欧米観光客、セブン欧州戦略、今回は違う?株高…スイスのメディアが報じた日本のニュース

河口湖町のコンビニ「ローソン」に外国人観光客が押し寄せ、周辺の迷惑になっていた (EPA/FRANCK ROBICHON)

スイスの主要報道機関が先週(5月13日〜20日)伝えた日本関連のニュースから、3件をピックアップ。要約して紹介します。

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今回ご紹介するのは①オーバーツーリズムに悩む日本 欧州観光客に照準②セブン・イレブンが欧州展開強化 スイス進出は?③日本の株高…今回は違う?の3本です。

オーバーツーリズムに悩む日本 欧州観光客に照準

京都・祇園地区の私道が立ち入り禁止になったり、富士山の写真スポットに黒幕が設置されたりするなど、主に外国人観光客による迷惑行為への対策に乗り出す観光地が増えています。そんな中、スイス・ドイツ語圏の日刊紙NZZは、日本政府が「欧州からの観光客に期待している」と報じました。

NZZ東京特派員のマルティン・ケリング記者は、岸田文雄首相が4月17日に開いた観光立国推進閣僚会議で「外国人の宿泊を地方に分散し、持続可能な観光地域作りを加速していくことが喫緊の課題だ」と述べたことに注目。「明言はしていないが、その意味するところは間違いなく『政府はこれまでのようなアジアの近隣諸国ではなく、欧州や米国からの観光客を誘致したいと考えている』ということだ」と分析しました。

現在は外国人観光客の4分の3が韓国、台湾、中国、香港から。中国人は日本で高級品を「爆買い」するものの、「米欧人は滞在期間が長いため、アジア人よりも多くのお金を使う」と指摘します。国土交通省のデータを引用し、1回の日本旅行での支出額は韓国人が1人当たり10万6312円なのに対し、ドイツ人はその3倍以上(30万1712円)だと紹介しました(スイス人のデータはなし)。空前の円安により「贅沢旅行だけでなく、バックパッカーにとっても魅力的な目的地になっている」のです。

ただし欧米人にとって円安は「旅行先としての日本の概して高い魅力を強化している」にすぎない、とケリング記者は強調します。ニューヨーク在住のドイツ人旅行者に取材し、ごみ箱は少ないのに清潔な街、「カラフルで奇妙な歓楽街」歌舞伎町の真ん中にある手入れの行き届いたホテルなど、「一見すると相反するものの共存」に魅了されたと伝えました。(出典:NZZ/ドイツ語)

セブン・イレブンが欧州展開強化スイス進出は?

「日本の巨大小売企業は急激な変化を遂げつつあり、欧州市場に目を向けている」――ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー企業担当のジークムント・スカラール記者は、セブン・イレブンを営むセブン&アイ・ホールディングスが4月下旬の投資家向け説明会「IRデー」で欧州市場を「第4の成長の柱へ育成」と位置付けたことに注目。スイス小売業界にもたらしうる影響を予測しました。

セブン・イレブンは現在、スウェーデンなど北欧に数百店舗を構えています。記事は「主に合併・買収(M&A)や合弁を通じて欧州で成長することを想定している」と報じています。

ただスイスの食品小売大手ファーミー(Farmy)のドミニク・ロシェ会長は、「大規模でコンビニ志向、かつ長時間営業規制のハードルが低い国を見つけることが、市場参入の成否を分ける」とコメントし、スイスへの参入は難しいとみています。「Avec」や「Kiosk」などを展開するヴァローラ(Valora)が2022年にメキシコFEMSAに買収されて以来、スイスでは多くのコンビニ型店舗が姿を消しています。

記事は、セブン&アイの拡大戦略は「株主にとっての付加価値を生み出すため収益性の高いコアビジネスに集中するという戦略的揺さぶり」の一環であると続けます。米アクティビスト(モノ言う株主)のバリュー・アクトからの圧力を受け、そごうや西武の売却や不採算スーパーの閉鎖を進めてきたことを紹介しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー/ドイツ語)

日本の株高…今回は違う?

フランス語圏のオンライン金融メディアallnews.chは、ジュネーブ大学の金融学者ミシェル・ジラルダン氏による日本の株式ブームに関する論考を掲載。1980年代のバブル期と比較し「今回は違う」とバブルを否定するのは「誤った安心感を与える」と警鐘を鳴らしました。

ジラルダン氏はまず、バブル期に買った株式は今まで35年間、株価が購入価格を下回り続け売れなかったことを指摘。米国株はこの間に1354%も値上がりし、物価変動により初期投資額は2割目減りしたことを踏まえると、「売るな、失うな」アプローチは見直す必要があると提唱しました。

バブル期は日銀の金融緩和を背景に、住宅を担保にお金を借り、株式市場に投資する動きが広がりました。アダム・スミスの自由主義経済理論に倣って日銀はそれを放任しましたが、「この『緩み』が日本に多大な損害を与えた」と、政策転換の遅れがバブル崩壊を招いたとジラルダン氏は分析。「金融政策で同じ間違いを犯せば、同じ結果になる」と警告しました。

2012年の第2次安倍晋三政権下で導入された異次元緩和により、日本は金融緩和の世界記録を塗り替えました(2022年まではスイス中央銀行でした)。今の株高もバブル期同様に「金融政策から十分な恩恵を受けてきた」もので、「中銀が方針を変えれば終焉を迎える」と指摘。そして円相場が1970年以来の円安水準にあることを踏まえると、「当然のことながら、日銀が方向性を変えるのはそう遠くない」と予想しています。(出典:allnews.ch/フランス語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「ユーロビジョン、『ノンバイナリー』自認のスイス代表優勝 イスラエル参加に抗議も」(記事/日本語)でした。他に「スイスで花粉症増加 気候変動・大気汚染が背景に」(記事/日本語)、「FIFA、脱スイスへ規則改正」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は5月27日(月)に掲載予定です。

執筆:ムートゥ朋子、校閲:大野瑠衣子

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