ファストではないグルメバーガーが沸騰中 バンズの上からソースをかけるすき焼きバーガーも…新美食最前線

『Chillmatic』の人気グルメバーガー『チルマティックチーズバーガー ダブル』 撮影/編集部

牛丼にラーメン、カレーやピザ――巷で人々の人気を集めるファストフードは数あれど、「好きなファストフードは?」と問われて多くの人が「好き」と答えるのが「ハンバーガー」ではないだろうか。

そんなハンバーガー業界に現在、大変革の波が訪れようとしているという。若者文化や流行に詳しいトレンドアナリストの太田まき子氏に、近年のハンバーガー業界の盛り上がりを聞いた。

「今年の4月に東京・渋谷に韓国の人気ハンバーガー店『MOM‘S TOUCH』がオープンしました。韓国国内においてはマクドナルドを始めとする主要ハンバーガーチェーンを押さえ、国内ナンバー1の店舗数を誇る人気店。ロサンゼルスやバンコクなどグローバルに店舗を展開しているなかで今回、満を持しての日本初上陸です」(太田氏)

若者文化の流行発信地である渋谷は、現在ハンバーガーの激戦区。そんなエリアを“本拠地”にしようとしている店は、『MOM‘S TOUCH』に限らない。

「渋谷に、アメリカシアトル発のハンバーガー店『Lil Woody’s(リルウッディーズ)』が日本初となる店舗をオープンさせたのが23年8月のこと。今年4月には、ニューヨーク発祥のハンバーガー店『シェイク・シャック』もオープンしたばかり。若者都市である渋谷を中心にハンバーガーが盛り上がっているんです」(前同)

若者を取り込み、話題沸騰となっているというハンバーガー。中でも注目を集めているのが、和牛を使ったり、肉を挟むバンズなどにこだわり、見た目にもインパクトがあるグルメバーガーだ。グルメバーガーの特徴はどのような点になるのだろうか。

「まず重要なのは見た目です。たとえばチーズバーガーならチーズがバンズからはみ出るくらい乗っかっていて見た目にインパクトがあるとかですね。もちろん、食べにくいんだけど、それもグルメバーガーの醍醐味。手や口の周りを汚しながら、大きく口を開けてみんなで楽しく食べる。そういう雰囲気がグルメバーガーを販売しているお店にはありますね」(同)

グルメバーガーの平均的な価格は1つ1500円ほど。ファストフードのイメージとはかけ離れた高価格帯だ。この少々高級な価格設定も消費者心理をくすぐるのだという。

「消費者はこういう店にはファストフード店と同じ感覚では行きません。すこし背伸びをして自分へのご褒美という気持ちで向かいます。高価格な値段設定でも、そこにエンタメ性を感じ、“よし行くぞ”となるわけです」(同)

値段は高めでも、ハンバーガーという身近な存在にエンタメ要素を取り入れたというグルメバーガー。日常感のあるファストフードにはない“体験”を提供しているのが、消費者を惹きつける魅力の1つということだろうか。

■グルメバーガーのルーツは――

若者を中心に多くのファンを獲得していっているというグルメバーガー。かつて一世を風靡したご当地バーガーも、その系譜に連なるものだという。

「2000~05年頃に流行った、長崎県の佐世保バーガーですね。佐世保バーガーの特徴は“手作り”で“作り置きをしない”こと。これはグルメバーガーも同じです。

現在のグルメバーガーは佐世保バーガーの要素にプラスして、素材にもこだわっている。消費者としても、このハンバーガーはどこのお肉を使っているんだろうと気になるわけです。百貨店で行なわれる北海道展や東北物産展のような、ふだんは食べられない現地の食べ物が売っている物産展は集客がよいと言いますよね。消費者もそうしたノリで、特別なお肉を使ったグルメバーガーに注目しているのではないでしょうか」(前出の太田氏)

佐世保バーガーのような作り置きをしないハンバーガーが日本国内で誕生したきっかけは、1971年に銀座三越で開店したマクドナルド1号店にあるという。

「開店当社はアメリカの知らないお店が銀座にオープンしたところで流行るのか、と懐疑的な声も珍しくなかったそうです。ところが、これが大繁盛。それを見た飲食店経営者の中で、マクドナルドのような店を作りたいと考える人も出てきたといいます」(前同)

しかし、そこに大きなハードルが立ち塞がる。

「マクドナルドはハンバーガーの本場であるアメリカの一大チェーン店。ハンバーガー文化がない日本ではマクドナルドほど効率良く商品を作れない。そこで日本ならではのハンバーガーとは何かを考えた結果、佐世保バーガーに代表されるようなご当地バーガーが生まれていったんです。大量生産・大量消費をモットーとするマクドナルドとは真逆のコンセプトとなるご当地バーガーですが、これが次第に人気になっていきました」(同)

そんなご当地バーガーブームから始まった現在のグルメバーガー旋風。そして近年、その人気は高まるばかりなのだ。年間売上高が日本一の4000億円に達するとも言われる伊勢丹新宿本店でも5月15日から21日までの期間限定でグルメバーガー展『Iラブ(※ハートマーク)ハンバーガー in ISETAN』を開催していた。

伊勢丹新宿本店 撮影/編集部

■トレンドアナリストも注目するグルメバーガー最前線

伊勢丹新宿本店内で期間限定店舗を出店していたハンバーガー店は全部で5店舗。都内の店舗のみならず、なかには神奈川や金沢から出店しているハンバーガー店もあった。そんなグルメバーガーの最前線リアルを、現地に訪れた前出の太田氏が話す。

「1番人気は平日の昼間でも10人以上の人が並んでいた『SHOGUN BURGER』。ベトナムにも出店する『SHOGUN BURGER』の売りは店名の通り、和テイストを感じさせるハンバーガーです。

目玉は伊勢丹限定で販売された『すき焼きバーガー』(税込・2750円・イートイン価格・以下同)。温泉卵をソースに混ぜて、バンズの上からぶっかけて食べるスタイルは、すき焼きそのもの。バンズの間に挟まったネギや天ぷらとパティのバランスが絶妙でしたね」(太田氏)

温泉卵ソースをかけて食べる『すき焼きバーガー』 撮影/編集部

見た目にもインパクトがある『SHOGUN BURGER』だが、それに負けないインパクトを来店客に与えたのは、ハンバーガー激戦区・渋谷に店を構える『Chillmatic』。野菜を挟まず、熟成肉とバンズだけで勝負するそのスタイルは男性陣からの支持が高いという。

「商品名に店舗の名前を冠した『チルマティックチーズバーガー ダブル』(3190円)はボリューム満点。一口食べると口中を肉汁がジュワっと広がります。粒マスタードとチーズはバンズからこぼれ落ちそうで、見た目にもインパクト十分。SNSウケしそうです」(前同)

一方、海の幸を活かしたハンバーガーを売り出した店もある。海老カツバーガー専門店として神奈川県・川崎市内で店舗を出す『MaDelica』だ。

「分厚い海老カツがメインとなる『和風海老カツバーガー』(1509円)が看板メニュー。ソースには秋田名物のいぶりがっこを使用したタルタルソースを使っており、スモーキーでパンチがある。それでも不思議とグイグイ食べられるので、女性にもオススメですね」(同)

いぶりがっこタルタルソースを使った『和風海老カツバーガー』 撮影/編集部

ファストフードとはまったく異なるグルメバーガーが今、大きな盛り上がりを見せている。アメリカから伝わった食文化が、日本で熟成され新たなものに生まれ変わって世に出ていく――現在、日本の美食を味わいに来る訪日外国人は多いが、彼らをトリコにする逸品がまた生まれているようだ。

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