富士山の写真スポットに「目隠し」 観光客対策で

シャイマ・ハリル東京特派員

観光客のグループが大きな手荷物を転がしながら、完璧な写真スポットを求めて雑踏の中を進んでいく。

観光客らはコンビニエンスストアの反対側の歩道に停滞している。しかし、ここは普通のコンビニではない。その後ろには、日本一高い富士山の絶景が広がっている。

雪に覆われた標高3776メートルの山は、お気に入りの「自撮り」や「インスタ映え」する瞬間を求める人々にとって、素晴らしい背景を形づくっている。観光客たちはまさに、望んでいたものを手に入れた。ぎりぎりのところで。

それから数週間早送りした21日の朝、この光景は失われた。かつてその絶景から混雑していた歩道の前に、クリケットのピッチほどの長さの黒いメッシュのスクリーンが設置されたのだ。

この目隠しは、信号無視やごみの投げ捨てをする観光客によって生活が妨げられているという、地元住民からの苦情の結果だ。

風光明媚(めいび)な富士河口湖町は、観光客の増加による影響を感じている。円安と新型コロナウイルスのパンデミック後の旅行ブームを受け、訪日外国人の数は今年3月と4月それぞれ300万人を超えた。

目隠しスクリーンは切羽詰まった措置であり、街並みや名所、独特の生活様式を守りながら、これだけの観光客を受け入れることに日本が苦労していることの表れでもある。

富士河口湖町は21日、あわただしかった。

当局は4月下旬にこの目隠しを設置すると発表していたが、1時間にわたる取り付け作業は、山梨県の山間の町への注目をさらに高めた。作業員がポールを設置し、スクリーンを張るワイヤーを引き上げるのを、カメラの山が見守った。観光客も、何の騒ぎかという好奇心から集まっていた。

もしこのスクリーンが観光客を排除するためのものなら、機能しているとは言えない。今はまだ。

取材する我々の側では、訪問者たちが目隠しの効果に疑問を持っていた。カザフスタンから来たユーリ・ヴァヴィリンさんは、「数日は持つと思うけれど、そのうち誰かが穴を開けて写真を撮るのは確実だと思う」と語った。

ヴァヴィリンさんは、富士山の素晴らしい写真が撮れなかったのは残念だと語ったが、明日また来て、目隠しの端から撮れないか試してみようと思うと語った。

生まれた時からこの町で暮らしているというイワマ・アキヒコさん(漢字不詳)は、こうした情熱に驚いている。自宅は、蛍光灯と「ローソン」の青い看板でおなじみのコンビニの反対側にある。

世界中から観光客を集めている火山については、「毎日窓から見ているから、特に何か言うことはない」、「当たり前のものだと思っていると思う」と語った。

しかし、ありふれたローソンが素晴らしい景色を背負っているこの眺めこそ、「とても日本的な」だと思われているものだ。インターネット上では、このコンビニは「富士山ローソン」として知られているほどだ。

イワマさんは、このスクリーンが最も決意の固い観光客を阻止するとは確信していない。歩道がなくなったことで、写真を撮るために路上に出る観光客が増えることを恐れている。

そして、それこそが問題なのだと言う。ルールを守るのであれば、観光客のことは気にすることはないと。

「車を全く気にしないかのように道路を渡っていて危険だ。あちこちにごみやたばこも捨てていく」

路上にごみ箱がほとんどない日本では、こうした行いは特に失礼で不注意だとみなされる。ごみは家に持ち帰って捨てるのが当然とされている。

目隠しスクリーンは、地元当局にとって最終手段だった。ある当局職員は今月、「ルールを尊重できない一部の観光客のために、このようなことをしなければならないのは残念だ」と語っていた。

他の、それほど強硬ではない対策も試された。道路に飛び出さないようにと、複数の言語で大きな道路標識を設置した。しかし、ほとんど無視されたという。

私たちが数週間前にこの場所を訪れた際には、事故防止のために地元の警備員が立っていた。警備員の一人が激しく笛を吹きながら、横断歩道のないところで道路を横切っている人たちに「止まれ」と叫んでいた。私たちがこの警備員に近づこうとすると、「集中させてください」と言って私たちを止めた。

道路では、カメラを手にした歩行者たちに運転手がいらいらしたようにクラクションを鳴らしていた。日本ではめったに聞かないものだ。この歩行者らはローソンの前に車を停め、通行の邪魔をしていた。

「誰かがこのローソンの前で撮ったクールな写真を投稿して、それが広まって、みんなが『あそこに行きたい』と思ったんだと思う。『同じ写真をインスタグラムに載せたい』と」と、アメリカから旅行でやってきたマディソン・ヴァーブさんは話した。

ヴァーブさんと2人の友人は、交代でポーズをとっていた。

インスタグラムやTikTokですぐにシェアされるであろう、フィルターを通した穏やかな写真とは異なり、3人の周りは混雑と緊張に満ちていた。

「人々が道路を横断するのを防ぐためだけに、ここで働いている人がいる。正気とは思えない」と、ドイツから訪れていたコラリー・ニーケさんは言った。

「ソーシャルメディアがなかったら、ここには来なかっただろう。この場所があることさえ知らなかっただろう」

ニーケさんは、たった1枚の写真のために群がる人々の多さに圧倒されたと語った。しかし、ニーケさんはなんとか「ローソンの写真」を撮り、ほっとしていた。

この周辺で犬の散歩をしているというカツマタ・キクエさん(73、漢字不詳)は、どちらの側にも同情すると話した。

「景色を見たり写真を撮ったりするためにわざわざやってくる観光客にはかわいそうだと思う。でもここは交通量がかなり多いので、事故が起きないか、皆とても心配している」

しかし、スクリーンが掲げられた今でも、観光客らはまだ、それが機能するとは確信していない。

オーストラリア人のマディー・ゴドウィンさんも、「みんな写真を撮るために道路に立つだろう」と、イワマさんの懸念に同意する。

大騒ぎする理由が分からないという観光客もいた。カナダ・トロントから来たワンディー・チョウさんは、「富士山の美しい写真を撮ることができる場所は他にもある」と言う。

チョウさんの息子のザカリーさんは、富士山がよく見える別の店を見つけたと話した。

しかし、その場所は明かさない。ザカリーさんは「みんなにそこへ行ってほしくない」と微笑みながら、次のシェアできる瞬間を考えている。

(英語記事 Japan blocks iconic Mt Fuji view to deter tourists

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