橘香堂 〜 倉敷の伝統銘菓「むらすゞめ」発祥の店。倉敷初のバームクーヘンやむらすゞめ手焼き体験もおすすめ

観光に行ったとき、土産物に何を買って帰るかも楽しみのひとつです。
できれば、訪れた土地に根ざしたものや、地域の人に愛されているものが良いですよね。

そして、倉敷美観地区を訪れて買いたい土産物の定番といえば「むらすゞめ」。

地域の人にも愛されている倉敷銘菓です。

そんな倉敷を代表する銘菓・むらすゞめを、製造・販売しているのが橘香堂(きっこうどう)。明治10年(1877年)に創業した、倉敷を代表する老舗菓子店です。

むらすゞめは橘香堂が考案し、創業時から作っている伝統の和菓子。
そこには創業者の「倉敷の地に名物を作り育てたい」という熱い思いがありました。

また、橘香堂は和菓子だけでなく洋菓子も作っています。しかも倉敷で最初にバームクーヘンを作った店なのです。

むらすゞめはもちろん、むらすゞめ以外にも魅力的な商品を製造している、倉敷生まれの老舗菓子店・橘香堂を紹介します。

橘香堂は明治10年創業の老舗菓子店

橘香堂 本店

橘香堂は、明治10年(1877年)に創業した老舗の菓子店です。

倉敷を代表する銘菓で、倉敷土産の定番となっている菓子「むらすゞめ」は、橘香堂で誕生しました。

むらすゞめは、橘香堂の初代である吉本 代吉(よしもと だいきち)が生み出し、明治10年の創業時から作られています。

140年以上の長きにわたって、地域の住民から観光客まで、多くの人たちに愛され続けているんです。

橘香堂 美観地区店

また橘香堂は、むらすゞめ以外にも多くの菓子を作っています。
和菓子はもちろん、洋菓子まで幅広く展開。

本店の店内のようす

特に、バームクーヘンは倉敷で最初に製造をしました。

橘香堂は倉敷市内を中心に、5店舗を展開しています。

美観地区店の店内のようす

橘香堂は倉敷市を中心に数店舗を展開していますが、倉敷中心部にある店舗は、本店美観地区店

店内には、むらすゞめなどの和菓子や洋菓子が数多く販売されています。

橘香堂が考案した倉敷銘菓「むらすゞめ」の歴史

写真提供:橘香堂

「むらすゞめ」は、倉敷の伝統文化に由来しています。

倉敷は江戸時代に物資の集散地で、川港として繁栄していました。綿などさまざまなものが運ばれていましたが、なかでも備中国でとれた米「備中米」も多く運ばれていたんです。

米のでき具合は倉敷住民の生活を大きく左右します。そのため毎年お盆のころになると、住民たちはイグサで編んだ笠(かさ)をかぶって踊り、豊作を祈願していました。

この豊作祈願の編み笠や稲穂をヒントに、初代 代吉がむらすゞめの形を思いついたのです。

豊作祈願で踊る人たちの編み笠が、稲穂に群がり羽根を広げているスズメのように見えることから、菓子の名前は「むらすゞめ(群雀)」と命名されました。

橘香堂のおすすめ商品

橘香堂では、数多くの商品を扱っています。

そこで、代表的な商品・おすすめの商品をピックアップして紹介。
なお「むらすゞめ」や「栗まん」など、複数の商品の詰め合わせもあります。

商品・価格は、2024年(令和6年)5月現在。価格は消費税込

「むらすゞめ」は倉敷を代表する伝統的な和菓子

橘香堂の看板商品といえば「むらすゞめ(1個150円)」。

倉敷土産、倉敷の食べ物といったら真っ先にむらすゞめが思いつくのではないでしょうか。

むらすゞめは、鉄板の上で生地を薄く丸く広げて焼き、その上に粒あんを乗せ、生地を半分に折ることで粒あんをくるんだ菓子です。

生地は、岡山県産の新鮮な卵特別にブレンドされた小麦粉など、こだわりの素材を使っています。生地を焼き上げたとき、表面に多くのプツプツとした気泡の穴ができるのがむらすゞめの特徴であり、ポイントです。

また、粒あんには北海道産の小豆を使用しています。

さらに橘香堂のむらすゞめは、全国菓子大博覧会で、以下のような賞を獲得しました。

  • 名誉総裁賞
  • 内閣総理大臣賞
  • 農林大臣賞
  • 茶道家元賞
  • 栄誉無審査賞

なお、むらすゞめは、茶道各流派の10月の菓子にも指定されています。

むらすゞめ(8個入)の包装
見た目も美しいのがむらすゞめの特徴生地表面の気泡の穴があるのもポイント
なかには、たっぷりの粒あん

むらすゞめを食べると、薄めの生地は想像したよりフワッとした食感です。
それでいて適度にシットリしていて、ほのかな甘味と卵の風味が楽しめました。

なかの粒あんもトロッとした舌触りのなかに、小豆のホクホクとした食感がアクセントになっています。
餡(あん)らしい、しっかりとした上品な甘さで、生地との相性も抜群。

