東京FC松木玖生の出場は不透明に、ボルシアMG福田師王ら欧州組「若年齢化」で新たな風【日本サッカーにオリンピックは必要か】(2)

主軸としてチームを支えた松木玖生(中央)には、欧州移籍の話も噂されている。撮影/渡辺航滋(Sony α1使用)

今年の夏、世界的なスポーツの祭典がある。フランスの首都、パリで開催されるオリンピックだ。サッカー日本代表は男子、女子ともに出場するが、はたして現在の日本サッカーにとって、五輪は本当に必要な大会なのか。サッカージャーナリスト大住良之が、その意義を問う。

■Jリーグと欧州で「大きく違う」五輪の扱い

Jリーグは、31年間の歴史を通じて日本代表の活動に無条件で協力し、「オリンピック世代」の活動も全面的に支援してきた。今回もリーグ戦の真っ最中で、招集されれば4試合か5試合欠場することになるにもかかわらず、どのチームも大事な主力選手を快く大岩監督に託した。7月から8月にかけてのオリンピックでも、所属チームには痛手だろうが、選出されれば笑顔で「がんばってこい」と送り出してくれるだろう。過去のオリンピック予選、本大会も、Jリーグの協力なくして成り立たなかった。

だが、欧州のクラブはまったく別だ。オリンピック予選、あるいはオリンピックの本大会の代表メンバーに選出されても、出すか出さないかは、100パーセント、クラブに委ねられている。というより、そのときのチーム状況、そのタイミングでの監督の判断にかかっている。日本サッカー協会は欧州に置いた事務所がこまめに選手の所属クラブと連絡をとり、代表監督も欧州の選手所属先クラブを訪ねては「お願い」しているが、希望する全選手を呼べるわけではないことは、報道されているとおりである。

■欧州移籍で「五輪出場が不透明になる」選手

韓国のU-23代表は、当初U-23アジアカップに登録をしていた「欧州組」のうち3人が大会直前になってクラブから放出を拒否され、混乱を余儀なくされた。そうしたことが、今夏のオリンピックで日本に起きない保証はない。当然、カタールでのU-23アジアカップで活躍した「Jリーグ組」のなかからもオリンピック前に欧州クラブへの移籍が決まり、オリンピック出場が不透明になる選手も出るだろう。20歳にしてチームの支柱のひとりとなったMF松木玖生(FC東京)には、すでにそうした話が出ている。

オリンピックで話題になる「オーバーエージ」の選手枠(3人)も、所属クラブとの交渉になる。2021年の夏に行われた「東京2020」では、「地元開催の大会だから」という理由で欧州のクラブが理解を示し、DF吉田麻也(当時サンプドリア)、MF遠藤航(当時シュツットガルト)が参加することができた。オリンピックの直前に欧州から日本に戻って浦和レッズでプレーしていたDF酒井宏樹を加えた「オーバーエージ組」は、日本の準決勝進出に大きな力となった。

■欧州組の「若年齢化」で五輪の役割が低下

このようなオリンピックサッカーの状況があるなか、ここ数年間で日本のサッカーには大きな変化が起きている。「欧州組」の若年齢化だ。以前は日本代表での活躍を通じて認められ、欧州に移籍する選手が大多数だった。しかし、このところ、18歳~21歳という若い選手たちが欧州のクラブから目をつけられ、移籍するだけでなく、どんどん試合に出て活躍する例が増えている。

もちろん、若い選手がいきなりプレミアリーグやブンデスリーガで活躍するのは難しいが、ベルギー、オランダ、ポルトガルといった「ステップアップリーグ」でプレーすることで、欧州のスピードや体格に慣れ、力を発揮して「ビッグリーグ」に移っていく選手が次々と出ている。独ブンデスリーガ1部のボルシアMGに所属する20歳の福田師王、ヴェルダー・ブレーメン(現在、U-23チーム)に所属する佐藤恵允などが今後、ブンデスリーガで活躍できれば、大きな自信となり、「ワールドカップで戦う力」に直結する。

すなわち、「日本国内のユースサッカー→Jリーグ→オリンピック→ワールドカップ」という図式に加え、「日本国内のユースサッカー→欧州のステップアップリーグ→欧州のビッグリーグ→ワールドカップ」という新たな図式ができかけているのである。そうして日本を出ていった若い選手たちが移籍先のクラブで実績を残し、評価を高めることにより、この流れは今後5年間で加速する可能性が高い。

この流れが、日本代表強化における「オリンピック依存」を軽減させるのは言うまでもない。「ワールドカップ優勝」という最終目標に対するオリンピックの意義は、間違いなく低下しているのである。

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