切なすぎる描写に泣いた…離ればなれになった“母と子”、健気な主人公たちの姿に感涙した昭和アニメ

『昆虫物語 みなしごハッチ』初回と最終回 [DVD](リバプール)

昭和アニメのなかには、やむを得ない理由で離ればなれになった切ない母と子がたびたび登場する。

今回はそんな悲しい母と子のエピソードに加え、それでも健気に生きる主人公の姿に思わず涙した昭和アニメ3選を紹介したい。

■『昆虫物語 みなしごハッチ』

タツノコプロ製作の『昆虫物語 みなしごハッチ』は、1970年から71年にかけて全91話が放送され、74年からは続編『昆虫物語 新みなしごハッチ』が、89年にはリメイク版も放送された人気作品である。

本作は昆虫をキャラにしたメルヘンな世界である一方、弱肉強食の厳しい世界や人間による環境破壊などシリアスなエピソードも多い。そんな本作での母子が離ればなれになってしまった理由は、第1話「負けるなハッチ」冒頭で描かれている。

スズメバチの襲撃に遭うミツバチ王国。女王であるハッチの母は卵を籠に入れて逃げようとするが、スズメバチの追撃は激しく、籠ごと卵を落としてしまう。卵の多くはスズメバチによって食べられてしまったが、そこから運よく生き残ったのが本作の主人公・ハッチであった。

その後、シマコハナバチに拾われ、我が子同然に育てられたハッチ。しかし、兄や姉たちからは自分たちと違うとからかわれ、ハッチも自分の出自を知ると「本当のママに会いたいんだ」と旅立ちを決心する。

さまざまな出会いと苦難を経て、ようやく母が再建した城に辿り着いたハッチ。しかし、そこでもクーデターを企てる裏切り者の存在、さらにはスズメバチたちによって、息子であることを明かせないでいた。

そして最終91話「ママに抱かれて」で、ミツバチやカマキリのカマキチなど仲間たちの助けを借りスズメバチを撃退、ようやく涙の再会を果たしたハッチと母。ちなみに……再会も束の間、続編『昆虫物語 新みなしごハッチ』では母が女王の座を失脚し、早々に死んでしまうという悲しい別れが待っている。

はじめは幼く頼りないハッチだったが、さまざまな苦難を乗り越え、心身ともに成長していく。そんな健気なハッチの姿こそが、本作の最大の魅力であろう。

■わずか9歳の子どもがアルゼンチンへ渡る『母をたずねて三千里』

『母をたずねて三千里』もまた、離ればなれになった母と子、そして健気な主人公が印象的な作品だった。

日曜夜の7時半に放送されていた『世界名作劇場』。そのシリーズ2作目として1976年に放送されたのが、この『母をたずねて三千里』だ。

第1話「いかないでおかあさん」、家族全員での楽しい馬車でのお出かけを最後にアルゼンチン共和国の首都・ブエノス・アイレスへ出稼ぎに出た母のアンナ・ロッシ。その後、なぜか音信不通になってしまったアンナに心配を募らせる家族。そして、イタリアから離れられない父や兄に代わり、わずか9歳の少年マルコが母を探しアルゼンチンへ向かうこととなる。

イタリアとアルゼンチン間はジェット機がある現代では約半日の距離だが、マルコが旅したのは1882年、ライト兄弟が飛行機を発明する前である。移動はもっぱら船や馬車。もちろん電話などの通信手段もなく、母の情報は人から直接聞いたものだけだ。

マルコと相棒の白い猿・アメデオの旅は苦難の連続だったが、そのたび多くの人々に助けられ乗り越えて行く。その旅は実に3カ月にも及んだ。

そして第51話「とうとうかあさんに」で、マルコはようやく母のもとに辿り着く。母はたび重なる移住に過労、そして家族と連絡が取れない精神的な苦痛から病に伏してしまっていた。朦朧とするアンナに「お母さん! お母さん!」と呼びかけるマルコ。その声に母もどうにか意識を取り戻し、涙の再会を果たすのだった。

海を越えはるばる会いに来てくれた息子に力を得た母は危険な手術にも耐え、その後奇跡的に回復する。そして、最終52話「かあさんとジェノバへ」。母が仕えていたメキーネス夫婦や手術を担当した医師・ロドリゲス先生の好意もあり、2人はついに一緒にイタリアへ帰るのであった。

旅を経て成長したマルコの表情は、第1話で母と別れたくないと泣きじゃくっていた頃とはまったくの別人だ。「医師になり再びアルゼンチンに戻ってくる」と誓う、非常に頼もしい少年となっていた。

■離ればなれになった母と子…さすがにとんちでも解決できなかった『一休さん』

1975年から1982年にかけ、全296話が放送された大人気アニメ『一休さん』。安国寺を舞台に、主人公の一休がとんちを使って身の回りで起こるさまざまな問題や事件を解決していくユーモアたっぷりの作品である。しかしその一方、離ればなれになった母と子の切ない物語でもあった。

一休は、実在した人物がモデルとなっている。室町時代の僧である一休宗純、本作は彼の子ども時代の説話を元にして作られた。そして母・伊予の局(いよのつぼね)は、後小松天皇に仕える女官の一人で、寵愛を受け千菊丸(のちの一休)を授かる。しかし政治的な理由により母と子は引き離され、千菊丸は一休と名を変え坊主になり、母は小さな家で使用人・おはるとともに密やかに暮らしている。

和尚や先輩坊主、さらには新右衛門や幼なじみのさよちゃんたちとともに明るく賢く生きる一休だが、第20話「おっぱいと兄弟げんか」では、どうしても母が恋しくなり、母の元を訪ねてしまう姿が描かれている。

しかし、母・伊予の局は「あなたは父も母もない」と気丈に追い払う。その言葉に深く傷ついた一休は、嵐で吹き荒れる琵琶湖へ小舟で出て高波にさらわれてしまう。なんとか一命を取り留めるのだが、非常にシリアスな内容となっていた。

将軍や桔梗屋から出される難問や周囲の人たちのトラブルをとんちで解決し、その後もたくましく幸せに暮らす一休。しかし最終296話「母よ!友よ!安国寺よ!さようなら」では、幸せ過ぎる生活にこのままではいけないと、厳しい修行を求め旅に出ることを決意する。

それを察した和尚の計らいにより、旅に出る前に母子水入らずの時間を過ごすことを許され、そして仲間たちとの別れを惜しみながら一人旅立って行くのであった。

今回は、離ればなれになった母と子。そして、けなげに生きる主人公の姿に思わず感涙してしまった昭和アニメを紹介してきた。

「可愛い子には旅をさせよ」ということわざがあるが、いずれも主人公たちも、その意味以上に過酷な人生を送っていたのが印象的だ。そんな環境にも負けず、健気にまっすぐたくましく生き、徐々に成長していく主人公の姿には、やはり心打たれるものがあった。

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