甘党にはたまりません。

「栗まん」は大きな栗がまるごと入った饅頭

栗まん(写真提供:橘香堂)

和菓子のなかでは、むらすゞめに次ぐ人気商品なのが「栗まん(1個200円)」です。

栗まんは、名前のとおり栗を使った饅頭。
しかも、栗を1個まるごと饅頭のなかに入れたという食べごたえ満点の菓子です。

栗まんは、完熟してうま味のある柔らかい触感の栗を厳選しています。
しかも大粒の栗です。

固くならないように管理された栗を白あんにくるみ、さらに饅頭の皮にくるんで焼き上げたもの。

皮の生地の風味、白あんの甘さ、栗の食感と味が三位一体となったハーモニーが、栗まんの魅力です。

栗まん4入(写真提供:橘香堂)
栗まんは、饅頭にしては1個のサイズがなかなか大きめ
生地のなかには、白あんと栗が1個まるごと入っています

饅頭の皮は、しっとり感があり、香ばしさとほのかな甘さがありました。
なかの白あんはしっとりとしていて、上品な甘さ。

そして、ゴロリと入った大きめの栗は、ホックリしていて適度な硬さです。
栗の甘くマッタリとした味わいが、白あんや皮の風味と良く合います。

たしかに、私の家で法事があったとき、よく栗まんを持ってくる親戚がいました。

また観光客やビジネス客が、むらすゞめといっしょに購入し気に入ってファンになり、通信販売で栗まんを購入することもあるそうです。

「仲よし」は上品さと日持ちの良さで来客用のお茶請けとして人気

橘香堂では、干菓子(ひがし)も扱っています。

仲よし(18ヶ入530円〜)」という名前の商品で、長年地域のお客さんに愛されている商品のひとつです。

仲よしは、阿波和三盆を使っていて、食べると固い食感ですが、しだいに口のなかで溶けていきました。

トロッとしたなめらかな溶け具合と、優雅で上品な甘さを楽しめます。

一口サイズの小さな菓子で、薄い桃色と白色の2種類あり、見た目も上品でかわいらしい印象です。

▼入れ物もおしゃれで上品。

食べた後も入れ物として活用できそうです。

仲よしは、ひとつずつ紙にくるまれています
富士山型で、頂上にくぼみがあるのが印象的

橘香堂では、このくぼみを「えくぼ」と表現しています。
まさに、えくぼのようなかわいらしい見た目だと思いました。

「倉敷バームクーヘン」は倉敷最初のバームクーヘンで、2種類ある

倉敷バームクーヘン(写真撮影:戸井健吾)

和菓子のイメージが強い橘香堂ですが、実は洋菓子も作っています。

なかでも注目なのが「倉敷バームクーヘン」。橘香堂は、なんと倉敷でもっとも早くバームクーヘンを販売した店なのです。

橘香堂のバームクーヘンは、「ソフト」と「ピレネー」の2種類があります。

(左)ソフト、(右)ピレネー

どちらも岡山県産の小麦粉岡山県産の卵良質のバターを使用した、こだわりある逸品。
それぞれ買って食べ比べてみるのもおすすめです。

ソフトは、一般的なバームクーヘンと同じタイプ

いっぽう、ピレネーはバームクーヘンの発祥地であるピレネー山脈のふもとに昔から伝わる作り方や味を再現したものです。
いわばバームクーヘンの原型のようなお菓子。

倉敷バームクーヘン ソフト

バームクーヘンの包装です。

ソフトは、一般的なバームクーヘンの見た目をしています

ソフトは、ふんわりと軽やかな食感です。甘い味わいと香りが口のなかいっぱいに広がっていきます。

倉敷バームクーヘン ピレネー

ピレネーもソフトと同じ包装です。

ピレネーの箱を開けたところ
ピレネーは、周囲からヒダのようなものが付いているのが印象的見た目や色は、まるで木材を想像してしまうような個性があります

ピレネーは、ソフトよりも色が茶色っぽく、濃い茶色の線が太めで不ぞろいです。

また、発酵バターを使っており、とても濃厚な甘さとバターの風味が味わえました。

食感はソフトよりもやや弾力がある印象です。
モッチリとした食感で、噛むたびにバターの香りを感じました。

ソフトとピレネー、甲乙付けがたいです。
私の場合は、どちらかといえば甘くバターの香りがする、ピレネーが好みです。

美観地区店には喫茶コーナーもある

美観地区店には、喫茶コーナーもあります。

喫茶コーナーは、4人がけのテーブル席が3卓、10人がけのテーブル席が1卓。
10人がけの席は、混雑しているとき相席となります。

ホットコーヒー(450円)など単品のドリンク、むらすゞめとのセットニュー(550円〜)などがありました。

価格は、2024年(令和6年)5月現在。価格は消費税込

美観地区限定「むらすゞめ手焼き体験」は子どもに大人気!

