アングル:米証券決済、「T+1」移行でMSCI入れ替えが試練に

Laura Matthews Sinead Cruise

[ニューヨーク/ロンドン 20日 ロイター] - 米国証券(株式・社債)の決済期間が今月28日、現行の「取引日後2営業日以内(T+2)」から「取引日後1営業日以内(T+1)」に短縮される。米証券取引委員会(SEC)が実施した法改正によるもので、カウンターパーティーリスクの軽減と市場の流動性改善が狙いだ。

しかしその3日後には、MSCIが四半期ごとに行っている各種世界指数の銘柄入れ替えに伴う、資産運用業界の大々的なリバランス(資産再配分)が発生する見通し。一部の市場参加者は、年間で取引規模が最大級に膨れ上がるこのイベントが、新たな決済制度に対応中の市場に一層緊張状態をもたらしかねないと懸念している。

ノーザン・トラストのグローバル・キャピタル・マーケッツ・クライアント・ソリューションズ・グループを率いるジェラルド・ウォルシュ氏は「T+1始動直後に正念場を迎えるというのが現実だ。MSCIのリバランスは多数のファンドや上場投資信託(ETF)、ポートフォリオ構造にまたがって起きる。大変重大な出来事だ」と指摘し、フェイル(予定決済日後も証券受け渡しがなされていない状態)が短期的に増加する事態に業界として備えるべきだと付け加えた。

直近のリバランス時には、世界平均で取引量が120%増え、先進国と新興国双方の合計規模は470億ドルに達したことが、ノーザン・トラストのデータをロイターが共有して明らかになった。米国だけなら、取引量は199%増加した。

クリア・ストリートの証券清算・決済部門マネジングディレクター、ジョン・オレオン氏は「既に解決済みというより、これまで想定されてこなかった面に不安がある」と述べ、やはりT+1開始からの1週間でフェイル率が高まるとみている。

フェイルが発生すれば、当該取引で損失を被ったり、取引コストを押し上げたり、市場参加者としての評判に傷が付いたりするリスクが出てくる。

SECは、決済期間短縮で市場はより効率的になると期待するものの、外国の投資家にとっては証券貸借リコールと決済に必要な資金の調達のための時間が少なくなる。

こうした中でフェイル件数が増加し、MSCI指数に応じた資産配分の調整に向けた投資家の取り組みが水を差される恐れがある、という心配が市場参加者の間で広がっている。

BDスイスのダニエル・タキエディン中東・北アフリカ地域最高経営責任者(CEO)は「指数のリバランスはファンドやその他の機関にとって相応のリスクをもたらしてもおかしくない。取引コストがより跳ね上がり、決済業務により注意を要する局面で資産を動かすことになるからだ」と語った。

カプコのT+1グローバル責任者を務めるステファン・リッツ氏は、今のところ顧客はT+1移行前と同じ3─5%程度のフェイル発生率を見込んでいるが、決済期間がよりタイトになるアジアについてはもっと高まることも覚悟していると説明した。

MSCIは、世界的な株式サイクルの清算と決済の動向を注視しているところだと述べ、現段階では指数算定方法や入れ替え手続きの修正はしていない。

一方、米証券清算・決済機関DTCCによると、4月に米企業と米国以外の企業が行った証券取引のうち83.5%は、取引翌営業日の午後9時までに当事者同士で詳しい内容の承認(アファーメーション)が成立した。アファーメーションは決済上必須ではないが、手続きの円滑化とフェイル発生リスクの低減に役立つ。

DTCCの清算・証券サービス担当プレジデント、ブライアン・スティール氏は「DTCCはT+1の実施に向けた準備が十分整っており、MSCIに起因する取引量増加の把握と処理能力に自信を持っている。われわれは業界や主要利害関係者と協力し、必ずT+1導入を成功に導く努力を続けていく」とコメントした。

米投資信託協会の証券事業ディレクター、RJ・ロンディニ氏は、指数入れ替えの内容は実行数種間前にあらかじめ発表されると解説。「31日には取引量が増える公算は大きい。だがこの業界の人々はリバランスが何たるかを熟知している。加盟先からは、ある程度取引が増えても必ずしも厄介なことにはならないという声が聞こえてきている」と強調した。

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