「POP YOURS 2024」フォトレポート LEX、Tohjiらが見せたヒップホップの可能性

国内最大規模のヒップホップフェス「POP YOURS 2024」が、5月18日〜19日に千葉・幕張メッセ国際展示場9-11ホールで行われた。

前回BAD HOPが解散発表をしたことで、“何かが起こる”見逃せないフェスというイメージがついたのか、チケットは一般発売で即完売。

3回目となる2024年は、LEXさんとTohjiさんがヘッドライナーをつとめ、LANAさん、Watsonさんといった実力ある若手アーティストと、シークレットで出演したYENTOWNや千葉雄喜さんのショットライブ、スペシャルアクトのOZROSAURUSなど、日本のヒップホップをリードするバラエティ豊かな43組がラインナップされた。

会場には2日間合計で3万5000人が来場。また公演の模様は今年もYouTubeで生配信され、総視聴者数は56万人。視聴回数は160万回を記録した。

ピーナッツくん、鎮座DOPENESS、Red Eyeらが初日から登場

DAY1はオープニングDJのMARZYさんが空気を作り、午前中からKviBabaさん、Lunv Loyal、Yvng Patraさんと実力者が目白押しで、開演直後から大きな歓声と合唱で会場が包まれた。

毎回スターを輩出している「NEW COMER SHOT LIVE」には、広島のJAKENさん、名古屋のクルー・L.O.S.T、Abemaの人気オーディション番組「ラップスタア 2024」への出演で話題のKohjiyaさんらが登場した。

昼帯には、VTuberとしても人気が高いピーナッツくん、強烈なリズム感とスキルで存在感を放ち続ける鎮座DOPENESSさんが観客を惹きつけた。

MFSさんはダンサーたちとスタイリッシュなステージをつくり、Bonberoさんは高速ラップで観客を魅了した。Benjazzyさんが客演した「B2B」ではすさまじい歓声が沸き起こった。

Red Eyeさんは「悪党の詩 Remix」でD.Oさんを招き、ライブの最後には2025年に自身初の武道館公演の開催を発表した。

JUMADIBAさんは満員の幕張メッセでも、いつも通りの飄々とクールなフロウを聴かせた。観客ともしっかりとコミュニケーションを取って、内に秘めたエモーションをラップで伝えることを楽しんでいるようにも見えた。

OZworld、YENTOWN、JP THE WAVY、LANAらも

続くOZworldさんは大舞台映えする壮大な世界観を見せた。“ゴジラのテーマ”を公式サンプリングした「RISE TOGETHER」ではAIさんも呼び込んだ。

その後、kZmさん、PETZさん、JNKMNさん、Awichさん、Money Horseさん、U-LeeさんがYENTOWNとしてシークレットで出演。新曲「不幸中の幸い」やそれぞれの代表曲をメドレーで歌った。

STUTSさんはスチャダラパーをフィーチャーした新曲「Pointless 5 (feat. PUNPEE)」などを披露した。

JP THE WAVYさんはラップとダンスを完全に融合させた、非常に完成度の高いパフォーマンスで、彼が音楽と真摯に向き合っていることが伝わってくる。マイクを握りながら、自身もキレのあるダンスを見せた。

LANAさんは圧巻だった。20歳とは思えない規格外のスケール。借り物ではない完全なオリジナル。日本産のソウルとブルースを体現した。

繊細さと大胆さを併せ持つ天才・LEXのステージ

JJJさんは魂がこもったスピットで観客の心を鷲掴みにした。韓国の人気ラッパー・BLASÉさん、Bonberoさんと制作した「YW」をはじめ、MFSさんとの「Mirror」などを歌った。「Beautiful Mind」ではJJJさんのラップにフィールした観客たちが自然とスマホライトを点灯させるシーンも見られた。

KEIJUさんはtofubeatsさんとの「Lonely Nights」からはじまり、BAD HOPのG-K.i.dさん、guca owlさんとの「Day N Night」などキラーチューンを連発して場内のテンションを上げに上げつくした。

OZROSAURUSは日本語ラップクラシックの「Area Area」、そして「Players' Player」といった楽曲で貫禄を見せつけた。長年シーンでリスペクトされ続けるには理由がある。重厚感ある言葉とラップはまさにスペシャルだった。演出は山田健人さんが行った。

DAY1ヘッドライナーのLEXさんは1曲目の「Gold」で宙吊りになり、LEDモニターに映し出された巨大な蝶の羽とシンクロ。観客の度肝を抜いた。

盟友・JP THE WAVYさんとの「なんでも言っちゃって」、5lackさんとの「5xL」、KEIJUさんとの「Psychedelic」「Mama's Boy」、そして妹のLANAさんと「明るい部屋」を届けた。

