ポルシェ911(964型)をレストアおよび再構築するシンガー、コーンズとパートナーシップ契約 「Turbo Study」「DLS Turbo」公開

by 編集部:小林 隆

2024年5月21日 開催

シンガー ヴィークル デザインとコーンズ・モータースがパートナーシップ契約を締結

「ポルシェ911」をベースにしたビスポークのレストア専門ブランドとして知られるSinger Vehicle Design(シンガー ヴィークル デザイン。本社:米カリフォルニア州)は5月21日、輸入車正規販売店のコーンズ・モータースとパートナーシップ契約を締結したことを発表。あわせてシンガーが手掛けた「Turbo Study」「DLS Turbo」の2台のデモカーをトランク・ホテル(渋谷区神宮前)で公開した。

シンガーは1989年~1994年のポルシェ911のレストアおよびリイマジン(再構築)を、964型シャシーをベースにして行なっている企業。根底にあるのはポルシェへの敬意で、シンガーが再構築した車両はいかなる場合においても「シンガー」「シンガー911」「シンガー・ポルシェ911」「ポルシェ・シンガー911」などと表記することはないという。2009年に設立され、同年のモントレー・カー・ウィークで初のレストアモデルを発表以降、これまでに約450台の受注があり、およそ300台を納車した実績を持っている。

現在北米、欧州、オーストラリア、アジアのパートナーと事業を展開しているシンガーが、コーンズとともに日本のビジネス展開を本格スタートする。日本でレストアを依頼する際、コーンズがサポートを行ない、シンガーが展開するレストアサービスについて理解を深めるとともに、要望について話し合いができるようになる。また、コーンズとしてはサポートを行なうだけにとどまらず、納車後のメンテナンスサービスも展開していく。

「Turbo Study」
ブレンボキャリパーやBBSホイールがおごられる「DLS Turbo」。展示されたバンパーおよびリアウイングも付属し、空力性能をさらに高めることができるという。「Turbo Study」とともにシンガーのデモカーであり、シンガーが再構築した一例となる

発表会ではシンガー創業者兼エグゼクティブ・チェアマンのロブ・ディキンソン氏と最高経営責任者・CEOのマゼン・ファワズ氏、コーンズ・モータース 代表取締役社長 兼 CEOの林誠吾氏が登壇。

シンガー創業者兼エグゼクティブ・チェアマンのロブ・ディキンソン氏(右)と最高経営責任者・CEOのマゼン・ファワズ氏(左)

ディキンソン氏はシンガーができるまでに至った経緯について触れ、氏は子供のころからクルマ好きで、大学ではカーデザインについて学び、図面を引いたりクルマのデザイン画などを書いたりしていたという。その後ロックミュージシャンになりつつ(それゆえ社名はシンガーか)完璧なポルシェ911を作りたいという夢を追って2003年にカリフォルニアへ行くことになる。

そのポルシェ911について、「ポルシェ911といえば空冷式エンジンですよね。ポルシェはおそらく世界で最も重要な、文化的な意義を考えてもレースカーにおける象徴としても重要です。空冷式ポルシェの黄金期は1964年から1998年まで続いたわけですが、この時代が生み出したポルシェを私が理想とするスタンダードに引き上げたいと思いました。2003年から2006年にかけてLAに住んでいたとき、私自身が作り上げたクルマを運転していたのですが、非常にたくさんの人から声をかけられてまして、もしかしたらこれを他の人にも同じようにやってあげられるんじゃないか、売れるんじゃないかと思ったのです。そして私が思うところの完璧なポルシェ911を試作車として作り、モントレーで2009年8月に発表しました」と、これまでの経緯について語った。

また、今回コーンズとパートナーシップ契約を締結したことについては「日本のポルシェコミュニティに何か素晴らしいものを提供したいと考えています。もちろん言語の壁というのもありまして、これまではなかなか参入ができませんでしたが、実に素晴らしい完璧なパートナーと今回手を結ぶことができましたので、非常に楽しみにしています」と述べている。

コーンズ・モータース株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの林誠吾氏

一方、林社長がシンガーを知ったのは数年前に見た自動車雑誌だったといい、「『ああ、かっこいい』とスーパーカーを見たときに思った子供のころを思い出させていただきました。まさかその数年後に、こうやって自分たちの会社がシンガーとパートナーシップを結んで扱うことができるなんていうことは、そのときは1mmも思っていなかったです」と振り返る。

