「おじさん構文」は編集部のガチ校正でどこまで美文になる?

「おじさん構文」という字面を見て、画面の前でドキッとした方は少なくないかもしれない。SNSアプリでの中年男性特有の言い回しを指す言葉で、世間では「読みにくい」とか「気持ち悪い」などと揶揄(やゆ)されることもしばしば。SNSネイティブ世代とのジェネレーションギャップによるところが大きいと思われるが、こうも敏感に反応されては、世のおじさんたちはどのようにネット社会を生きていけばいいというのか。

「おじさん構文」といって頭ごなしに否定されるべきではないが、ツールに合った文体を知っておけば、やり取りが円滑になるのは間違いない。今回は、日ごろ文章でメシを食っている編集部が、おじさん構文に“赤ペン”を入れてみる。できあがるのは目もそむけたくなるような悪文か、はたまた何度も読み返したくなるような美文か――? 検証してみた。

「おじさん構文」作ってみた!

そもそもおじさん構文とはいったいなんなのか。ネット上では、「絵文字、顔文字の乱用」、「句読点が多い」、「自分語り、セルフツッコミ」、「文章から透ける下心」などが特徴として挙げられる。今回は検証用に、その特徴をふんだんに用いたテキストをこちらで用意した。

登場人物は上司の“ブル山”と、後輩の“ブル美”。ある日の休憩時間、ブル美が「ゴルフはしたことないんですけど、興味はあります!」と話すのを聞いたブル山は、早速彼女をラウンドデートに誘うことにした……

いくつもの絵文字、顔文字で飾られた文面は一見、華やかで楽しげな雰囲気だ。しかし、情報量が多すぎるせいで、肝心の内容はほとんど入ってこない。社交辞令感MAXのブル美の返信には目もくれず、覚悟を決めたブル山の文章からは、競走馬顔負けの勢いすら感じられる。この2人が次に会社で顔を合わせるとき、いったいどんな空気になるのだろう。

同僚の若手女子社員に見てもらうと、「シンプルに読みにくい…」と苦笑い。「タピオカとか、無理に若者に寄せているように感じちゃいました。あと、『してあげる』はちょっと上から目線な気も。これが送られてきたら、私なら返信に悩みます(笑)」

そしてこの文章を校正するのは、GDOニュースチームのベテランデスク(記者デスク歴27年)。経歴から察していただけると思うが、デスクも立派な“おじさん”である。しかし、文章と向き合い続け、培ってきた目はプロ中のプロだ。きっと悪文を退治し、世のおじさんたちに光明をもたらしてくれるに違いない。いざ、開戦!

人の名を呼ぶときは『チャン』ではなく『さん』

デスクから返ってきた文章には、校正を意味する赤、赤、赤…。ここまで真っ赤だと、なんだかおじさん構文が赤い涙を流しているようにも見えてくる。

「『チャン』はカタカナである理由が分からない。普通に『さん』でしょう」とデスクは至極まっとうなことを言う。続いて「記事では使えないので…」と編集部ならではの理由から絵文字をカットし、それぞれ意味の通る言葉へ置き換えていく。

「😀🍀🎵は楽しくてラッキー、という意味? 🌸⛄の意味を解するのは難しいが、『桜もきれいで、もう寒くならないでしょう』と意訳してみた。『⤴⤴( *´艸`)』には照れるという意味があるらしいですね。シンプルに『!!』としました」。書き手の意思をくみ取るのもデスクの仕事だ。真意のほどは不明だが、デスクさすがの読解力である。

書き手としての基本がなってない

順調に進んでいた校正作業だったが、後半に入り、徐々にデスクの赤ペンが勢いを失っていく。「『(‘◇’)ゞ』はなぜここに入る? 元々は『了解』という意味で使われるらしいが…。こういうのは原稿を突き返したくなる使い方です」

ここからが本題と言わんばかりに登場する『( ー`дー´)キリッ』については、「どうして読み手が意味をすぐに分からないものを使うのか、書き手としての心得の基本ができていない」と眉間に深いシワを刻む。話を聞いていた筆者とその横に立っていたブル山(妄想)は、なんだか下手っぴな記事を書いて叱られたみたいに肩を落とした。

カッコ内の最後の一文については「ノイズ」と一刀両断。「ゴルフ初心者である『読者』には不要な情報。こういう余計な文章をバッサリ削るのも編集者の仕事です」。デスクの目に映るのはいつだって“見えない読者”の存在である。

編集部がガチ校正した「おじさん構文」がこちら

いかがだろうか。あんなにけばけばしかったおじさん構文は見る影もなくなり、プロによって磨き上げられた文章のみが残った。これならブル美も振り向いてくれるに違いない。この企画の締めとして、校正後の文章を前出の女子社員に見てもらうことにした。

「これもおじさん構文ですね…」。開口一番、女子社員はそう言った。耳を疑うひとことだった。どういうことなのか。

詳しく聞くと、「文章は読みやすくなりましたけど、やっぱり長い。それと、丁寧すぎて逆に言葉が強調されている感じがして、断る余地もないというか…。“ガチ感”が増した気がします」とのこと。これぞまさにおじさん構文のマトリョーシカ(?)。おじさんが校正した文章は姿かたちを変え、またべつの「おじさん構文」が誕生したのだった。

結局シンプルがいちばん

では結局、どんなメッセージが最適なのか? 「短く、さっぱりした文章がいいです」と女子社員は言う。「あと、できれば『みんなで』とあるとだいぶハードルは下がると思います」

アドバイスをもとに作成したのがこちらだ。

デスクの奮闘した時間はいったいなんだったのだろう。たしかにこれなら誘われた側も「行ってみようかな」という気になりそうだ。回りくどくするのではなく、自分の想いはストレートに伝える。昭和世代とか令和世代とかに関わらず、その点はいつの時代も変わらないのかもしれない。

編集後記

この企画を進めていたある日、帰りの電車の中で、ベビーカーに乗った赤ちゃんにじっと見つめられるという体験をしました。私が軽くほほ笑むと、赤ちゃんもニッコリ笑う。仕事の疲れが吹き飛ぶ可愛さでした。しかし…です。私はふと思いました。「この赤ちゃんが大人になるとき、私は立派なおじさん(現在20代半ば)。いつの日か、この子たちの世代が私の文章を『おじさん構文』と呼ぶのか…」と。それからは友人と連絡を取る際も「これはおじさんっぽいかな?」などと意識してしまうように。メッセージってほんとうに難しいですね。

Illustration : Masashi Ashikari

Edit & Text : Hiroto Goda

© 株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン