【コラム・天風録】富士見スポット

 富士見坂、富士見台、富士見が丘…。富士山ゆかりの地名が37の都道県にあるらしい。広島市にも富士見町が残る。末広がりで姿形のよい国内最高峰は、古くから憧れの的だったことがうかがえる▲だが見えるのは理論上、北は福島、南は八丈島で20都府県に限られる。尾道市生まれの元高校教諭で3年前に70歳で亡くなった富士山展望マニアの田代博さんが、どちらも調べ上げた。その後、三百数十キロ離れた和歌山で写真に収めた報告も現れた▲憧れは遠いほど強まるのだろうか。日本一の山は訪日客も引きつけている。世界文化遺産となり、夏の登山者数は20万人を超す。その半面、「観光公害」をぼやく声が目立つ▲山梨側の登山道ではこの夏から、夜通しで登る危険な「弾丸登山」やごみ問題の解決策として通行料の徴収を始める。山梨側の麓には、富士山を隠す黒い幕まで現れた。コンビニ越しに富士が撮れる写真映えスポットに群がり、道路を横切る訪日客たちが住民の目に余ったからだ▲ただ、遠く引く山裾をぐるりと幕で囲うわけにいくまい。むしろ見過ごしてきた景観資源を掘り起こす好機と受け取れないものか。富士見スポットの穴場を教わるつもりで。

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