繊細さと大胆さを併せ持つ天才。音楽活動を通じてようやく22歳らしい溌剌さを手にいれることができたと感じさせる感動的なステージだった。

Kaneee、swettyら若き才能も躍動

DAY2はnasthugさんのエネルギッシュなDJで幕開けし、Kaneeeさん、7さん、Campanellaさんといったバラエティー豊かな才能たちが躍動した。

バイブス満タンで会場にやってきた観客たちは、今日も午前中から大合唱でアーティストたちを迎え、昼の「NEW COMER SHOT LIVE」にはCFN Malikさん、taroさん、swettyさん、lil soft tennisさんが登場した。

ピンクのウィッグをかぶったElle Teresaさんはセクシーでスタイリッシュなダンサーたちとパフォーマンス。「Boss Bitc」では7さんとともにフロアを沸かせた。

ラップ好きの男子と女子たちは、続くDADAさんのダークで攻撃的なドリル「Satsutaba」でも熱狂した。

午後は洗練されたDaichi Yamamotoさんから。JJJさんと制作したアルバム『Radiant』からMVが公開されたばかりの「ガラスの京都」などを聴かせた。SIRUPさんはグルーヴィンな楽曲と共に真摯なメッセージも届けてくれた。

kZm、CreativeDrugStore、tofubeatsも会場を揺らす

次は情熱的なkZmさんの出番。スマホライトでいっぱいになった幕張メッセに向けて「Dream Chaser Remix」「DOSHABURI feat. JUMADIBA」「Forever Young」をぶちかました。

さらに「POP YOURS」が企画したKMさんプロデュースによるKaneeeさん、Kohjiyaさん、Yvng Patraさんの話題曲「Champions」の初ライブも行われた。

CreativeDrugStoreのタイトなマイクリレーは圧巻だった。BIMさん、VaVaさん、in-dさん、JUBEEさん、dooooさんとソロで活躍する彼らは、9月に日比谷野外音楽堂公演の開催も発表した。

夕方に向かうこの時間帯は、前日も客演で大活躍したtofubeatsさんが「水星」でダンスさせたかと思えば、Yo-Seaさんは透き通る歌声で観客を癒しながらも高揚させる。

Watsonではじまり、Tohjiで締めたクライマックス

幕張の大舞台が似合う男・Watsonさんの登場から長いクライマックスがスタートする。徳島出身のワーキングクラスヒーローはもはや全曲で大合唱が起こる。

一方で都会のクールネスを突き詰めたIOさんもMonyHorseさんとの「City Of Dreams」や「TOKYO KIDS」でぶち上げる。サンプリングされた美空ひばりすらもみんなが歌った。

爆発寸前まで高まったテンションでJin Doggさんが「BLUE feat. PETZ」、そして「街風」を叩きつける。そしてYoung Cocoさんと「チーム友達 Dirty Kansai Remix」に流れ込んで、話題の千葉雄喜さんが満を持して幕張に。あふれんばかりのチーム友達と契りを交わした。

そしてその雰囲気をものともしなかったralphさんとguca owlさんに感嘆した人も多いだろう。2人はともに違うスタイルだがそれぞれのストイシズムを発揮したショウを見せてくれた。

頂点のさらに上まで高まった状態でDAY 2ヘッドライナーのTohjiさんへ。

前半のダークで硬質な『KUUGA』モードから、Elle Teresaさんとの「GOKU VIBES」、 kZmさんとは「TEENAGE VIBE」、Mall Boyz「Higher」といったハイエナジーなラップソングで幕張全体を踊り狂わせた。

ヒップホップの多様化をキュレーションした「POP YOURS 2024」

日本における現在の“ヒップホップ”とは、特定のサウンドやスタイルを表現する言葉ではない。サブスクリプションネイティブ世代にとっては、派生したサブジャンルとカルチャーを包摂した意味合いを持っている。

「POP YOURS 2024」はフェスというフォーマットを用いて、ヒップホップの多様化をキュレーションしてみせた。DAY1のLEXさんはロック的であり、DAY2のTohjiさんはレイヴ的だった。だが彼らはともに紛れもなくヒップホップだった。

43組すべて異なる個性を持ち、最高のステージを見せてくれた。会場に足を運んだ人たち、YouTubeの生配信を観ていた人たちは、日本のヒップホップの最前線で起こったクリエイティブな事件をエンタメとして目撃した。

多くの人が思ったはずだ。来年の開催が今から待ち遠しい、と。(文・宮崎敬太さん)

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