回復が遅れる家電市況の中、計画比10倍以上を達成したパナソニックの戦略商品とは

2023年度の国内家電市場は厳しい状況にある。

一般社団法人 日本電機工業会(JEMA)が発表した2023年度の国内民生用家電機器の出荷金額は、前年比3.8%減の2兆6544億円と、2年ぶりのマイナス成長となった。

外出機会がコロナ禍以前の水準に戻ったことで、旅行や外食などのサービス消費へとシフトしたことや、物価高騰により、消費者の節約志向が強まったことが影響したと分析。出荷台数は、電気冷蔵庫、電気洗濯機で3年連続の前年割れ、成長を続けていた電気掃除機も4年ぶりのマイナスとなった。その一方で、製品単価の上昇による出荷金額の押し上げ効果が見られたという。

為替のマイナス影響、市況回復の遅れで厳しい業績に

家電各社の2023年度業績も厳しい内容になっている。

パナソニックグループで白物家電事業を担当するくらしアプライアンス社の売上高は前年比1%減の8887億円、調整後営業利益は33億円減の495億円と、減収減益の結果。業績悪化の要因には為替のマイナス影響もある。

同社が得意とする理美容家電は、インバウンド需要もプラスに働き、前年実績を上回ったが、生活家電やキッチン家電は前年実績を下回る結果となっている。2023年度には、構造改革の一環として、調理家電関連の工場の閉鎖を行ったことも明らかにしている。

日立グループで家電事業を担当する日立グローバルライフソリューションズは、売上収益が前年比5%減の3738億円、Adjusted EBITAは同8%減の347億円と減収減益。ヒートポンプ式のドラム式洗濯乾燥機や、紙パック式コードレススティッククリーナーといった戦略的商品を投入する一方、収益性改善に向けた取り組みを進めているところだ。

シャープは、白物家電を中心としたスマートライフ&エナジーの売上高が前年比7.4%減の4413億円、営業利益は6.8%減の273億円と、同様に減収減益になった。国内で美容家電が大きく成長したものの、白物家電全体での需要が低調に推移。調理家電や掃除機、洗濯機などの販売が減少したほか、空気清浄機などでは流通在庫の抑制も進めたという。また、別カテゴリーに含まれる国内テレビ事業も、高付加価値化とコスト削減が進んだものの、市況回復の遅れが影響して、減収になっている。

ソニーも、テレビの販売台数が減少。これがエンタテインメント・テクノロジー&サービス分野の業績にマイナス影響となっていることを示した。テレビ事業では、費用削減への取り組みを進めているほか、大幅な在庫圧縮を推進していることを明らかにしている。

バルミューダは、2024年1~3月の四半期決算としての発表であり、売上高は前年同期比1.9%減の23億5900万円と減収。営業利益や経常利益、当期純利益では改善が見られたものの、赤字からの脱却はならなかった。だが、国内事業の売上高は前年比8.8%増の18億9000万円となり、増収に転換。同社が得意とするキッチン家電が増収となっているのは心強い要素だ。「ReBaker」などの新製品やリニューアル製品の投入が、成果につながった。通期黒字化の達成には手応えをみせており、下期に向けて複数の新製品を投入する計画も明らかにしている。

好調なダイキン、「うるさらX」中心に売り上げ拡大

一方で、好調な業績となったのがダイキン工業だ。2023年度の全社業績では、売上高、営業利益ともに過去最高を達成。国内の空調・冷凍機事業でも、前年比6%増の5887億円と前年実績を上回った。住宅用エアコンは、電気代の上昇や省エネニーズの拡大を背景に、「うるさらX」を中心に、ユーザーへの提案販売を強化して、売り上げを拡大。また、寒冷地での販売も好調だったという。

三菱電機も空調・家電事業は、前年比5%増の1兆4267億円となり、国内でも空調機器の需要が堅調だったとしている。

富士通ゼネラルも、全社業績では、2023年度は減収減益の結果となったが、国内空調事業は増収となった。2022年度には、中国・上海での都市封鎖の影響があり、供給の遅れが影響したが、2023年度は出荷が正常化したことで売上高が10%増と大きく伸長した。

エアコン事業は比較的好調に推移しているようだ。

国内出荷を押し上げる「戦略的製品」に期待

では、2024年度の国内家電市場はどうなるのだろうか。

JEMAでは、2024年度の白物家電の国内出荷額は、2023年実績を上回るとの見通しを発表している。

国内における実質賃金の上昇や、政府の総合経済対策の効果による消費マインドの回復に加えて、インバウンド需要の貢献がプラス要素となり、国内出荷金額を押し上げると見ている。また、国内出荷台数も前年並みの水準を維持するものと予測している。

成長が期待されているのは、前年夏の低水準の反動によって、プラス成長が見込まれるルームエアコン、大容量モデルの伸長などにより、単価上昇が見込まれる電気冷蔵庫、ドラム式洗濯乾燥機へのシフトが進んでいる電気洗濯機、コロナ特需からの反動減から回復基調にある空気清浄機、外出機会の増加やインバウンド需要による販売増加が期待される電気シェーバーなどであり、これらの製品が、国内家電市場を牽引すると予測している。

国内家電市場の回復の兆しが見られているのは確かだが、家電各社は慎重な姿勢を崩していない。その一方で、家電事業における構造改革が進展しており、コスト削減に向けた取り組みや、新たなアイデアを採用した製品開発が加速している。たとえば、パナソニックが、2023年9月に発売した手のひらサイズの電気シェーバー「ラムダッシュ パームインシェーバー」は、2024年4月時点の国内累計販売台数が10万台に到達。計画比10倍以上という販売実績をあげている。事業体質の強化を背景にした戦略的製品が、2024年度の家電市場の盛り上げにつながることが期待される。

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