59歳シングル女性「定年退職時に繰り上げ返済すべき?」住宅ローンの全額繰上返済前にみるべきポイントとは

定年退職の時期が近づいてくると気になる老後生活のこと。老後2,000万円問題の報道を記憶されている方は多く、資金準備はもちろん大切ですが、長生きすることを想定すれば、資金をいかに取り崩すのか、その方法もまた大切です。

住宅ローンが定年退職時に残っている場合、全額を繰上返済した方がいいのでしょうか。定年退職時に全額繰上返済を検討する際のポイントについてお伝えしていきます。


筆者のもとにご相談にこられたAさんは、定年退職を控えた59歳の女性です。筆者のライフプランセミナーにご参加いただき、その後、老後の生活設計についてご相談にいらっしゃいました。

定年退職したあと、65歳まで再雇用で引き続き勤務することを予定していましたが、収入は減ることが見込まれたため、住宅ローンの全額繰上返済を希望されていました。ただ、住宅ローンの残高は大きく、本当に一括でしてしまっていいものか迷われているとのことでした。

繰上返済のメリット

繰上返済とは、住宅ローンの返済を当初取り決めたスケジュールよりも前倒しして行うことをいいます。残りのローン残高を全額一括返済する全額繰上返済と、一部を返済する一部繰上返済があります。繰上返済によるもっとも大きなメリットは利息負担額を減らせることでしょう。毎月返済額は分割された元金と利息額で構成されています。繰上返済した資金は元金返済にあてられるため、繰上返済の分利息額を減らすことができます。

また、繰上返済をすると、毎月の返済額を減らせるケースがあります。一部繰上返済の方法の1つに「返済額軽減型」があります。「返済額軽減型」は、繰上返済で入金した分を、残りの期間の毎月の元金に均等に割り振ることで毎月の元金と利息の返済を少しずつ減らします。こちらを利用した場合毎月返済額を減らすことができますし、変動金利型の場合、金利が下がった局面で繰上返済を行えば、毎月返済額を減らせる可能性があります。

加えて、近い将来住宅の売却を考えられているなら、売却しやすくなる点もメリットとして挙げられるでしょう。家は資産になるといいますが、本当に資産となるのは売却価格よりも住宅ローンの残高が少なくなったあとです。住宅ローンの残高が売却価格を下回るのであれば売却は困難となり、本当の意味でご自身の資産とすることは難しいでしょう。

繰上返済のデメリット

一方繰上返済には以下のとおり、デメリットもあります。

・住宅ローン減税による減税額が減る

・万が一の備えが薄くなる

・手数料がかかる

住宅ローンを組んでマイホームを取得する場合、一定の要件を満たせばご自身の所得税もしくは住民税から一定額の減税を受けることができます。住宅取得時期や住宅の種類等によって異なりますが、住宅ローン減税が受けられるのは長くても13年間です。住宅ローン減税額の上限は原則年末の住宅ローン残高によって異なります。繰上返済をすれば住宅ローン残高が減少しますから、住宅ローン減税の期間内であれば減税額は減るでしょう。

また、繰上返済をすると、手元資金が減ると同時に団信(団体信用生命保険)の補償も減ることとなります。団信は住宅ローン契約時に同時に加入し、住宅ローン契約者が万が一のとき、住宅ローン残高を本人に代わって返済するものです。団信の補償額は契約者本人がもつ住宅ローン残高となります。したがって、繰上返済をすることで団信の補償額も減額します。

最後に、繰上返済には通常手数料がかかります。フラット35やネット銀行を中心として手数料がかからないところは増えてきましたが、数千円~数万円必要になる場合もあります。個別に確認が必要です。

Aさんはどちらを選んだ?

繰上返済のメリットデメリットを踏まえながらAさんのご状況を一緒に確認させていただいたところ、全額繰上返済を行うことも十分に選択肢とできることが見込まれました。

Aさんの場合、住宅ローン減税期間は終わっていますし、60歳の定年退職時点の住宅ローンの残高は約900万円であるのに対し、お持ちの資産は不動産を除いて約2,000万円でした。お一人暮らしであり、その他の負債もなく、ご両親も経済的に自立した状態で別居されているとのことでしたから、万が一の補償が減ることは問題なさそうです。

一方、繰上返済しても当面の資産が尽きることはなさそうですが、退職金はなく、資産は半分に減ることが見込まれました。Aさんの場合、定年退職を機に手取り年収は約320万円になり、65歳からは年金生活となることが見込まれます。そこで、公的年金の受給見込み額を土台に、現在の支出内容にもとづきAさんの家計収支の見通しを確認させていただいたところ、住宅ローンの返済がなくなれば、定年退職後の減収後も毎月貯蓄が確保でき、年金だけの生活となっても日常的に大きく資産を取り崩すことなく生活を送れそうだということがわかりました。

くわえて、Aさんは長く働くことに前向きでいらっしゃいました。定年退職後も貯蓄をしながら、70歳くらいまで年収100万円程度の勤労収入を得ることをキャッシュフローに投影すると、定年退職後10年間で600万円程度の貯蓄を増やせることが見込まれました。繰上返済により資産は一時的に減るものの、70歳時点で1,500万円程度の資産を確保できることが期待されました。定年退職後も貯蓄ができそうな見通しを知り、Aさんは大きく安心されたようでした。

定年退職後、一般的に家計は資産の取り崩し期に入ります。繰上返済にはメリットデメリットがあり、Aさんの場合は毎月貯蓄ができる定年退職後の家計のゆとりに大きな価値を見出されましたが、家庭環境や大切にされたいものは人それぞれであり、使うお金の優先順位は異なります。

定年退職後の住宅ローンの全額繰上返済は多くの場合、老後の経済的な見通しに大きなインパクトを与えます。公的年金や企業年金、キャリアプランをベースとし、それぞれの家計に落とし込みながら丁寧に検討していくことが大切です。

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