そして今回パートナーシップを結ぶことになったことについては「私たちの会社の母体となるコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドは総合商社でございまして、創業はもう160年以上前になります。そこから私たちが自動車ビジネスを始めたのは1964年になります。そして、2024年に60年の節目を迎えることになりました。日本において、本当に最高級のブランドを60年間にわたって数多くのお客さまにお届けし、修理し、アフターメンテナンスをしていくということを続けさせていただきました。その中で、この歴史の最先端に立つ、今いる私たちがこれから先の未来に、この自動車の文化の中でどういう役割を果たしていくのかということを、この数年、私は考え続けてきました。クルマが好きです。乗るのも好き、持つのも好き、買い替えるのも大好きです。そのときに、自分たちの会社がこれから先どうなっていけばいいのかと考えたときに、クルマって楽しいということをたくさんの人に伝えていける、そんな会社になりたいと思いました」。

「心躍る瞬間。クルマって本当に楽しいっていうことを、私たちに関わる方、これから未来に関わる方に伝えていく。クルマは作れないけれど、ことを作っていく。クルマというものを再定義し、元々楽しいものだ。それをもっと具体的に、もっとたくさんの人に、所有するだけではなく、それを走らせることという活動をしていける会社。何の会社ですかと言われたら、“クルマって楽しいを作ってる会社です”と言えるようになろうと。そう言って、私は社員にこういう会社になろうよということを伝えてきました。その中には、サーキットを走るトレーニングであるとか、海外にお客さまのクルマをお持ちしてツーリングするツアーだったり、国内のツアーもあります。とにかくクルマを動かして、楽しいことを作って、その瞬間瞬間をつなぎ合わせていって思い出を作っていく。クルマと一緒に。そういうことを“コーンズモーメント”という名前をキャッチにして展開しております。そんなときに出会ったのがこのシンガー ヴィークル デザインでした」。

「シンガーさんは911を見事なまでに現代に蘇らせた。ぜひこれ、後で皆さん実際に触られると思うのですが、私はびっくりしました。このキャッチを開けた瞬間、ドアを閉める瞬間、乗り込んだときの雰囲気、もう紛れもなく964の911です。何も失われていないのです。ロブさんのあくまで911を自分の楽しいように蘇らせたらこうなった、でも元のものは決して崩さないということにすごく共感しました。これは1台ずつお客さまの仕様に合わせてモデルを作り上げていくわけですが、きっとその過程というのは相当大変な手間のかかる作業が待っているということです。それは同時にお客さまにとって楽しみであり、お手伝いする私たちにとってもそれは楽しい瞬間であります。ホイール、ボディワーク、内装、ステッチの色、素材はなんだ。こういうことの瞬間瞬間を作っていく過程の積み重ねが、私たちがやろうとしている“クルマって楽しいよ”を作るベースととても合致する。シンガーさんが考える再構築というのは、クルマを作れない私たちが、クルマの楽しさを再定義していこうということとなんら変わることがないとお話を聞いて思いました。だから私たちはこれは絶対にやるべきだと」。

「おかげさまで、年間2000数百台のクルマ、ポルシェを合わせれば3000台強のお取り扱いをさせていただいております。シンガーさんはその中では非常に限定的な数しか作れません。ビジネスだけのことを考えればあまりよくない、合わない。要するにあまり儲からないかもしれない。でも、私たちがこれから未来に向けてコーンズ・モータースとしてやっていく中で、この活動を一緒にやっていくことはお金じゃない、新しい価値を皆さまに提供していけると確信しております。だから、数年前に雑誌で見たかっこいいなと思ったこのクルマを両脇に挟んでここに立っていられることを私はとても幸せに感じていますし、これからお会いするたくさんのお客さま、その方たちにぜひ自分のガレージに収めていただきたい。次はこれが欲しいと、私たちが進めなくてもこのモデルたちはその力を持っていると思いますので、それを一生懸命お伝えして、サポートして、日本に入ってきた後のアフターメンテをして、未来に長くこのシンガー ヴィークル デザインが日本の自動車文化の中に根付くように一生懸命励んでいきたいと思います」と語っている。

© 株式会社インプレス