日本は崩壊の危機に直面している…再び円安が進むとの不安が充満「5月に値上げされる飲食料品は417品目」

円安の進行は物価上昇の要因となる。モノの価格が上昇すれば、お金の価値は下がり、円安に向かいやすい。今、円安と物価上昇が国民を襲っている。政府・日本銀行による為替介入で円高方向に振れる場面が見られたが、効果は一時的との見方は根強い。日米の金利差を背景に円安ドル高は続き、実質賃金が下がる状況から抜け出せない状況だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「日銀が追加利上げに踏み切れば、企業の借り入れや住宅ローンの金利上昇につながる。それだけの『体力』が今の日本にあるのか拙速な判断は避ける必要がある」と見る。

再び円安が進むとの不安が充満

円相場は年初に1ドル=140円台で推移していたが、4月29日に160円台となり、1990年4月以来34年ぶりの水準を記録した。日銀の植田和男総裁は4月26日の金融政策決定会合後の記者会見で、円安が物価上昇に及ぼす影響は「無視」できるレベルとの見方を示し、円売りを招いた。

歴史的な円安水準を受けて政府・日銀は4月29日と5月2日に円買い介入を実施し、一気に円高へと振れた。だが、足元の為替レートは1ドル=155~156円程度(5月20日時点)で効果は限定的とみられている。介入原資も無制限というわけにもいかず、政府・日銀による“静観”が見透かされれば再び円安が進むとの不安が充満する。

多くのモノを輸入する日本は円安進行によって輸入品価格が上昇すれば、物価上昇の打撃を受ける。日銀が4月に公表した今後3年間の見通しを示す「展望レポート」によれば、消費者物価指数(生鮮食品を除く)は2024年度に前年度に比べプラス2.8%となる見通しだ。2025年度はプラス1.9%、2026年度はプラス1.9%である。

実勢との乖離がどのように作用していくのか警戒

この通りに推移すれば、日銀が目標として掲げる「2%」の物価目標は達成される。植田総裁は「全体のインフレ率は下がってきており、実質賃金、実質所得が改善の方向にあるということで消費が少し強い動きを示していくことに期待感を持っている」と指摘する。だが、賃金と物価の好循環が見通せる状況かと言えば、そう容易いものではない。

2023年の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年比3.1%アップした。2年連続の上昇で、1982年の第2次オイルショック以来41年ぶりの高い伸びだ。円安は原材料費の上昇を招き、家計の負担増は高まる。5月17日の日経新聞によれば、主要企業の2025年3月期の想定レートは平均で1ドル=約144円という。実勢との乖離がどのように作用していくのか警戒は尽きない。

約64%の企業が円安の進行は「利益にマイナス」

帝国データバンクが5月17日に発表した企業アンケート調査によれば、約64%の企業が円安の進行は「利益にマイナス」と回答している。適正な為替レートは「1ドル=110~120円台」が半数近くを占める。帝国データバンクは「円安は輸出企業の利益を押し上げる一方で、輸入依存度の高い内需型産業などでは原材料やエネルギー価格の上昇による物価高をさらに加速させる。

こうした上昇分を自社の商品・サービス価格へ十分に転嫁することは厳しいうえ、物価がいっそう上昇すれば家計の負担が増えて消費意欲が減退し、企業の 設備投資意欲も低迷する」とまとめている。

たしかに最近は大企業を中心に賃上げ率の高さが目立つ。経団連が5月20日に発表した2024年春闘の回答・妥結状況(第1回)によれば、月例賃金(定期昇給を含む)の引き上げ率は5.58%(1万9480円)と前年(3.91%)を上回り、1976年以降で最も高い引き上げ額となった。連合の春闘集計(第5回)でも正社員の賃上げ率は平均5.17%に上り、目標に掲げる「5%以上」を超える高水準となっている。

日本は追加利上げに耐え得る「体力」を持っているのか

ただ、問題は賃上げの波が小規模の企業まで行き届いていないという点にある。帝国データバンクが4月に発表した実態アンケートによると、3社に2社は「賃上げ率5%」に届かなかった。「3%増加」は22.0%、「2%増加」は12.4%、「据え置き」は16.6%、「賃下げ」は0.6%だった。小規模企業の賃上げ実施割合は65.2%で全体を大きく下回っており、企業規模によって格差拡大への懸念が高まる。

経済同友会の新浪剛史代表幹事は5月14日の記者会見で、円安が消費に与える影響について「仮に1ドル=160円を超えてくるようなことになれば、実質賃金がプラスに転換しても消費にプラスにはならない」と語っているが、まさにその通りだろう。厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査(3月分、速報値)によれば、実質賃金は前年同月比2.5%減少し、24カ月連続でマイナスだ。1991年以降最長で物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。

日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除に踏み切った。日銀が利上げし、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げしていけば日米間の金利差は縮小に向かう。そうなれば、為替レートは円高ドル安に転じるはずだ。問題は、今の日本が追加利上げに耐え得る「体力」を持っているのかどうかである。

岸田首相は「分厚い中間層」にフォーカスを当てる政策実現をうたっていたはず

三井住友銀行の福留朗裕頭取は5月20日、日経新聞と日本経済研究センターが開いた討論会で、利上げに関して「企業業績に及ぼす影響については、さほど悲観的になる必要はない」と述べている。ただ、利上げは企業の借り入れや住宅ローンの金利上昇にもつながる。景気が十分に好転しない中で追加利上げが進んでいけば、「体力」のない企業や国民は厳しい状況を迎えることになるだろう。

賃上げの実施状況が示す通り、これからの日本に待っているのは「格差拡大」にある。富がある人や企業はますます強くなり、逆に持たざる人や企業は弱体化していく。利上げは金融資産がある人にとってはプラスだが、ローン返済で利息が膨らむ人には大きなマイナスだ。岸田文雄首相は「分厚い中間層」にフォーカスを当てる政策実現をうたっていたはずだが、結果的に強者と弱者の格差は広がり、それは固定化していくことになる。

5月に値上げされる飲食料品は417品目

帝国データバンクによれば、5月に値上げされる飲食料品は417品目に上る。値上げ1回あたりの平均値上げ率は、5 月単月で31%となった。2024年の値上げ品目数は10月までの累計で7424 品目となり、年間の平均値上げ率は18%に達するという。原材料高を要因とする値上げが大半で、1ドル=150円台後半の円安水準が長期化または円安が進行した場合には、今秋にも値上げラッシュ発生が想定され、当初予想の品目数から上振れする可能性があるとしている。

歴史的な円安水準が長期化し、物価上昇によって実質賃金が下がる日本。非正規雇用や小規模企業にとってはより厳しい時代を迎えるのは必至だ。政府・日銀は目標としてきた「2%」の物価上昇が見えた今、利上げの副作用も考慮しながら難しい判断を迫られる。

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