青羽悠「主人公は僕がなりたかった人物像」 学生時代のきらめきと痛みと成長を追体験できる『22歳の扉』

高校生でデビューしてから8年。いま書いておきたかった青春小説。

「年齢というアドバンテージがあるうちに、それをフルに生かした小説を書いておきたかった」

という新作は、京都の大学に進学した田辺朔の日常が描かれる青春成長譚。京都大学に進学した著者自身と主人公が重なるが、「これまで狭い世界しか知らなかった主人公が、外の世界に触れていく。そこは僕の経験と重なりますが、主人公は僕がなりたかった人物像なんです。これが僕だと思われたらちょっと格好よすぎます(笑)」

漫然と学生生活を送っていた朔は、ある時、夷川という傍若無人な先輩と出会う。さんざん振り回されたあげく、朔は彼から学校内のバーのマスターの仕事を引き継ぐことに。

「作中で大学名は明らかにしていませんが、学内の様子は僕が通った京都大学の景色を借りましたし、鴨川の河原や哲学の道など、京都の実在の場所もたくさん出しました。“場所”の匂いみたいなものを出したかったんです」

親友もでき、個性的な常連客らに揉まれ、刺激を受けていく朔。印象的に響くのは、夷川の言う「場所は人を救える」という言葉だ。

「学生時代、僕は学校外のバーでアルバイトしていたんです。いろんな人が集まって、みんなが同じ話題で盛り上がることもあるし、一人でいても周囲と断絶している感じではなくて。みんなが緩やかに繋がっている“場所”というもののポジティブな空気を感じていたんです」

そんな中、朔が心惹かれるのが野宮という女の子で、好きだからこそ相手の言動にいちいち反応する朔のヒリヒリした気持ちと、彼の目を通すとミステリアスに見えるけれど実は人間くさい野宮さんの描き方が瑞々しい。

大学といえば必ずやってくるのが卒業の時。朔も仲間たちもみな、やがて自分の進路と向き合わねばならなくなる。

「前半はいろんな人に出会って揉まれる話で、後半はテーマが決断とか決意になっていく。妥協を含んだ選択の中にどう夢や憧れを残すのか、大学生のあの時期の決意の感覚を詰め込みました」

学生時代のきらめきと痛みと成長を、たっぷり追体験できる小説だ。

『22歳の扉』 大学一回生の田辺朔の日常は、夷川という先輩に連れ回されるようになって一変。しかも彼から、学内のバーのマスターの仕事を任されて…。集英社 1980円

あおば・ゆう 高校2年生時の2016年に『星に願いを、そして手を。』で第29回小説すばる新人賞を史上最年少で受賞しデビュー。他の著作に『凪に溺れる』『幾千年の声を聞く』など。

※『anan』2024年5月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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