美観地区店では、店内に体験用工房を備えており、むらすゞめの手焼き体験ができます。

店内に体験工房がある(写真撮影:戸井健吾)

手焼き体験は、通常サイズのむらすゞめ3個と、ジャンボサイズのむらすゞめ1個の二つのコースがあります。

▼手焼き体験は、特に子どもたちに大好評。

写真提供:橘香堂

作るときは、横で店員が実演してくれたり、教えてくれたりするので安心です。

▼クルッと丸めるときは、腕の見せどころ!

写真提供:橘香堂

▼「ジャンボむらすゞめ」は店頭で販売していません。手焼き体験限定のむらすゞめです。

写真提供:橘香堂

ジャンボむらすゞめは、通常のむらすゞめの約7倍の大きさ。
それにくわえて、なかに白玉団子が入るのが特徴です。

▼巨大なぶん、作る難度も高そう。

写真提供:橘香堂

大人も一生懸命に作っていました。自分で焼いたむらすゞめは、なんとなくおいしい気分になれるかもしれません。

取材中、出張中と思われる成人男女の集団が手焼き体験をしていたのを目撃。

大人でも子どものように楽しそうに、スマホで写真や動画を撮影しながら手焼きをしていました。また、海外からと思われる人もたいへん興味深そうに手焼き体験をする姿も。

むらすゞめの手焼き体験は、年齢や国籍関係なく楽しめるのが魅力だと思います。

むらすゞめ手焼き体験の申し込み手順

むらすゞめ手焼き体験(写真撮影:戸井健吾)

▼手焼き体験の一人分の料金は、以下のとおり。

価格は、2024年(令和6年)5月現在。価格は消費税込

手焼き体験の受付は、午前10時から午後4時までです。

小学3年生以上かつ身長130cm以上の一人で体験できるかたが、申込みできます。

手焼き体験をしたいときは、菓子売場の会計で店員に手焼き体験がしたいと告げ、料金を支払ってください。料金を支払うと、チケットを渡されます。

手焼き体験は支払い順におこないます。
混雑時は、体験工房の前で順番が来るまで待ちましょう。

順番が来たら体験工房で、店員にチケットを渡して、体験を始めてください。

近くにある本店もおすすめ

美観地区店のすぐ近くには、橘香堂の本店もあります。

本店があるのは、美観地区店から北(JR倉敷駅方面)へ約150mの地点。
倉敷中央通り(元町通り)沿いにあります。

本店は、美観地区店よりも扱っている品数が多いのが特徴です。

美観地区店からも近いので、ぜひ本店にも寄ってみてください。

橘香堂の商品はオンラインショップでも購入可能

橘香堂は、オンラインショップも運営しています。

一部をのぞく橘香堂の商品は、オンラインショップでも購入できるんです。

近くに橘香堂や橘香堂の商品の取扱店舗がない場合、ぜひ使ってみてください。

歴史ある倉敷銘菓「むらすゞめ」はもちろん、さまざまな魅力ある和菓子・洋菓子を製造している橘香堂。

そんな橘香堂の取締役で営業部長の田野 秀樹(たの ひでき)さんに、インタビューをおこないました。

橘香堂の取締役・営業部長の田野 秀樹さんにインタビュー

株式会社 橘香堂の取締役で営業部長の田野 秀樹(たの ひでき)さんに、橘香堂やむらすゞめの歴史、こだわり、倉敷への思いなどを聞きました。

インタビューは2020年2月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

むらすゞめは初代が「倉敷の地に名物を」との思いから生まれた

──倉敷銘菓「むらすゞめ」が生まれたきっかけは?

