北朝鮮、10代少女も「見せしめ強制体験」の生々しい現実

韓国の金暎浩(キム・ヨンホ)統一相は20日の記者懇談会で、文在寅前大統領が回顧録で北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)が「核を使用する考えが全くない」と述べたなどと主張したことについて、「北の意図を全面的に信じると私たちに極めて否定的な安全保障上の結果をもたらす」と批判した。

保守強硬派として知られる金暎浩氏の北朝鮮観が、対北融和を進めた文在寅氏と大きく異なっているのはよく知られた事実だ。だからこのような批判が出るのは想定内と言える。

ただ、金氏がこの日、明らかにした内容の中にはよりショッキングなものがあった。昨年、漁船に乗って北朝鮮を脱出した2家族の中の1人が、文前政権だったら脱北を決心しなかったと証言していたというのだ。

過去、北朝鮮から韓国に亡命した脱北者は、保守政権のときにも進歩(左派)政権のときにもいた。その数に増減はあったが、それは主として北朝鮮の国内事情によるもので、韓国の政権を選ぶようにして逃れてきた例など聞いたことがない。

これはまず間違いなく「あの一件」が影響したと思われる。

文前政権は2019年、亡命を求めた脱北漁民2人を北朝鮮に強制送還してしまった。2人が漁船の同僚らを殺戮した凶悪犯の可能性があるからという理由だったが、真実を見極めるための捜査は行われていない。

デイリーNKの北朝鮮内部情報筋によれば、北朝鮮当局を50日間にわたって拷問した後に処刑したという。

北朝鮮では、10代の少女までもが「見せしめ」の現場に引き出され、国家に背いた者たちがどのような罰を受けるかを、身をもって知らされる。

北朝鮮当局は、2人の漁民が強制送還された事実を政治教育資料で紹介し、「南に逃げても無駄だ」と国民を脅し上げたという。その後の彼らの処遇については詳らかにしなかったようだが、北朝鮮国民なら誰しも、彼らの運命を容易に想像できるのだ。

脱北を試みる人々は皆、そうした生々しい恐怖を振り払って行動に出る。その裏には、そうでもしなければ生き延びられないという、切実な現実がある。

しかし、そんな一縷の望みを絶つものが、北朝鮮当局だけでなく韓国政府にまであるとしたら、北の人々はどこに希望を持てばよいのだろうか。

文前政権が進めた政策の評価は、見る角度によって様々だろうが、韓国憲法にも抵触する漁民2人の強制送還は、明らかな間違い、ないしは犯罪だったと言える。

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