日本から多数の誹謗中傷も「はっきりさせたい」 元中日助っ人が亡命した“唯一の理由”

ブルージェイズのジャリエル・ロドリゲス【写真:Getty Images】

ブルージェイズのロドリゲスが日本人記者に明かした亡命の理由

キューバ出身選手において、世界最高峰の土地でプレーするには国を捨てる決断が必要だ。ブルージェイズでプレーする元中日のジャリエル・ロドリゲス投手もその一人。「WBCの直後、メジャーリーグに来る時が来たと感じたんだ」。中日との契約を1年残していたが、日本に戻ることはなかった。

今年4月、トロントで行われたドジャース戦。記者はロドリゲスに会うのを楽しみにしていた。昨年3月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準々決勝。豪州戦に先発したキューバ代表のロドリゲスに声をかけた。取材を試みたが、「申し訳ない。英語が話せないんだ」。スペイン語の通訳は近くにおらず、諦めざるを得なかった。

そして、その日がロドリゲスが最後に日本でプレーをした日になった。キューバ代表は米フロリダ州マイアミで行われた準々決勝で米国代表に敗れると、ロドリゲスはドミニカ共和国を経由して、メジャー契約を目指した。

WBCの東京プールでは侍ジャパン以外の試合でも、多くの観客が詰めかけた。キューバ対豪州戦では、ロドリゲスの中日のユニホームで応援するファンの姿も。だからこそ、日本での“最後の試合”が終わった後、いつ亡命を決断したのか。記者が話しかけたときには決めていたのかーー。“ダメもと”でインスタグラムにメッセージを送ると、2日後に返事が返ってきた。

「日本を離れたからにはメジャーで活躍するつもり。中日と日本のファンには本当に感謝しているよ」。決断のタイミング、理由については答えなかった。

WBC直後に巡ってきたメジャー行きのチャンス…苦渋の決断でドミニカへ

それから約1年。ブルージェイズのクラブハウスで再会した。通訳を付けて話を聞こうとすると、最初は警戒しているような表情だったが、少しずつ話してくれた。「僕が子どものころから持っていた夢だった。しかしながら、キューバからそのような決断をするのは、ご存知の通り少し複雑な事情がある。WBCの直後、メジャーリーグに来る時が来たと感じたんだ」。苦渋の決断でドミニカ共和国へ渡ったと明かしてくれた。

亡命後、自身のインスタグラムには日本のファンから多数メッセージが届いた。多くは応援するようなポジティブなメッセージだったというが、中には誹謗中傷のようなものも。「日本に戻ってこないことにイライラしているというものとかね……」。苦渋の決断だったから、中日ファンの気持ちもわかってはいる。「気を配らないようにしていたよ」と自分のプレーに集中した。

そして、「一つだけ、はっきりさせておきたい」。ロドリゲスは続けて話した。

「日本やドラゴンズの僕に対する扱い方について、僕はうれしく思っている。彼らは僕のことを信じてくれていたし、プレーするチャンスを与えてくれた。僕が(中日)に戻らなかった唯一の理由は、(メジャーでプレーする)夢を叶えるためだということ。だから中日と日本の人たちに、本当に感謝している」

契約を一方的に破棄し、“決別”した今でも、中日のニュースはチェック。ライデル・マルティネス投手らかつてのチームメートとも近況報告はしているという。中日ナインやファンからしたら、許されるものではないかもしれない。理解しろとはロドリゲスも思っていないだろう。ただ、中日への感謝があるからこそ、日本人の記者の取材に応じてくれたのだとも感じた。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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