「大丈夫、1人じゃない」。子育てファミリーが声でつながる深夜のラジオ。その魅力とは?【村上里和アナインタビュー】

「みんなの子育て☆深夜便」を放送中の村上さん。

NHKラジオの「ラジオ深夜便」は、30年あまり続く人気コンテンツです。その番組の中で、2021年4月から月1回放送されている、子育て中のママ・パパの応援番組「みんなの子育て☆深夜便」を立ち上げ、アンカーを務めるのが、村上里和アナウンサーです。
制作も担当している村上さんは、深夜のラジオ番組で、なぜママ・パパを応援しようと考えたのでしょうか。
全2回のインタビューの1回目です。

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20代のママからのはがきがきっかけで、ママを応援する番組が誕生

6時間にわたる長時間の深夜番組を、アンカーの村上さん1人で進めていきます。

――毎月第4木曜日の午後11時5分~翌朝5時に放送される「みんなの子育て☆深夜便」。この番組が誕生したいきさつを教えてください。

村上さん(以下敬称略) 「みんなの子育て☆深夜便」は、「ラジオ深夜便」という番組の一つの企画として生まれました。「ラジオ深夜便」は全国の眠れない人に寄り添い、ゆっくり眠っていただくことがコンセプトなので、非常にゆったりと番組が進んでいくのが特徴です。

あるとき、私の大好きな『ぐりとぐら』の作者、中川季枝子さんのインタビューを放送したことがありました。最後に子育てを頑張っているママたちへのメッセージをお願いしたところ、中川さんは「子どもはみんな問題児なの。でも、子どもたちは、どんなお母さんでも、自分のお母さんが一番大好きなのよ。だからお母さんたちは自信を持って」と、とてもすてきな言葉をくださったんです。

私自身、長男が小さいとき育児のプレッシャーでとても苦しい思いをしたので、中川さんの言葉は心底しみわたりました。そして、子育てに悩んでいて自分に自信がないママたちに、この言葉が届いてほしいと、強く願いました。
でも、「ラジオ深夜便」のリスナーは60~80代が中心なので、聞いてくれたママはいないかな・・・とも思っていました。ところが、20代のママからはがきが届いたんです。

――どのようなはがきだったのでしょう。

村上 そのはがきには「子どもが生まれて2、3時間おきの授乳のため夜中も眠れず、夜の授乳時間を孤独に過ごしています。テレビをつけると、私も赤ちゃんもまぶしくて目が覚めてしまうので、ラジオを聞くようになりました。中川さんのインタビューに思わず聞き入りました。最後は自分への励ましの言葉をもらったようで、ボロボロ涙が出てしまいました」というようなことが書かれていました。

私もスタッフも、20代の女性がリスナーにいたことに驚きました。夜のラジオを聞いているのはシニアだろうとばかり思っていたんです。でも、その後も「出産入院中、病院の授乳室で『ラジオ深夜便』を知りました」「授乳で夜中に何度も起きてつらかったとき、『深夜便』の穏やかな声に助けられました」など、ママたちからおたよりが届くようになりました。この番組を聞いているママは、私たちが考えているより多いということを知ったんです。

――村上さん自身は、子育て中にラジオを聞くことはありましたか。

村上 なかったですね。とくに長男のときは、夜中は無音の中で授乳やおむつ替えをしていたと思います。そのせいもあり、世の中に私と息子しかいないような孤独を感じていました。

――ママたちの声を受け、「真夜中のママたちの番組」の企画を考えたとか。

村上 深夜に育児を頑張っているママを応援したい!その一心で企画を考えました。当時「ラジオ深夜便」の28年の歴史の中で、子育てをテーマにした企画は初めてでしたが、企画が通り、2018年5月に「ママ☆深夜便」という特番が放送されました。すごくうれしいことにその特番がとても好評だったため、半年に1回ずつ2年間続けることができました。

――そのころの印象に残っているエピソードはありますか。

村上 夫の転勤で引っ越してきて友だちがいないから、いつも赤ちゃんと2人きりというママと、電話をつないだがことがありました。赤ちゃんは最初のうち静かだったのですが、徐々に赤ちゃんがおしゃべりする声が聞こえてきて、まるで一緒に参加しているようでした。すごくほっこりするシーンで、私はその声に聞き入ってしまったのですが、シニアリスナーから、「何十年ぶりに赤ちゃんの声を聞いて泣いちゃいました」っておたよりが届きました。世代を問わず気持ちが共有できたんだと、とてもうれしくなりました。

「ママ」と銘打ち、進行してきた企画でしたが、ママだけでなく、さまざまな世代の方からはがきやメールをいただきました。番組の中で世代間交流が自然とできていたんです。

当時のラジオセンター長が、高齢者中心の番組だった「ラジオ深夜便」に、若い世代が加わったことで新しい風が吹いた、おもしろい化学反応が起きている、と評価してくれて、2020年4月から月1回の定期放送になりました。

――定期放送になってからもタイトルは「ママ☆深夜便」でしたか。

村上 そうです。でも、「パパも聞いてます」「子どもはすっかり大人になったけど聞いています」といった声が届きましたし、「ママ」がついていると距離感を持ってしまう人もいるかもしれない。そこで、2021年4月から「みんなの子育て☆深夜便」にタイトルを変更しました。「社会みんなで子育てを応援していこう」という思いを込めています。

