TBSがイギリスとバラエティ番組を共同制作~新作フォーマット『Lovers or Liars?』プロモーションの全貌~MIPTVカンヌ2024レポート【後編】 / Screens

日本のバラエティ番組が世界で再躍進をみせるなか、フランス・カンヌのTVコンテンツ国際マーケットMIPTV2024の期間中、TBS主催の特別セッションが現地で開催された。イギリス最大手のコンテンツ制作配給会社のAll3Media Internationalと共同で開発し、制作した新作フォーマットの『Lovers or Liars?』のプロモーションが行われ、番組をプロデュースしたAll3Media InternationalのNick Smith氏とTBSグローバルビジネス局の深谷俊介氏は制作裏話を語った。前編のレポートに続き、後編ではTBSが取り組む国際共同制作の狙いに迫る。

■世界的ヒット番組を持つイギリス企業とのタッグ

日本が世界第4位のバラエティ番組フォーマット輸出国であることを印象づけたMIPTV2024で、TBSがカンヌ現地で4月8日に主催したセッション「NAVIGATING JAPAN: INSIGHTS, CO-PRODUCTIONS, AND NEW FORMAT FROM TBS」のメインパートも盛り上げを見せた。その内容とはTBSとイギリスのAll3Media Internationalが共同開発・制作した新作フォーマット『Lovers or Liars?』の制作裏話だった。

TBS提供

All3Media International は世界中に40を超える制作会社を傘下に持つ巨大クリエイティブビジネス企業All3Mediaのグループ会社で、コンテンツ制作配給会社である。ドラマからバラエティまで受賞歴のある番組を数多く手掛け、代表作の1つにあるリアリティショー『ザ・トレイターズ』はイギリスBBCで2022年に初放送されて以降、“裏切り者”を推理する殺人ミステリー調の演出を持ち味にヒットを飛ばし、現在世界25か国以上で展開されている。

そんな世界的ヒットメーカーのAll3MediaとTBSが共同で開発し、制作したのが『Lovers or Liars?』(日本語タイトルの副題は「本物の夫婦はどれ?」)だ。真実の愛を見抜くという推理仕立てのスタジオゲームショーで、4組の夫婦の中に1組だけ存在する“本物の夫婦”をゲストの審査員がパフォーマンスに挑戦する様子をヒントに推理し、本物の夫婦を当てるゲームが展開される。共同制作した日本版(2話)は2024年3月にTBSの深夜帯で放送された(U-NEXTで現在配信中)。

今回のビジネススキームはTBSとAll3Media Internationalの両社が共同で開発し、All3Media Internationalが全世界(日本以外)の配給権を持つというものになる。

■会場で笑いが湧き起こる上々の反応

『Lovers or Liars?』の番組フォーマットの世界セールスは今回のMIPTVから開始されたところで、TBS主催のMIPTVセッションにはAll3Media Internationalのフォーマット&ライセンス担当エグゼクティブ・バイス・プレジデントであるNick Smith氏とTBSフォーマット開発チーフの深谷俊介氏(グローバルビジネス局)が登壇し、アメリカ最大手のエンターテイメント業界誌World Screen の編集長Mansha Daswani氏の司会でトークセッションが進められた。

Smith氏と深谷氏は『Lovers or Liars?』をゼロから共同で開発し、プロデュースしたチームの中心メンバーである。Smith氏はTBSとの共同制作した番組について「互いの意見を持ち合い、2つの異なる文化が融合されたことで、非常に満足できるものを作ることができた」と、その仕上がりに自信を持ち、深谷氏は「演出方法をお互いに学ぶことができたことが共同開発し、制作した最も良かった点だと思います」と振り返る。

TBS提供

セッション中、バナナマン・設楽統のMCで、アンミカ、小峠英二(バイきんぐ)、野呂佳代、秋山博康(元徳島県警捜査第一課警部)が審査員として出演した日本版の一部の映像もお披露目されると、会場の参加者の反応は笑いが湧き起こるほど上々だった。思わず推理したくなる人間の心理を巧みに利用した演出に惹きこまれるからだ。様々な国の参加者が集まるMIPTVという場所で文化や国境を越えて番組の面白さが伝わっていたと思う。

TBS提供

深谷氏は「非常にクリエイティブな番組フォーマットであることはさることながら、低予算かつスタジオで全てを仕上げることができる点も特徴にある。さらに、リッチなエンターテイメント番組にアレンジもできる。制作予算に応じて作ることができるのが『Lovers or Liars?』の強みだ」と、番組セールスのアピールポイントも説明していた。

■初の国際共同制作から得たものとは?

Smith氏と深谷氏に個別に話も伺わせてもらった。世界に売り出すためのバラエティ番組フォーマットを開発するため、深谷氏は「開発時に日本のみならず、世界の視聴者を意識することを心掛けた」と話す。そこで重要となるのが「普遍的なテーマ」だ。Smith氏は「他人の恋愛や結婚に興味を持つ人は国を問わず多い。その興味をテレビ番組に持ち込み、様々なカップルを通じて理解を深めることができる内容であれば、幅広い層の視聴者を楽しませることができる。『Lovers or Liars?』はまさに普遍的なテーマを持ち合わせた番組だと思う」と説明する。テレビ業界で20年のキャリアがあり、世界ヒット番組を手掛けるSmith氏の言葉には説得力がある。

だが一方で、国際共同制作作業は2人にとって初めての経験となった。確かなノウハウがないなか、開発を始めてから2年の月日を費やしたという。Smith氏は「日本とイギリス、どちらか一方に通用する番組であれば、もっと手っ取り早く制作する方法があるが、両方に通用するようなアイデアを出したかったので時間がかかった」と説明した上で「その価値は十分にあった」と自負する。

深谷氏もこれに同意し、その理由を語ってくれた。「Nickさんのアイデアをそのまま社内のディレクターに強要するような進め方はしたくなかった。Nickさんが追求していることを自分なりに解釈して、社内のクリエイターに伝えることを大事にした。つまり、日本のクリエイターが納得しないことはやらないというスタンス。なぜなら、互いのクリエイターが面白いと思わないと、面白い番組は生まれないからだ。そこに一番拘った」。バラエティ番組の現場で12年の制作経験がある深谷氏が橋渡し役も兼ねながら、丁寧に調整していったことがわかる。

苦労を伴いながらも、収録時は「最もエキサイティングした」とSmith氏は振り返り、「TBSのスタジオに入ってまず初めに思ったのはセットデザインの美しさ。そして、TBSの制作チームの素早く、効率的に撮影するプロフェッショナルな仕事ぶりに感心した」という。

次のプロジェクトも見据えている。Smith氏は「TBSのこのチームとまた一緒にやりたい。新しいアイデアは既にある」と話す。

「今回ほど時間はかからないだろうし、お互いのことを理解し合えたから、次は効率的にもっと大きな規模の企画を考えていきたい」と、Smith氏の前向きな言葉に続けて、深谷氏も「共同制作を1回で終わらせるのは正直勿体ない。信頼関係を築き、活かしていくことが重要だからだ」と力強く語る。

『SASUKE』をはじめ世界的にも成功したバラエティ番組フォーマットを持つTBSが今、国際共同制作という世界トレンドの手法を取り組み始めた先に狙いを定めているのは次なる世界ヒット番組であることは間違いない。開発から、制作、PRまで丁寧なプロセスを踏む背景には大きな野望が潜んでいる。

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