同性婚訴訟、相次ぐ「違憲判決」の先に立法はあるのか? 「男女間の社会的なジェンダー不平等の解消」への期待も

南和行弁護士(弁護士ドットコム撮影)と札幌高裁(PIXSTAR / PIXTA)

「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」

憲法24条1項にはこう書かれている。

同性婚を認めない民法などの規定は憲法に反すると訴え、全国6カ所で提訴された集団訴訟。札幌高裁は3月14日、「婚姻の自由」を保障する憲法24条1項について、同性間の婚姻についても保障するとした上で、現行制度は違憲との判断を下した。

この札幌高裁の判決を含めて、これまでに7つの判決が出ているが、憲法24条1項に違反するという判断は、札幌高裁が初めてだった。

昨年10月には、出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人が、戸籍上の性別を変更する際のハードルとなっていた手術要件について、最高裁大法廷は違憲だとする決定を下した。申立人の代理人だった南和行弁護士に、裁判所が「違憲判決」を出す意味について聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部:猪谷千香)

●画期的だった札幌高裁判決

——今回の札幌高裁の判決を含めて、これまでに7つの判決が出ていますが、その判断は「個人の尊厳に立脚した法制定」を保障する憲法24条2項や「法の下の平等」を定めた14条について、「違憲」3件、「違憲状態」3件、「合憲」1件と分かれています。そうした中、憲法24条1項に違反するとした札幌高裁判決は、どう評価すればよいのでしょうか。

なんの権利保障もなく、違憲であるということは、憲法24条2項や憲法14条から導きやすいのだろうと思います。そして、違憲だった場合は「立法はせなあかん」ということになるんですけども、ただ、憲法24条2項や憲法14条違反の場合は、男女の婚姻とは違う枠組みを前提とすることも許容されるので、国会の立法裁量は広くなってきます。

——札幌高裁判決の憲法24条1項の違反とは異なるわけですね。

憲法の中には、かなりダイレクトに、国会に対してこういう法律を必ず作りなさいと言っている条文があります。たとえば、憲法44条には国会議員の選挙制度について、「法律でこれを定める」と書いてあるようなものです。

しかし、憲法24条1項は、こういう婚姻制度を作れと具体的に言っているわけではありません。そのため、これまでは24条2項にある「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」という条文から、具体的な婚姻制度を考えていたわけです。そしてまた1項が、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」とあることから、裁判所も憲法学者も、もちろん同性婚を禁止するものではないけれど、同性婚は想定されていないということは受け容れざるを得ないと考えていたと思います。

ところが、札幌高裁判決では、確かに憲法制定時には男女のカップルしか想定していなかったかもしれないけども、日本国憲法の精神からかんがみれば、一体、なんのためにわざわざ婚姻制度をつくれと憲法がオーダーしているかというところに立ち返って、現時点で憲法がオーダーしている婚姻制度はなにかというところから、見ていかなければならないということを言っています。

そして、婚姻の目的は、人と人が寄り添って幸せに生きていくということだということからすれば、両性と書いてあろうが、なんて書いてあろうが、同性同士を含むカップルを法律上保護するというふうに24条1項を読み込まないといけない、憲法がオーダーする婚姻制度にそもそも同性婚が含まれるという結論を導きました。これはすごく画期的な判決だと思います。

●法体系にまで踏み込んだ札幌高裁判決

——今後の立法を考えた場合、24条1項違反はどうなるのでしょうか。

24条1項違反となると、非常に立法の裁量が狭くなりますよね。

これ以外の憲法違反だったら、たとえば男女のカップルはこういう権利があるけど、同性カップルには全く権利がないのはおかしいという話からのスタートになります。例えば、相続できる制度や、社会保障の優遇制度がないのは違憲だという指摘ですね。だから、「この権利だけ」「この部分だけ」を同性カップルにも保障するという、場面ごとの制度や立法で、憲法違反の状態を回避できることになります。

でも、24条1項違反だと、性別の組み合わせに関係なく利用できる婚姻制度でなければ憲法のオーダーに反する婚姻制度になるので、同性カップルだけの別立ての制度では憲法違反の状態は解消されません。この考え方は、法律において男女を区別することすら無意味化させる方向でもあり、法体系全体についても積極的に踏み込むものと理解しています。

ただ、最高裁が札幌高裁判決と同じ枠組みで判断を下すかはわからないですが、どっちにしても、憲法違反となった場合には、立法をしなければなりませんので、裁判所の違憲判断が確定したあとの国会の立法を見据えた違憲判断だと思います。