自信を持って朗読してもらう本を選びたいから「絵本専門士」の資格を取得

「リスナーが心安らかに深夜を過ごせるように、ゆったり穏やかに番組を進行しています」と村上さん。

――月1回の放送になってからは、育児の専門家と子育て中の有名人がペアで出演するようになったとか。

村上 寄せられる悩みが多岐にわたるようになり、専門家からのアドバイスが必要になりました。発達心理学、脳科学、保育、栄養学など、さまざまな分野のスペシャリストが、毎回ママ・パパの悩みに答えてくださっています。

――村上さん自身、「絵本専門士」の資格を取得したと聞きました。

村上 育児中のすてきな俳優さんやタレントさんに絵本を朗読してもらう、「真夜中の絵本」というコーナーがあります。特番のころは私の好きな絵本を中心に読んでもらっていたのですが、私の趣味にかたよるのはよくないなと。そこで仕事の合間を縫って8カ月間講義を受け、30あまりのレポート提出して、「絵本専門士」の資格を取得しました。

絵本についてさまざまな角度から学んだことで、「なぜこの絵本を読んでほしいのか」を、担当していただく俳優さんやタレントさんに、私の言葉できちんと説明できるようになりました。だから今は、自信を持って読んでもらっています。

――これまでたくさんのスペシャリストが、悩みや不安を抱えるママ・パパに言葉をかけてくれたと思います。とくに印象に残っているエピソードを教えてください。

村上 どの先生の言葉も心に刻まれているのですが・・・実は、番組には批判的なご意見も届きます。「子どもができなかった者としては聞くのがつらい」「子育てがつらすぎて思い出したくもない」などです。ある日の放送で私は、「3歳のときに母に捨てられた私には、つらくて聞いていられない」と書かれたおたよりを読みました。その回のゲストは、子育てや保育に関する書籍をたくさん出されている汐見稔幸先生。先生がその方にかけてくださった言葉は、「本当につらかったですね。よく頑張ってきました・・・でも、つらい記憶は奥歯でかみ切って、前に進みましょう」でした。

聞いていて鳥肌が立ちました。子育てのプロは生きるために大切なことも教えてくれている、だからこそ「みんなの子育て☆深夜便」は幅広い世代の人に聞いてもらえるんだ、と理解できた場面でした。

ゆるくつながるラジオ番組だからこそ、本音で悩みを打ち明けられる

長男が2歳のころ。村上さん自身、育児にとても悩み、苦しんだ経験があるそう。

――若い世代のコミュニケーションはSNSがメインになっている今の時代、ラジオの魅力とは何でしょうか。

村上 リスナーの声を聞いていると、深刻な悩みほど身近な人には言えないことがわかります。こんなことを友だちに相談したら引かれそう、親に言ったら心配されそうって。また、SNSに投稿すると拡散されたり、身元がばれたりするリスクがありますよね。ラジオの場合、そういった心配をせずに、悩みを打ち明けられると思うんです。

また、メールにしろはがきにしろ、自分の気持ちや悩みを文字で表現します。この行為によって自分のことを客観視できて、書くだけで気持ちが落ち着いたという方もいます。さらに、自分が書いた文章を私が読むのを聞くことで、より客観的になれるのではないかと思います。これは、ラジオにしかできないことではないでしょうか。

――これから番組をどのようなものにしていきたいですか。

村上 リスナー同士が番組を通してつながることで、ママ・パパのつらさや不安、あせりなどの感情を受け止め、共感する場ができています。とっても温かい場所です。この場所を大切に育てていきたいですね。

ラジオの中に自分を応援してくれる人がいると感じられると、そういう人は身近にもいるかもしれない、と思ってもらえるんじゃないかと期待しているんです。子育て中のママ・パパが孤立せず、困ったときは周囲に助けを求められる。そしてママ・パパのSOSをキャッチし、手を差し伸べる人がいる。社会がそんなふうに変わっていくきっかけになれたら・・・。
そんな大きな夢も持ちながら、ママ・パパの応援団の声を深夜に届けています。

お話/村上里和さん 写真提供/NHK、村上里和さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

子育て中のママ・パパが笑顔になれる応援をしたい。村上さんのそんな思いから生まれた「みんなの子育て☆深夜便」。赤ちゃんのお世話で深夜に起きているときに聞いてみると、明日の元気がもらえるかもしれません。

みんなの子育て深夜便

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

村上里和さん(むらかみさとわ)

PROFILE
NHKアナウンサー。「ラジオ深夜便」アンカー。津田塾大学卒業後、1989年NHK入局。ニュースや生活情報番組のキャスターやリポーターのほか、ナレーションや朗読番組も数多く担当。編書『子育ての不安が消える魔法のことば』(青春出版社)、共著書『子どもを夢中にさせる魔法の朗読法』(日東書院本社)。

『子育ての不安が消える魔法のことば』

子育てに奮闘中のママ・パパと、子育てを応援したい幅広い年齢層のリスナーがつながる、NHKラジオ「みんなの子育て☆深夜便」。番組に出演した専門家、著名人の応援メッセージが、まとまって1冊の本に。今、抱えている育児の悩みや不安を、軽くしてくれる言葉が見つかるかも。村上里和編/1500円+税(青春出版社)

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