末、この木工細工の小刀一つで4人を殺害したと自白しました。

袴田さんがくり小刀を買ったとされる刃物店の息子、高橋国明さん。店主だった父親は、くり小刀で4人も殺害できるのか疑問を持ち続けていたといいます。

<高橋国明さん>
「形がほぼ原形のまま残ることはありえないだろうなと言っていましたね。曲がるか折れるか刃こぼれがあるとかね」

被害者の体の刺し傷は、4人あわせて40か所以上。中には肋骨まで届く傷もありましたが、くり小刀の刃先は、わずか数mm欠けていただけでした。再審公判では、弁護団が法廷に実物を持ち出し、裁判官にそのサイズなどを示しました。

凶器だけではなく、犯行着衣にも疑惑の目は向けられてきました。元々、検察は袴田さんはパジャマを着て犯行に及んだと主張。袴田さんもそれに沿った自白をしていました。

<録音テープ>
「どういう格好をしていったんだ。寝てるパジャマをそのまま着て、下に降りて、ナイフはズボンにさしていった」

しかし、事件から1年2か月後、裁判の途中で、現場近くのみそタンクからパジャマとは別の血に染まったシャツやズボンなど「5点の衣類」が見つかりました。検察はすぐさま犯行着衣に関する主張をパジャマから「5点の衣類」に変更しました。

実際に袴田さんがズボンをはいてみると小さくて太ももまでしか履けませんでした。しかし、裁判所は犯行時は履けたとする検察の主張を認め、死刑判決を下しました。

裁判のやり直しを求めた弁護団は、衣類に付着した血痕の色に目をつけました。

「長時間、みそに漬かった血痕の色は黒く変化するはずで、『5点の衣類』に付いていた血痕は赤すぎる」として捜査機関が発見直前にみそタンクの中に入れたと主張したのです。

2023年、東京高裁は弁護側の主張を認め、「5点の衣類」が捜査機関によってねつ造された証拠である可能性に言及しつつ、再審開始を決めました。

再審公判で弁護団は、実物のズボンなどを法廷に示し、改めて従来の主張を展開。一方、検察側は「みそタンクの底は酸素濃度が低かったため、血液が黒くなる変化が進まず、赤みが残る可能性はある」とする鑑定書を提出しました。

<社会部・河田太一平記者>
「袴田さんのやり直し裁判では、多くの証拠に疑惑の目が向けられてきました。あす、検察が証拠についてどのような説明をし求刑を行うのか、注目が集まります」

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