性同一性障害特例法の違憲の決定もそうなのですが、下級審だろうと最高裁だろうと、それを受けて具体的にどう立法しなさいと示すことはなかなかありません。

裁判所は判決文の中で、いろいろな提案はできても、実際に立法作用はありません。結局、国会にとっては、強制力の強い報告書が出たのと同じで、実際は国会が議論して立法するわけです。ですから裁判所が違憲判断の「先の立法」が見えない違憲判断を乱発することもまた、裁判所の権威の問題になってくるわけです。

ですから、裁判所が違憲判断をする際には、特に家族法や親族法の分野では、裁判所がその後の立法とのコミュニケーションをどう意識するかが大事だと思います。

たとえば同性婚について、同性カップルには権利がないからその部分だけが違憲であると裁判所が言ったら、国会が「最高裁がうるさいから、同性カップルも法律上の手続きをすれば、同じ名字になれて、パートナーが亡くなったら財産を半分相続できるような制度を作ります」と。

しかし、それでは違う枠組みで扱われるという点で格差が縮まっていないわけで、本質的な意味での平等ではないですよね。でも、24条1項違反といえば、これまでの両性のカップルと同じものをつくりなさいと言っていることになります。それを踏まえて、立法を考えていくフェーズになったと思います。

●今後は「立法」を視野に入れた判断が求められる

——「立法を考えるフェーズ」とおっしゃいましたが、具体的にはどのようなことが必要なのでしょうか。

いろいろな立場の方達が同性婚の法制度の私案をつくっているとは思いますが、本来は同性婚も踏まえて、婚姻制度や家族法の体系全体を見直す作業を、与党や法務省がしなければならないのだろうなと思います。

男女カップルや同性カップルだけでなく、さまざまな家族と法律の問題を今、日本で暮らしている人たちの生活に即した、本質的な平等を実現できる、なおかつ社会の今後の発展に寄与するような婚姻制度はどういうものなのか。そこまで考えないと、最高裁が違憲と判断しても、結局立法は何をしてもいいのかわからず、お茶を濁すようなことをして終わらせることにもなりかねません。

今後、最高裁で何らかの違憲判断が出るのではないかと思っていますが、特に憲法14条については、同性カップルに対する社会的な差別や偏見があるから、何も権利が保障されていないのは違憲であるということは言いやすいのではないかと。ただその時に、違憲判断の先にある立法について、もっと議論しなければあかんと個人的に思っています。

——札幌高裁の判断がもしも最高裁まで引き継がれたとしたら、立法はどうなるのでしょうか。

今、女性だけに求められていた再婚禁止期間が撤廃され、婚姻可能年齢も男女差がなくなっています。婚姻制度は、男女差をなくす方向で進化してきました。そうした中、札幌高裁の違憲判断に従えば、同性カップルも男女のカップルも違いはなくて、明日からでも男性同士、女性同士でも、婚姻届を出しにきてくださいというしかないわけです。

立法に対して、非常に明快です。ですので、もしも最高裁までこの枠組みで違憲判断が出るとすれば、立法を待たずとも戸籍の実務だけで行政が対応できるかもしれません。

僕は個人的には「それでもいい」と思うところもありますが、そうなると今の制度の中での男性同士の婚姻と女性同士の婚姻と、その使い勝手の違いが見えてきますから、今の婚姻制度が、男女間の不平等の上に成り立っていることが社会的に可視化されます。

多くの人がおっしゃっていることですが、同性婚の問題というのは、同性愛者など性的少数者の権利保障という側面だけでなく、むしろ男女間の社会的なジェンダー不平等の解消という側面があります。

裁判所、特に最高裁による違憲判断は、裁判の当事者の手を離れて、社会全体に影響を及ぼすものになります。同性婚訴訟の今後の最高裁の判断が、どのような形で具体的な立法を視野にいれたものとするのか注視しています。

あ! これだと、最高裁が「違憲判断をする」ことを当然の前提とした答えですね(笑)。私は、裁判の形で社会運動をすることに感覚がなじまないので同性婚訴訟には参加していませんが、自分のことそのものが判断の対象となる覚悟をもって臨まれている原告の皆さん、そして裁判所と当事者との関係だけではない、社会的なことまで意識して裁判を組み立てられている弁護団の弁護士さんたちのことを応援しています。

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