親が身につけるべき「正しい話の聞き方・伝え方」10原則~⑦【「不登校」「ひきこもり」を考える】

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【「不登校」「ひきこもり」を考える】#23

先日、不登校の息子さんがずっと自室でゲームばかりしていて「親子の対話はまったくない」「このままでは大学にも進学できない」と嘆かれるお母さまがおられました。どんなゲームをされているのか?と尋ねると、「知りませんよ」「それどころじゃないですよ」とやや苛立たれました。気持ちはわかるのですが、逆なのだと思います。

⑦くだらないと思っても、相手の話したい内容や行動に付き合う

今、本人が一番熱中していることについても「ゲームだから」「アニメだから」と自分には関心が持てないと拒絶したり、子の現実逃避を増長させるのではと考えるのではなく、まずは「何がそんなに楽しくて熱中しているのか」--。そこから話を聴くことを始めてみてはいかがでしょうか。唯一の楽しみであるゲームの話すら安心して話すことのできない親御さんに、どうして心の内のデリケートな話をできるものでしょうか?

ちなみに健康な子ほど、動画だろうがゲームだろうが、ある程度楽しんだら飽きがくるものです。ずるずると一晩中、何日間もそればかりに打ち込んでいるという背景には、他のことにはエネルギーが湧かないとか、コンテンツ自体の持つジャンキーな依存性も寄与はしています。しかし、そこまで陥る背景には、そもそもポジティブな喜びや達成感も十分に深く感じられないので一次感情である満足感も満たされず、いつまでも飽きることができないという感情不全も無関係ではないということも留意したいものです。逆に親と一緒にその話題で楽しく時間を過ごせれば、そのポジティブな感度も高まり、他のことにも関心が向きやすくなっていく可能性もあるのです。

現在のパニック症やPTSDの治療では、基本は、回避しているネガティブな感情に向き合い慣らしていく「認知行動療法」が効果的な治療とされています。しかし、あまりにも傷ついてしまった繊細な方や、感情を感じるのが苦手な発達障害の方の中には、マイナスな話をしただけで頭の中が真っ白でわけがわからなくなってしまう「解離」という感情不全の状態を生じ、ネガティブなことは話すらできずカウンセリングにならない、というケースもあります。

こういった場合でも、ポジティブな話題を共有することで心が温まってくると、自然とマイナスな感情を感じられるようになり、ネガティブな話題が可能になるといったカウンセリング上のテクニックもあるほどです。心を閉ざしたお子さんには、一緒にプラス感情を共有し、それを深めるところから始めることは理にかなった方法なのだと覚えておきたいものです。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう) 精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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