『夜のクラゲは泳げない』は全編美味しい神回 感動的な話かと思いきやオチも秀逸

毎週、「ほとんどの作品を観ている」アニメライター・はるのおとによる週刊連載「【アニメ】神回・オブ・ザ・ウィーク」。5月13日から5月19日に放送された分から注目の“神回”をピックアップ!(編集部)

5月10日公開の映画『トラペジウム』、みなさんは観ましたか? 乃木坂46一期生・高山一実さんによる小説が原作でアイドルを目指す少女の話なのですが、「主人公がサイコパス」などSNSでは変なバズり方をしていました。その一端は以下の映像でも感じられるかもしれませんが、先週末にようやく観たところ、少女の挫折とその先の(周囲を含めた)変化が少し刺激的に、かつ丁寧に描かれていて個人的にはかなり真っ当に面白い佳作だと感じました。当連載などを好きなアニメファンにとっては観る価値充分でしょうから、ぜひお近くの映画館でご鑑賞を。

ただ完全に個人の嗜好ですが、個人的にはエピローグがもう少しビターだったほうが好きだったかなあと。いや、1本の映画としてはハッピー寄りなほうがいいというのはもちろんなのですが……というわけで、今回はオチがよかった神回を紹介していきます。

●いろんな意味で教訓的な話『夜のクラゲは泳げない』

『トラペジウム』も少女たちが進路を決める話だし、『響け!ユーフォニアム3』でも延々と久美子が進路に迷っていますが、『夜のクラゲは泳げない』第7話も進路の話でした。

今回はおもに元アイドルの花音がメイン。匿名アーティストのJELEEとして一緒に活動する仲間たちが高校3年生になり今後どうするかを決めるなか、花音は以前からなんとなく「JELEEのフォロワー10万人」を目標にしていたもののそこに明確な目的や展望はなく少しモヤモヤ。そこで仲間のキウイがバイクの免許合宿に行くことを知り、それに同行することに。

その合宿免許でも、仲間内ながらいつもと違うコンビであるキウイとのやり取りや、ふたりの前に現れる妙に親しげで魅力的なお姉さん、そして花音がなかなか上手く走れない“一本橋”(直線狭路コース)と、夢や行く末についてさまざまな角度から迫って非常に面白いのですが。

どうにかこうにか花音がバイクの免許の取得に成功し、メインコンビのまひると一緒に二人乗りでとりあえず海へ。この出来事の日付が、放送直後の5月20日:中国語で「我愛你」の日なのも気が利いているのですがーーそう言えば前回も母の日に合わせた31歳バツイチ子持ちアイドルの話でしたーーそこでの話を通じて、「フォロワー10万人」以上にやりたいことを見つける……という感動的な話かと思いきや、Cパートで「免許取得から1年以内の二人乗り禁止」に違反して切符を切られるというオチ。ひとりの女の子の決意をこれくらい真正面から、でも軽やかに描いてくれるなんて嬉しい1話でした(その一方で『ガールズバンドクライ』の仁菜が、親に金払ってもらっている予備校を辞めるのを滅茶苦茶いい顔で決意するのも印象的でしたが)。

●こういうこだわりのコラボをもっと観たい

先週は『クレヨンしんちゃん』と『わんだふるぷりきゅあ!』というテレビ朝日系の人気アニメがコラボしました。互いの本編内にメインキャラクターが出演し合うという内容で、先に放送された『クレしん』ではいろはとこむぎが登場。いきなり現れた巨大なガルガル(プリキュアの敵、今回は正体がぶりぶりざえもん!)を、キュアワンダフルとキュアフレンディ、そしてシロが変身したキュアワタアメとしんのすけが変身したキュアオシリィが撃退します。

これがいろはやこむぎのデザインが『クレしん』テイストだったり、きちんと変身シーンもやってくれたりとすごい満足度(ちなみにこの日の『クレしん』は3本立てで、ほかの再放送エピソードが豚や牛の話だったのも示唆的でいい)。思わず、キュアオシリィとNHKのおしりたんていの放送局を越えるコラボも期待してしまったほどです。

そのおかげで『わんだふるぷりきゅあ!』に期待が高まっていたのですが、こちらではしんのすけがチョイ役で登場して会話するのみ。『プリキュア』恒例の正体バレ回で重要な話もあったからかもしれないけど、もう少し活躍が観たかったな……などと思っていたところで、エンディング&次回予告後の「あなたのおうちのわんだふる」という視聴者の飼い犬紹介コーナーでシロが登場! 油断していただけに驚かされました。

●家族ってそういうことだよね『変人のサラダボウル』

最後はホームレスの女騎士、彼女を救世主として崇める宗教団体の指導者、そして活動資金を得るため違法セクキャバで働いていたバンドマンというちょっと異常なバンドが結成された前回に続いてこれ。今回は異世界からやってきたサラが「学校に行ってみたい」ということから戸籍をどうするかという話に。そこからスチャラカ気味な競馬話が挟まって、いつも通り楽しく終わりそうなところで主人公コンビが交わす一言ずつのほんのちょっとしたやり取りに悶絶!

雰囲気込みで素晴らしいので詳細は本編で観ていただきたいのですが、もうちょっと仰々しい演出などしてもおかしくない大事なシーンなはずなのにそっけないくらいで終わることで話の説得力が倍増。そこから夫婦(カップル?)の喧嘩を歌う、今季イチ感動的なエンディング主題歌「今晩の喧嘩」になだれ込む展開に、冗談抜きでちょっと震えました。

(文=はるのおと)

© 株式会社blueprint