田野──(敬称略)──

むらすゞめは、橘香堂の創業者である吉本 代吉(よしもと だいきち)が考えました。

明治初年に「倉敷の地に名物を作りたい!」という思いから菓子作りを始めたんです。

試行錯誤を繰り返した結果、倉敷住民の豊作祈願の踊りをする人が被っていた編み笠や稲穂の色をヒントに、むらすゞめが生まれました。

実は「むらすゞめ」の命名者は初代ではないんですよ。名付け親は、当時の倉敷町長・林 孚一(はやし ふいち)。

明治10年(1877年)に菓子店を創業するにあたって、林薬品(現 エバルス)を経営するなど実業家としても活躍した実績のある林町長に、菓子の命名を依頼したようです。

林町長は、豊作祈願の踊りの編み笠がスズメに見えることから、菓子の名前を「群雀=むらすゞめ」と命名しました。

当時は、ほかにない独自性のある新しいお菓子だったと思います。

橘香堂の名前は日本の菓子の起源・タチバナに由来

──橘香堂という名前の由来は?

田野────

実は、橘香堂という名前も林 孚一 倉敷町長の命名なんですよ。

古代の日本では、菓子は果実でした。
特にタチバナ(橘)はとてもかぐわしい香りのうえ、四季を通じて実・花・葉のいずれかが手に入るので、菓子として利用されていたんです。

タチバナは菓子の起源ともいえるでしょう。

そこで「菓子の起源であるタチバナの香りのする店=橘香堂」と命名されたんです。

橘香堂のむらすゞめの一番のこだわりは「粒あん」

──橘香堂のむらすゞめのこだわりやポイントは?

田野────

生地ももちろんですが、一番は粒あんですね。小豆は北海道産です。

そして「あん」と、あんのなかの小豆の皮の食感のハーモニーを大切にしています。粒のほどよい食感を残した、独特の味わいなんです。

甘さも甘すぎず、ちょうどよい甘さだと好評ですよ。

あと生地ですが、むらすゞめ特有の表面のプツプツとした気泡の穴。
これは、もちろん橘香堂の初代が考えたもの。

これによってフワッとした独特の食感になります。この気泡を出すために、生地も工夫しているんですよ。

また、むらすゞめの形は橘香堂のむらすゞめが一番きれいだといわれますね。

バームクーヘンは婚礼品向けとして倉敷でいち早く製造

──橘香堂がバームクーヘンを倉敷で最初に販売したことについて

田野────

橘香堂では、昭和38年(1963年)ごろから洋菓子を始めました。
そのころ全国的に洋菓子店はまだまだ少なく、岡山県内でも数店くらい。

バームクーヘンも日本には伝わっていましたが、扱っている店はかなりめずらしかった時代でした。

そして昭和40年(1965年)に、倉敷で最初にバームクーヘンの製造・販売を開始したんです。

バームクーヘンは、婚礼用に販売を始めました。やがて、口コミでバームクーヘンの人気が広がっていったんですよ。

今では、橘香堂を代表する洋菓子ですね。

手焼き体験は子どもや訪日客から大好評

写真提供:橘香堂

──むらすゞめの手焼き体験について

田野────

もともと、美観地区店では通りを歩く人に見てもらうために、窓際で職人が手焼きをしていました。やがて、お客さんや社員から手焼き体験をしたらおもしろいのではないかという声が出てきたんです。

そこで、2000年代後半ごろから手焼き体験を開始しました。

お子様にたいへん好評で、春休みや夏休みなどの長期休暇の時季には、子どもさんでにぎわいますよ。

あとは海外からのお客様もとても関心が高く、人気ですよ。

もちろん、大人のお客様も楽しんでおられます。

──倉敷という地域との関わりについてや、今後の展望は?

田野────

橘香堂の初代は「倉敷に名物を」との思いで、むらすゞめを考え出しました。
そして、むらすゞめは地域のみなさまに愛されるようになり、倉敷を代表する名物になっています。

地域の人たちや、倉敷を訪れた人たちに愛されている、昔ながらの味を今後も守っていきたいですね。

そして、観光地という美観地区の特性を生かし、多くのかたに倉敷の地域伝統の味を知ってもらいたいなと。

実際に、遠方からでも橘香堂をご指名で注文されるお客さんもおられ、とてもありがたく思っています。

おわりに

倉敷に名物を作りたいという初代の思いは、今も受け継がれ、むらすゞめは倉敷を代表する銘菓・倉敷の定番の土産物に育っています。

地元では当たり前となっているお菓子に、ストーリーがあったと私は知りませんでした。

単に観光土産としてではなく、倉敷という地域にしっかりと愛されているむらすゞめ。
もっと多くの人に知ってもらえるとうれしいと思います。

また、橘香堂はむらすゞめ以外の商品を、あまり知らなかったのですが、橘香堂が倉敷で最初のバームクーヘンを作っていたと聞いて驚きました。

その倉敷バームクーヘンのピレネーは、甘く香ばしいバターの香りがたまりません。
ぜひ、倉敷バームクーヘンも食べてみてください。

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