「歴史的な瞬間を目撃して」パリ五輪出場へ正念場のバレー日本女子、福岡・最終決戦の見どころを元代表の迫田さおりさんが語る

パリ五輪の出場権獲得を目指すバレーボール女子日本代表にエールを送る迫田さおりさん(撮影・永田浩)

バレーボールの国際大会「ネーションズリーグ(NL)」で、女子の日本は世界ランキング1位のトルコを撃破するなど1次リーグ第1週を3勝1敗で乗り切った。パリ五輪の出場権を得ていない日本は現在同8位。6月17日付の世界ランキングで五輪に出場する12チーム(7チームは決定済み)が出そろうため、北九州市の西日本総合展示場で開催される第3週の福岡大会(同11~16日)が、がぜん注目される。2012年ロンドン五輪銅メダリストの迫田さおりさんに見どころなどを聞いた。
(聞き手・構成=西口憲一)

―福岡でのNLでパリ五輪が決まる可能性がある。

「私は鹿児島出身で、福岡は新幹線だと2時間弱で行けます。九州の方々にとっては歴史的な瞬間を地元で目撃できるかもしれません。私も胸が高鳴ります」

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―既に五輪出場を決めたチーム(トルコ、米国、ブラジル、セルビア、ポーランドなど)と、日本など出場権獲得を目指すチームでは戦い方が変わってくる。

「6月17日付の世界ランキングで五輪出場チームと組分けが決まります。ランキング次第ではメダル獲得のチャンスも広がります。日本の眞鍋政義監督は、そこまで計算しているでしょう。このまま好調を維持して、仮に出場が決定的になっても、そこで『安心』ではありません。1試合も落としたくないはずです」

過酷な戦いを通してチームワークは育まれる

―トルコでの第1週に続き、5月28日からの第2週も海外(マカオ)での開催となります。

「心身の負担はあるでしょう。一方で過酷な戦いを通してチームワークは育まれます。その姿を福岡で見られるのも醍醐味(だいごみ)ではないでしょうか」

―2016年リオデジャネイロ五輪出場を決めた世界最終予選(東京体育館)もタフな戦いが続いた。特にタイ戦の最終第5セットは6―12まで追い詰められながら、8連続得点で逆転。最後の1点は迫田さんが決めた。この試合、チーム最多の24得点だった。

「覚えています。普通なら負け試合でしょう。第5セットは途中で『タイとスコアを逆にして!』と思いました。でも、何があっても負けられなかった。連続得点の間、サーブを確実に入れてくれた宮下遥さん(セッターとして岡山シーガルズを支え、今季限りで現役を引退)も素晴らしかった。選手、スタッフだけでなく、奇跡を信じる観客の皆さんの気持ち…会場全体が一体となって『1点』を積み重ねていく感覚でした」

―現在の日本はエースの古賀紗理那主将(NECレッドロケッツ)を中心にまとまっている印象がある。攻守の要でオールラウンダーの林琴奈選手(JTマーヴェラス)の存在も大きい。

「彼女はチームを稼働させるために外せない『歯車』です。いい意味で目立たないんです。レシーブやオフェンス…全ての役割を丁寧に果たしています。最初の1本を確実に拾い、つないで、時には自分でも決める。林選手がいなければ、チームは回りません」

空白が目立つ客席、女子バレーの「現在地」

―名古屋でも開催された昨年のNLはコロナ明けで盛り上がりが期待されていた。迫田さんも久しぶりに日本代表のプレーを試合会場で見た。

「空席が目立つ客席に『あれっ、これって代表戦だよね?』と、一瞬戸惑ったのを覚えています。ある意味、女子バレーの『現在地』を知らされました」

―新型コロナウイルス禍の影響に加え、メディアへの露出が減った現実もある。

「これまでのバレー界は恵まれていたと思います。代表戦をテレビのゴールデンタイムで取り上げていただくことも多かった。今は、それが当たり前ではなくなった。代表チームはもちろん、競技自体を知ってもらう機会も少なくなっていることを痛感しました」

―12年ロンドン五輪で銅メダルを決めるポイントを挙げた迫田さんは、バレーの魅力を「ボールだけはでなく、心をつなぐチームスポーツ」だと表現する。

「心は…コート外のファンの方々ともつながっています。選手やスタッフは張り詰めた毎日を送っています。会場に足を運んで、一人でも多くの選手を好きになってもらえたら、私もうれしい。皆さんの応援は必ず選手の耳に届いていますから。心は通じ合います」

吉本新喜劇を観賞、生の「箱」の中でしか

―ぜひ、試合会場で生の迫力も味わってほしい。

「話はそれますが、先日大阪に行った際、初めて吉本新喜劇を観賞する機会がありました。テレビで見たことがありますし、芸人さんの名前も知っています。それでも生は違いました。私は『知っていたつもり』だったんだなと実感しました。舞台に立っている方だけでなく、お客さんも含めて一体となっていました」

―お笑いもスポーツもライブ感こそが最高の楽しみだ。

「共通していますよね。自宅を出て会場に向かうまでの道中のわくわく感、さあ試合が始まるぞ、という高揚感…生の『箱』の中でしか感じられないものがあります。行動しただけの『充実感』を得られます。何ごともアクションを起こすって、大事だなと感じます」

パリ五輪出場の条件 世界ランキングで決まる残り5枠のうちアジアとアフリカの最上位に1枠ずつが割り当てられる。大会前の時点で世界ランキング9位だった日本は現在8位。事実上のアジアのライバルで、第2週で対戦する中国(6位)を上回れなかった場合は、残り3枠をイタリア(5位)カナダ(10位)オランダ(11位)などと争う。出場権を獲得しているのはトルコ、ブラジル、ポーランド、米国、セルビア、ドミニカ共和国、フランスの7カ国。なお、日本は5月28日からの第2週でブラジル、フランス、中国、ドミニカ共和国と対戦し、第3週では韓国、カナダ、セルビア、米国を福岡で迎え撃つ。

迫田さおり(さこだ・さおり)1987年生まれ。鹿児島市出身。鹿児島西高(現明桜館高)から東レアローズに入団。躍動感のあるバックアタックを武器に女子日本代表でも活躍し、五輪は2012年ロンドンと16年リオデジャネイロの2大会に連続出場した。17年に現役を引退し、現在はテレビ解説やバレーボールクリニックなどで活動している。「西スポWEB OTTO!」に、コラム「心の旅」を寄稿。スポーツビズ所属。

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