ヒントは「沈没船」から? バーテンダーが手掛ける海洋熟成酒「北海道海洋熟成」本間一慶さん #BOSSTALK

【酒類】道内10カ所の海域でお酒を水流の振動や水温で熟成させるサービスを手掛ける北海道海洋熟成(札幌)。バー一慶(同)も経営する代表取締役の本間一慶さんに北海道の海の魅力と、海に思い描く夢を聞きました。

海の環境が引き出すお酒の本来の良さ

海底に沈めて熟成した酒

――お酒の海洋熟成とは?お酒を海の底で沈めて寝かせる新しい熟成方法で、瓶の口にろうを付け、海水が入らないようにして1年間ぐらい寝かせます。アルコールの角が取れて飲みやすくなる傾向にあります。お酒は何でも大丈夫です。――海洋熟成のお酒を飲み比べてみます。積丹で造られるジン「火の帆 HONOHO」です。一口目から(海洋熟成したものは普通のものと)全く違いますね。約1年間、積丹町(後志管内)の宝島の近くで、水深約18メートルの海底で寝かせました。アルコールの刺激が抑えられ、このジンに使われるボタニカル(植物)本来の香りが感じやすくなります。アルコール度数が下がるというより、アルコールの刺激がやわらいだ分、このジンの良さを感じやすくなっています。

掛け持ちのアルバイト 楽しかったバーテンダーの仕事

2007年「BAR一慶」をオープン

――ご出身はどちらですか。どんな子ども時代でしたか?札幌のすすきのです。父がすすきので魚屋を営み、よく遊びに行きました。――良いお店に連れてってもらったり、顔見知りになったりしましたか?お寿司屋さんに行ってカウンターで握りを食べ、父につけを回していました。――すすきのならではの子ども時代ですね。19歳のときは、六つぐらい飲食店のアルバイトを掛け持ちでしていました。朝、ホテルの朝食のアルバイトに行き、昼はそのままランチの仕事をして、夕方は違うホテルでブライダルや宴会、夜はバー。終わった15分後にホテルの朝食に行く生活でした。その中でもバーテンダーの仕事は先輩と良いお客さんに恵まれ、楽しかったです――独立のきっかけは?(アルバイト先の)バーの先輩に物件を紹介され、見に行ったら、たまたま知り合いの店だった場所で、縁を感じ、独立を決めました。店は今年で17年になります。

「うめぇじゃねぇか」の一声で奮起 北海道の海を「会社」に

道内各地の漁師さんが協力

――海洋熟成はどんな経緯で始めましたか?2010年頃に海外の沈没船から出たお酒がオークションで出回り、バーテンダーとして飲みたいと思いました。2014、15年頃には東京の先輩にお酒を海中に沈める企画に誘われました。南伊豆(静岡県)で、半年ほど熟成させると、すごく味が変化し、南伊豆でできるなら北海道でもできると思い、好奇心で始めました。ただ、海に行って話をしても、サンプルがなく、漁師さんはピンと来なかったですね。それで漁師さんの好きな日本酒を1年間、沈めて実験し、一緒に飲んだら「うめぇじゃねぇか」と分かってもらえました。海洋熟成には(国土交通省と国税庁の)法的な許可が必要ですが、漁師さんのOKをもらわなければできません。――事業はトントン拍子に進みましたか?最初は研究して本当に味が変わるかの検証をしましたが、コロナ禍でバーの営業ができなくなり、収入がゼロになりました。海底熟成の研究を仕事にしようと、2020年に法人化したのが北海道海洋熟成です。知内町、木古内町(いすれも渡島管内)で、ふるさと納税の返礼品に採用されて、自信につながりました。沈めたお酒と地元の魚介類のペアリングを研究しています。返礼品はお酒と魚介類とセットにしているので、ペアリング性をよく調べて提案しています。北海道は三つの海に囲まれて(水流などの)特性がそれぞれ違います。お酒を沈める海を徐々に広げ、最終的には北海道の海をうちの「会社」にしたいと思っています。――三つの海を制すとは海賊みたいですね。地域で特産品が違い、それに合うお酒とかを探すのは楽しい。地域貢献として、町のお酒になり、獲れた魚介類を売るきっかけになればと考えています。

北海道の海の恵みに感謝 海を豊かにする恩返し

海底セラーサービスに注力

――今、力を注がれていることは。海底セラーサービスです。お客様からお酒を預かって海中に沈め、1年後に届けるサービスです。海底の監視システムを活用し、海の中の様子をスマートフォンで(リアルタイムで)見ることができます。――その事業を行う人は全国にいますか? 唯一ですか?まだいないですね。――北海道で海洋熟成に取り組む意味は?三つの海によって味が変化します。保管環境では水温が低いのが一つのメリット。道外の海底熟成は台風の直撃で半年ぐらいしかできません。北海道は台風の勢力が衰えるので1年間、沈めることができます。北海道の良さですね。――事業の未来を教えてください。海底熟成の施設は漁礁化します。エビやカニと、魚が棲み着き、施設を増やすことで海を豊かにします。ブルーカーボン(海の生態系が吸収・貯留する炭素)の取り組みとして海藻が生える仕掛けもしています。沈めるお酒の面積が増えれば、海藻が生える面積も増え、海が豊かになります。漁師さんへの恩返しです。

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